八章三節 - 石畳の街道
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黒羽の嶺分と、風見の都――薫町までは馬で数刻ほど。
二都市を結ぶ街道は馬が十頭横並びになっても十分通れそうなほど広く、整備が行き届いている。道の中央には浅い溝の掘られた石畳が敷かれ、その左右の土道も良く踏み固められていた。
この大所帯であっても、急げば半日で薫町まで行くことができたが、中州と風見の一行はのんびり行くことにした。
与羽は狭くて暑苦しい駕籠での移動を覚悟していたが、黒羽領主が牛と牛車を貸してくれた。広めの車内には、与羽と筆頭女官の竜月、さらに巫女の実砂菜と文官のラメがいる。
車輪が石畳をこする振動が伝わってきたが、思ったほどひどくない。
黒羽嶺分と風見の都――薫町を繋ぐこの薫嶺街道は、牛車を用いた移動を熟慮してある。
石畳に掘られた二本の溝の間隔は、牛車の車輪幅と等しい。そこに左右の車輪をはめることで、安定した移動が可能になる。牛車の前には箒を持った小姓がついて歩き、溝にたまった小石や砂を掃き出していた。
「牛車なんて初めて乗ったなぁ……」
軋む車輪の音に耳を傾けながら、与羽は感慨深げにつぶやいた。
振動を受けにくくするために、分厚い綿入れの上に座っているが、非常に快適だ。
「中州城下町はそんなに広くないから、移動手段に凝る必要がなかったんだろうね。牛車なんて乗る人もほとんどいないと思うし」
巫女の実砂菜が言う。
「車輪で土の道を通ると、すぐに路面が荒れちゃうしね。雨上がりにくるまを使ったら、あっという間にわだちができてぼこぼこになるの」
文官のラメが補足する。
「風見の主要な街道には全部くるま用の石畳が敷いてあるそうだよ。そのおかげで、風見国内では多量のものを安く運べるの。都市部に離れた場所で刈った薪を運んで、都市で出たごみや下肥を肥料として持ち帰ったり――。中州でもやってることだけど、規模が全然違う」
「いつだったか、風見の都市は都市ごとにいろんなものに特化しとるって聞いたけど――?」
「うん。それも簡単に物を運べるおかげ。綿花や藍、紅花なんかが良く集まる、織物と染色の町があったり、鍛冶屋や研ぎ師の町があったり、細工師の集まる町があったり――。材料と職人の多くが一つの町に集まる、ってことが良くあるみたい。中州でも、とても手の込んだ質のいいものは作れるけど、風見ではそのいいものをたくさん作れる。
華金は南の黒羽が止めてくれるし、周りに敵となる国もない。国土が荒れないから、どんどん農業や工芸をはじめ、色々な技術が発達する。いいところだよ。中州も風見の技術から学ぶことがあるみたい」
「へぇ~……」
与羽はラメから様々な情報が出てくることに驚いた。
「なんか、ちょっと辰海と話しとるみたい」
「古狐君と比べないでよ!」
ラメは慌てたように顔の前で手をぶんぶん振った。
「古狐君の方がもっと物知りだよ。私なんか、足元にも及ばないんだから! たぶん、来年の今頃には官位も古狐君の方が上になってると思うし……」
「それはないでしょ」
「ね?」と与羽は竜月と実砂菜を見た。




