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龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
一章 覚悟
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一章二節 - 惑う龍姫

辰海(たつみ)殿なら大丈夫ですよぉ。ちゃんと自分の準備は自分でされるでしょうし」


 あいかわらず、与羽(よう)の着物や装飾品を引っ張り出しながらも、竜月(りゅうげつ)は積極的に会話に参加してくる。


「それよりも、あたしは雷乱(らいらん)が心配ですっ!」


「は?」


 しかし、いきなりその矛先が雷乱に向いた。

 着物をより分ける竜月の手が止まったことに、与羽は内心ほっと息をつく。


「雷乱だって、同行するからには相応の格好をしていただきますからねっ! しかも、ご主人様付きの護衛官を名乗るからには、少なくとも上等な(かみしも)を着てください」


 裃は(はかま)と上着が一対になった礼服の一種だ。主に下級武官や一般庶民(しょみん)が正月や高官と会うときなどに着用する。

 雷乱は姫付きの護衛官と言っても、中州の官位を持っていないので、実際は庶民と変わらない。


「そんなめんどくせぇこと――」


「くどいようですが、中州とは違うんですっ! いくら雷乱が不良侍でも、ご主人さまに恥をかかせるようなことは許しませんっ!!」


 竜月は与羽のとき以上に力のこもった口調で言う。

 竜月が雷乱の説得に夢中になっているので、与羽は自ら荷造りをはじめた。着物や装飾品の中でも、家紋が入っているものや、青、黒、緑、紫など寒色から中性色の中州城主一族らしい色合いのものを選ぶ。

 旅は晩夏から秋が中心になりそうなことも考慮した。


 竜月の見立ては正確だったが、与羽には与羽の考えや好みがある。申し訳ないと思いつつも、竜月が見ていない隙にいくらかを抜いたり入れ替えたりした。


「あぁ。そうだ、竜月ちゃん」


 そして、それが一通り完了したところで、未だ雷乱に説教している竜月に声をかける。


「なんですかぁ?」


 竜月はパッと与羽の方を向いた。

 あまりの反応の速さに、「お前……」と雷乱が怒りとも(あき)れともつかない感情をにじませてつぶやく。


「雷乱のことも心配ですが、あたしはご主人さま命なんですっ!!」


 竜月が再度雷乱に向き直って、こぶしを固く握りしめる。ちなみに、仁王立ちだ。


 竜月の気が雷乱を向いた隙に、与羽は深呼吸した。

 時機を見て口を開くが、一度目は声を発することなく閉じてしまう。


「一時的なことなんだから、覚悟決めろよ」


 与羽は、小さくため息交じりにつぶやいた。


「ご主人さま何か言いましたかぁ?」


 与羽の声が聞こえたらしき竜月が、こちらを向く。


 今だ。


「お願い事があるんだけど、あとで聞いてくれる?」


 できるだけ軽い口調になるように努力した。


「今でも構いませんよー」


 ちらりと雷乱を気にしつつも、竜月は自分の(あるじ)を優先した。


「いや、時間がかかるから、夕方か明日以降で構わんよ。いや、出発前日くらいになるかも……」


「わかりましたっ! それではまた何なりとお申し付けください」


 穏やかにほほえむ与羽に、竜月は姿勢を正して、一礼した。

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