一章一節 - 勇む女官
文官一位――卯龍から手紙が来たその日のうちに、乱舞と絡柳は正式な書状を作成した。
一行全体をまとめ、交渉を行う代表者として、卯龍の指示があった三位の大臣である漏日時砂。彼のもとで、五位の大臣――水月絡柳が実際に官吏に指示を出し、様々な事物の管理を行う。
中州の武官を率いる者として、武官二位九鬼大斗にも書簡を送った。
まだひと月前の戦で負った怪我が治りきっていないが、大斗本人は平気な顔をして、すでに以前と変わらない生活をしている。
また、大斗には卯龍の指示になかった主に護衛となる武官の手配も頼むことにした。
いくら地位と実力があるとはいえ、大斗は若い。彼がまとめやすい軍を、彼自身に作らせるべきだろう。
そして、城主代理となる与羽と、その補佐官として辰海。
与羽の筆頭女官を自称する竜月にも、正式に筆頭女官としての同行が指示された。
雷乱にも、城主代理専属の護衛官として招集をかける。
中州の人員は五十ほどにする予定だ。
今回送り届ける他国の武士たちが加われば、四、五百人ほどの大所帯になる。
* * *
「中州のお姫さまとして行くんですから、きれいな着物をいっぱい持って行きましょうねー!」
大人数の準備に時間が必要なため、出発まではまだ半月近くある。
しかし、書状を受け取ったその日から与羽付きの女官――竜月は張り切りっぱなしだった。今までは自称だったものが、正式に筆頭女官に任命され、舞い上がっているせいもあるだろう。
「いや、竜月ちゃん……。姫じゃなくて、城主代理だから――」
「同じようなものですっ! ご主人さまは、中州のお姫さまだから城主代理に任命されたんですよっ! だから、お姫さまらしく、城主代理の威厳も持ちつつ着飾らなきゃならないんですっ!!」
竜月はきつくこぶしを握り締めて、そう主張した。
「でも、そんなに派手に着飾らんでも――。荷物になったら大変だし」
竜月のいつも以上の勢いに、与羽は気おされがちだ。
「何をおっしゃってるんですかっ!? 確かに、中州では簡素でつつましい方が美徳とされていますが、他の国では違うんですよっ!? ご主人さまの髪飾りひとつで、『中州は貧しい国だ』と侮られる危険性だってあるんですっ!!
あたしも、ただ高価なものをたくさん身につけるだけの品のない飾り方は嫌いです。だから、ご主人さまには上品に、高貴に、優美に、みやびに、美しく、愛らしく、りりしく――」
「ちょ……。竜月ちゃん?」
「風流に、優雅に、凛とした感じで、つやっぽさもあって、若々しく――」
与羽が声をかけても、竜月は止まらない。与羽をどのように着飾らせるかひたすらつぶやきながら、衣装や装飾品を手当たり次第に吟味している。
「雷乱、何とかして」
少し震える声で、与羽は部屋の隅にあぐらをかいて座る大柄な護衛官に頼んだ。
「いや、無理だろ……」
雷乱は部屋中を動き回る竜月を目で追いながら応えた。額に汗がにじんでいるのは、真夏日の暑さだけが原因ではないのかもしれない。
「こういうことは辰海に頼めよ」
「辰海は書状を受け取って、すぐどっか行ってしもうたもん」
最後に見た辰海の顔がひどく厳しかったことが少し不安だが、彼には彼の準備があるのだろう。
半月前に訪れた盗賊の隠れ里の件も辰海が中心となって処理しているため、もともと多忙な日常を送っているのだろうし。
ちなみに、隠れ里からは先日中州に従うと言う回答を得た。村名は与羽の意見をとって、日輪と名乗るようだ。
日があまり差さない暗い土地に、後ろ暗い歴史のある、明るい光とはかけ離れた村だ。しかし、だからこそこれからは太陽のように明るく、輝かしく、温かな村になってほしいという願いが込められている。
現在は、彼らをどのように中州に組み込むか検討している段階だ。
その仕事も、中州に残る誰かに引き継がなくてはならない。
「忙しそうだもんなぁ……」
ぼんやりとつぶやいた。