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龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
三章 峠越え
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三章一節 - 森の民

 三日目から、華金(かきん)山脈を越える。華金との国境付近に商人や旅人が良く使う道があったが、万が一のことを考えて回避した。

 現在中州と黒羽(こくう)風見(かざみ)の一行が通っているのは、馬が二頭並んで通れるくらいの狭い山道だ。


 道が悪いので、騎馬兵であってもほとんどの人が馬を降りている。まだ乗っているのは、よほど乗馬に自信のある者と長く伸びた集団内を駆け回る伝令係、そして与羽(よう)くらいだ。

 山道に入った段階で馬を降りようとした与羽だが、絡柳(らくりゅう)に止められた。城主代理を歩かせるわけにはいかないと言う体面と、与羽ができるだけ疲れないようにと言う配慮によるものだろう。

 体格が良く筋力もある雷乱(らいらん)が、与羽の乗る馬を引いている。


 与羽を挟んで、雷乱とは逆側に並ぶのは森の民の少女――飛走蒼蘭(ひそう そうらん)だ。華金山脈を抜けるには、そこに住む森の民がいた方が何かと都合がいいと言うことで、辰海(たつみ)があらかじめ頼んでいたらしい。

 彼女の弟――月魄(げっぱく)は一行の先頭で辺りの安全を確かめながら進んでいるはずだ。


「今日は角湖(かくこ)まで?」


 与羽が蒼蘭に尋ねる。


「そう。角湖で一泊した後、竜山(りゅうざん)の北をぬけて昼に馬富(うまとみ)、そのあと国境の村――黒峰(くろみね)まで案内する」


 蒼蘭は精悍(せいかん)な顔に似つかわしい、毅然(きぜん)とした口調で答えた。


「黒峰で一泊して、黒羽ですか?」


 次に、振り返って、与羽のやや後ろを歩く絡柳に尋ねる。


「そうなるな」


「…………」


 その答えを聞いて、与羽は黙った。何かを考えているようだが、何を考えているのかは皆目予想がつかない。

 はじめて行く国に緊張しているのだろうか。中州以外で与羽が今まで訪れたことのある国は、天駆(あまがけ)のみ。天駆は中州同様、龍神信仰が行われ、与羽はその信仰の対象にもなりうる『次水龍(じすいりゅう)』――水主(みなぬし)の子孫だ。


 しかし、現在向かっている黒羽(こくう)は中州や天駆とは全く違うものを信仰している。

 与羽の容姿は、神聖なものではなくただ奇異な物として見られてしまうかもしれない。髪は染めたが、青紫の瞳や左ほほにある『龍鱗(りゅうりん)の跡』と呼ばれるあざは隠せない。


「その昔――」


 低めの声でつぶやいたのは天駆の神官――(ソラ)だ。

 長い前髪で鋭い目をかくし、弓を左肩にもたれかからせるようにして持っている。地味な旅装束をまとっているせいで、一見すると護衛の武官のようだ。しかし、その声はさすがに神官だけあり、美しい。


「神々の恩恵から外れてしまった土地がありました」


 彼が語るのは、中州や天駆に伝わる龍神伝説の最初の一節だ。

 数人のいぶかしげな視線が空に集まったが、空は気にしない。


「暇つぶしに物語でも――、と思いましてね。ここには、この物語を知らない他国の方や、旅人もいらっしゃいますので」


 確かに与羽たちの周りには、黒羽(こくう)風見(かざみ)の兵もいる。

 それに加え、中州城下町を出発したときにはいなかった、旅人や行商人もわずかに見受けられた。


 盗賊、野生動物――、旅に危険はつきものだ。特に、最近は(いくさ)が終わったばかりと言うこともあり、治安が乱れ、普段以上に危険が多い。

 その危険から身を守るために、一行の後方をついて行かせてもらうだけでかまわないので、近くにいさせてくれと声をかけてくる者がいた。

 数百人規模の集団を襲おうと考える盗賊も野生動物もいない。彼らの近くにいるだけで、旅の危険がかなり低くなる。

 数の力で危険を遠ざける手法は、普段から良く用いられているので、この旅の責任者である漏日(もれひ)大臣も想定済みだった。簡単な身元の確認は行っているが、快く同行を許可している。

 行動範囲の制限は行わなかったので、与羽の近くにも女性や子どもなど武の心得のないものを中心に集まっている。ここには与羽を守るために腕の立つ武官が集まっているためだろう。

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