六章四節 - 野菜の饅頭
「ほー」
与羽は辺りを見回して、息をついた。できるだけいつも通りを心がけているのだ。
「気に入られましたか?」
斜め後ろに立っている泉烏羽近衛中将が、静かな声色で尋ねてくる。
「こうして全体を見おろすと、本当に大きな町ですね」
「このあたりでは、華金の玉枝京に次ぐ広さだと自負しております」
「すごい……」
そう言いつつも、内心ではこれよりも広いと言う華金の王都の事を考えていた。あそこには何人の人が住んでいるのだったか。確か十万人単位でいたはずだ。
この嶺分の町でさえ、十万人弱の人口を抱えている。
「また町のご案内もしますよ」
泉烏羽近衛中将がほほえんでみせたが、やはりその目は笑っていない。
淡々として冷静な人だ。もしくは、与羽のことを快く思っていないのか……。
「ありがとうございます」
それでも与羽は彼の目を見て、精いっぱいの笑みを返した。
「では、次に行きましょうか」
* * *
与羽の自由時間は数日続いた。
朝夕に黒羽の人々と食事をとる以外に決まった予定はない。朝食後、辰海や絡柳に今日の予定を話し、夕食後に今日の出来事を軽く報告さえすれば、自由に過ごせた。
泉烏羽近衛中将に時間がある時は、嶺分の町に下りることもできたが、与羽は屋内で過ごす方が好きだった。それも、銀龍や竜月、実砂菜、ラメ、千里など知った人だけでのんびり語らうことが。
我ながら、自分らしくない過ごし方だと思ったが、これが一番安心できた。与羽の姿を見て驚く人がいないから。
特に昼間の明るい中で知らない人と会うのは苦痛になりはじめている。
今では、誰のどんなしぐさにも敏感に反応してしまう。最初会った時、全く普通に接してくれた人や、嵐雨の乱で共に戦ってくれた黒羽の武官たちにもだ。
「乱兄に会いたいなぁ……」
中州の人々といるだけでも安心できたが、ごくたまに彼らのことさえ疑ってしまう。今の与羽の気持ちを一番理解してくれるのは、同じ髪と目、龍鱗の跡を持つ兄だろう。
「まだ中州城下を出て半月も経ってないけど?」
与羽のつぶやきを聞いて、冷笑を浮かべたのは大斗だ。彼は、あまり町へ出ない――出ても一部の安全な場所しか行けない与羽のかわりに嶺分の町へ出ては、与羽が好きそうなものを買ってきてくれていた。
今日の土産は、みそで濃く味付た野菜がたくさん包み込まれた饅頭だ。もっちりとした厚めの生地と、しゃきっとした歯ごたえを残した葉物の組み合わせが絶妙だったが、与羽はほとんどそれに手を付けていない。
おいしかったが、食欲がないのだ。
「まっ、その気持ちもわからないではないけどね」
少しむっとした以外にこれといった反応のない与羽を見て、そう付け足す。
さらに、一房だけ染めずに残している与羽の青くきらめく黒髪をすくいあげ、そこに軽く唇を押し付けた。




