二章六節 - 賢帝の称賛
「ありがとうございます」
辰海は絡柳にもそう言った。自信はあったが、実際にそう言われると安心できる。
「大斗の采配にも感心したもんだが……」
絡柳の言葉に、辰海は与羽の周りに集まる武官を見た。
八位――九鬼や一鬼に次ぐ有名武官家の次期頭首と目される五鬼葉金。紫陽大臣の夫で沙羅の父、九位の紫陽悠馬。
大抵二人一組で行動している十一位、山吹信仁と十二位、風見秋夜。
文官位も持ち、城下町にある学問所の講師も兼ねる黒沢狼騎。弓部隊を取り仕切る十五位――大地朱宇。
与羽の護衛官に任命された赤砂千里の隣で馬を並べているのは、彼女の夫――武官十六位赤砂和樹。
二十代半ばから四十代の実力あるものばかりだ。
いくらかは卯龍が指示したが、大斗が中州の武官を選んだと聞いていた。大斗や与羽の同年代――たとえば華奈や大斗の弟千斗あたりが中心になると予想していたが、全く違う。
「どーいうことですかぁ?」
そう尋ねたのは、後ろにラメを乗せた竜月だ。
文官準吏である彼女も、それを示す木玉が連ねられた飾り紐を身につけている。
「経験と体力を兼ね備えていることは最低条件だったが、それに加えて既婚者が多い点が助かった。まぁ、大した話じゃないんだが、こう言う外交で出てくる奴は、大抵地位があるからな。向こうの女官や官吏に見染められて言い寄られる危険性を減らしたいだけだ。
他国の――しかも上位に位置する奴に身内を嫁入りさせることができれば、政略の幅がかなり広がる。逆に、他国のそれなりに上等な家出身の女を妻にできれば、持参金も多いだろうし、後ろ盾としても心強いんだろう。中州も似たような手を使うしな」
「うちの話ですか?」
辰海が困ったように笑む。
彼の母は黒羽の出身。そして、姉は風見に嫁いだ。その恩恵がどれほどのものか正確に把握しているのは、辰海の父――卯龍のみだ。
「別に悪く言うつもりはないぞ。古狐のおかげで中州全体が助かっているからな」
「つまり、言い寄られたら面倒ですし、もっと過激な手段を使ってくる不埒な人たちがいるかもしれないってお話でよろしですかぁ?」
「……そこまでは言っていないが、まぁ、間違ってはいないな。野火女官も気を付けた方がいいぞ」
「あたしですかぁ? う~ん、確かにあたしの後ろに古狐がいるのは強いですけど……。あたしにはご主人さまがいますからっ!!」
竜月は硬くこぶしを握り締めて叫んだ。
「それに、一番危ないのは水月大臣じゃないですかぁ!」
「俺か? まぁ、本当に中州の利益になりそうな相手なら考えてもいいが……」
絡柳は真顔で言った。冗談には見えない。
「あぁ、与羽は何を言われても全部断れよ」
「中州の利益になる相手でもですか?」
「当り前だ。絶対に断れ」
多くは語らずに、強くそう言い含める絡柳。それが中州ではなく、与羽個人を思っての判断であることは、この場で話を聞いていた誰もが察している。しかし、それに異を唱える者はいない。
「わかりました」
与羽は素直にうなずいた。




