表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
十章 幻惑と決別
51/79

十章一節 - 風見の四兄弟

 風見(かざみ)領主と中州城主代理の謁見は昼過ぎから行われた。

 風見側は領主と黒羽(こくう)の月見宴に呼ばれていた長男と次男を含む三人の息子、中州側は与羽(よう)漏日(もれひ)大臣、絡柳(らくりゅう)辰海(たつみ)と言う面々だ。風見領主一族と中州の要人たちの親交を深めるのが目的だろう。もちろん、今後も相手国と良好な関係を気づきたいのは中州も同じだ。


 まず風見領主は、長男と次男の紹介をした。

 長男市偉(いちい)は三十一歳。顔立ちも服装もいたって平凡だが、落ち着いた賢そうな雰囲気が好印象だ。逆に次男の満喜(みつき)は、顔立ちこそ兄と似ているものの、体つきがしっかりして、活発な印象を受けた。長男が次期領主として文官を治め、次男がそれを支えるものとして武を受け持っているのだと言う。

 この場にいない三男は、国内の工芸や芸術発展のために風見中を巡っており、今は薫町(かおるまち)から遠く離れた場所にいるのだそうだ。


 そして、末席には四男醍醐(だいご)が座っているが、彼はどうも兄たちからの評判があまりよくないらしい。



「お兄方様とは、あまり仲がよろしくないのですか?」


 会談後、与羽は部屋に戻りながら、隣を歩く醍醐にそう尋ねた。

 二人以外近くには誰もいない。辰海たちはまだ風見領主やその長男次男と話を続けている。


「かなり直接的な問いですね」


 醍醐はそう面白がるような笑みを浮かべた。不快には思っていないようだ。

 それまではたわいもない話をしていたが、与羽はどうしてもそこが気になっていた。


「わたし自身は嫌いではないんですがね……。領主に息子は四人もいらないんですよ。国を継ぐ長男と、彼に何かあった時のための次男さえいれば……。()兄様――三番目の兄、厚志(こうし)兄様は、それにすぐ気付いて元服と同時に薫町を離れて、自分ができる範囲で国の繁栄に努めています。わたしも志兄様同様ここを出ればよかったのでしょうが、兄と同じことをしたくないと言う気持ちもあり、悩んでいるうちに今となってしまいました」


「でも、私たちをもてなしてくださったり――」


「たまたま、(いち)兄様も(みつ)兄様もいなかったからです。黒羽(こくう)の月見宴がなければ、おそらくわたしはちらりと一度あいさつをするだけだったと思いますよ」


「…………」


 与羽はかけるべき言葉が見つからず、醍醐(だいご)を見上げた。


「慣れているのであまりお気になさらず。さほど深く政務に携わらないのも、気楽でいいものですよ。そこそこ父や兄に手を貸しつつ、たくさんある空き時間で自由に遊びまわって」


 そう言う醍醐の顔は、確かに遊び人らしい軽薄な笑みが浮かんでいる。


「本当に――?」


「心の底から、今の放蕩(ほうとう)人生を楽しんでますよ」


 醍醐は与羽の問いを遮って答えた。


風見(かざみ)にはおいしい酒も料理も多いですし。中州や黒羽、天駆(あまがけ)華金(かきん)赤砂(せきしゃ)青原(あおはら)早瀬(はやせ)――、場合によっては遠く海を隔てて離れた外つ国のものも入ってくるんですよ。薫町(かおるまち)の女性は高貴で上品な人が多く、少し馬を飛ばせば花街のある大きな都市もあります。領主一族のはしくれですから、お金には困りませんしね。

 あなたもせっかく女性に生まれたのですから、無理に兄を手伝おうとせず、もっと気ままに生きてもいいんじゃないですか? あなたの場合、それで文句を言う人もいないでしょう?」


「それは……」


 与羽は口ごもりつつも、はっきりと首を横に振った。


「私は大好きな兄と中州のためにできる限りのことをしたいんです。守られるだけの姫ではいたくないので」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ