五章五節 - 龍姫の動揺
「すごい姉上だなぁ……」
千里は、感心半分驚き半分といった表情を浮かべている。
「ですね……」とひきつつも、うなずく実砂菜。
ラメは赤面して目をそらしている。竜月はあきれた様子だ。
しかし、一番反応が大きかったのは――。
ゴン!
そんな鈍い音のあと、カランと固いものが床に転がった。
「あ! ご主人さま!! 大丈夫ですか!?」
すぐさま我に返った竜月が早口に叫んで、与羽に駆け寄る。
「だ……、だい、じょぶ」
与羽は軽く咳き込みながらもそう答えた。
「与羽ちゃんには刺激が強すぎたみたいだね」
与羽の様子を見た千里がそう評す。
先ほどの銀龍の問題発言と問題行動の瞬間、与羽はあまりの動揺に吹き出すやら、逆に息を吸ってしまったやら、肩をすくめるやら、こぶしを握り締めるやら――。さまざまな反応を同時にしてしまったのだ。もちろん意図的ではなく、反射的に。
そのせいで、体の自由がきかず、湯呑を強く自分のあごに叩きつけてしまった。
その衝撃で湯呑を手放し、今はぶつけた――もとい自分で殴ったあごをおさえてうずくまりつつ、気管に入った唾液のせいで咳き込んでいる。幸い、与羽はお茶のなくなった湯呑を口に運び続けていたらしく、着物も床もしみひとつない。
「与羽!」
竜月が叫んだ次の瞬間には、辰海も飛んでくる。
「あらあら、急にどうしちゃったの? 大丈夫?」とすべての元凶である銀龍ものんびりと寄ってきた。その心から心配そうな顔もしぐさも、育ちの良い高貴な娘そのものだ。
与羽の咳はすでにおさまりつつある。
あごは赤くなっていたが、傷にはなっていないようだ。
「あぁ、そうね。与羽もどれくらい成長したか確かめたいわ。すっかり女らしくなっちゃってっ」
「え……」
先ほどまでの辰海を見ていた与羽が、目を見開く。
「立って。あぁ、良かったわ。与羽には背を抜かれてない。腕はどうかしら?」
そして与羽を無理やり立ち上がらせると、おもむろに腕に触れはじめた。確かめるような触り方は予想以上に強い。
「まぁ! 与羽の腕もたくましいわ。細いのになんてしなやかなの! あぁ、そんなに顔を真っ赤にして目を潤ませて――。この腕を首に巻き付けられて、そんな顔で見あげられたらおちない男はいないわね! 胸が控えめなのが、少し残念ね。殿方にもんでもらうと大きくなるらしいわよ。私はもともと胸があったから、それで変わったのかよくわからないけど。
相手はいるのだから、早く祝言をあげてしまいなさい」
「相手って――?」
あまりに直接的な言葉に、耳まで真っ赤にしながらも、与羽は何とかそう問うた。
「辰海がいるじゃないの!」
「ちょ……、姉上!」
「私が与羽なら間違いなく辰海を選ぶし、私が辰海なら間違いなく与羽を選ぶわ」
銀龍はきっぱりと言ってのける。辰海は気が気でない。
「相手はともかく、まだ誰かのものになるつもりは――」
しかし、与羽はさほど気にした風もなく言う。いつもの無関心でぶっきらぼうな口調と態度を心がけているようだ。




