二章五節 - 冷王の自慢
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翌日も旅は続く。
五百名近い集団が長々と列をなしているのを、与羽は馬上から見渡した。彼女がいるのは列のほぼ中央だ。
前には中州の武官の一部と風見の騎馬兵と黒羽兵の一部が並び、後ろには黒羽の歩兵や荷馬を引く中州の下級兵が延々と続いていた。
中州の上級官吏の多くは与羽の周りにいる。万一の時、中州の城主代理を守るためだ。
与羽は自分の周りにいる人々を確認した。斜め前には大斗と絡柳。左右には護衛官の赤砂千里と雷乱。
斜め後ろに辰海と竜月、上級文官の漏日藍明――ラメと巫女の吉宮実砂菜が控えている。
辰海はもう上級文官を示す佩玉を隠していない。刀の脇に堂々と提げてある。
よく見れば絡柳の腰にも、龍があしらわれた五位の文官を表す佩玉。それが通してある銀糸の編み込まれた紐は、準吏を含め全官吏共通のものであるはずだが、心なしかきらびやかに見える。さらに刀には小さな玉の連ねられた武官を示す飾り紐もある。
大斗も刀を腰に一本、手に一本。手に持っている方の刀に武官二位と一位の飾り紐がつけてある。
「大斗先輩、それ――」
与羽は、武官一位を示す中州の家紋と龍が描かれた青玉の連なる紐を指した。
「いいだろう?」
大斗はこれ見よがしに青玉をもて遊んでみせた。
「親父から奪い取ってきた」
「『奪い取って』って……」
「正々堂々真正面から戦って取ってきたよ。まだ完全に俺のものになったわけじゃないけどね」
大斗の父親は武官一位――九鬼北斗。中州最強の男だ。彼と戦って勝ったらしい。
「まだ五分五分。八割俺が勝てるようになったら、譲ってくれるらしいよ」
与羽の驚きの顔を見て、大斗はそう付け足した。
「けが人が何をやっているんだ」
絡柳がため息交じりに言う。
大斗は、ひと月半前の戦――嵐雨の乱で大けがを負った。傷の多くはすでに回復しているだろうが、まだ本調子ではないはずだ。
「ふふん? 背に腹は代えられないってやつさ。何が起こるかわからないからね。持てるだけの力を持っとかなきゃ。武力だけじゃなく、権力も」
大斗が見慣れた軽薄な笑みを浮かべる。
その視線が自分に向いて、辰海は思わず身構えた。
「その点、古狐のそれは評価するよ」
大斗は辰海の佩玉を指している。
「あ、ありがとうございます」
褒められるとは、意外だった。
「人選もな」
絡柳も言う。
「上級文官の既婚者と巫女。地位的にも立場的にも申し分ない。与羽とも親しいしな」
彼が言っているのは、辰海が与羽のために同行させた漏日藍明文官――ラメと、吉宮実砂菜巫女だ。ラメは今回の責任者である漏日大臣の息子――アメの妻で、優秀な文官でもある。実砂菜は巫女であるとともに、武官位も持っている。
どちらも学問所で学んでいた時から面識がある友人だ。




