四章三節 - 嶺分城二の丸
与羽たちはその場所で止まることなく、さらに奥へと入っていく。
三の丸の内側にも石垣があり、さらにその上へと向かう。三の丸は細い道があったり、深く掘られた溝があったりと、敵兵が侵入した時、容易に上部にたどり着けないような複雑な構造にしてあるようだ。
塀の角には瓦屋根に漆喰壁のやぐらがしつらえられ、ところどころに隊舎が建てられていた。
城の最も外側の層は、敵兵のかく乱に加え、一部臣下の居住空間でもある。城の東部から入ってきた与羽からは見えないが、三の丸西部にはいくつもの屋敷が立ち並んでいる。
緩やかで長い坂を上りきると、城の第二層――二の丸にたどり着く。
こちらにはいくつもの屋敷が立ち並んで見えた。そのどれもが大きく立派な作りで、造り込まれた庭園がある。ここがこの城の中心となる部分。
現在見えているいくつもの屋敷は、政務を行う公的な場。その裏に黒羽領主やその家族の居住空間もあるはずだ。かつてこの場を訪れたことがある辰海から、規模は違えど、中州城とよく似た構造だと聞いたから、間違いないだろう。
それにしても、大きな屋敷だ。与羽は内心舌を巻いた。
威厳が失われない程度に目線だけ動かして、中州城との違いを見つけたいところだが、今はじっくり観察する暇はなさそうだ。
与羽は二の丸の屋敷の前に立つ数十人にも及ぶ人間を見た。ずらりと並ぶ彼らは、年齢も身分も様々だった。
弧を描くように並ぶのは、小姓、女官、城内警護らしき武官。
しかし、その中央部分にはぽっかりと空間が空いている。彼らの間から屋敷の縁側に集まった女性たちが見えた。誰もが重そうだがきらびやかな打掛姿で正装している。
そして、集まっている人々の最も前には、十人ほどの男性が立っていた。
中央最前面に立つ五十歳前ほどの男性がまとう大紋直垂には、大きく三つ足の烏が染め抜かれていた。彼がこの黒羽国を治める領主だろう。確か名前は、烏羽黄葉と言ったはずだ。
与羽たちの先導をしていた黒羽の上級官吏たちは、静かによってきた厩番に馬をあずけると、左右に分かれ、屋敷前の出迎えに加わった。
一気に緊張が頂点に達す。
与羽は落ち着きなく手の中の扇をもて遊びながら、駕籠の内側に置かれた鏡を見た。
この時のために竜月が全力で飾ってくれた姿に乱れがないか確認する。
緊張で少しほほが紅潮しているが、化粧に乱れはない。一部を頭の上でまとめ、残りを背へ流した髪も濡れたようにまとまっている。一房だけ染めずに残した青くきらめく髪はまとめあげた黒髪の中に隠してあった。
銀と青玉、翡翠で龍をあしらった髪飾りやかんざしもまっすぐだ。
耳飾りは普段しないため違和感があるが、鏡で見る限りおかしなところはない。
ずっと座っていたため着物に少ししわが寄っているが、これは仕方ないだろう。それでもできる限りしわを伸ばした後、与羽は着物の中州城主一族の家紋にそっと触れて息をついた。
帯飾りも大丈夫。
肩に羽織っている長い打ち掛けを深くかけ直す。




