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龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
二章 出立
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二章四節 - 龍姫の本音

 ――僕は乱舞(らんぶ)さんじゃなくて、与羽(よう)を選んじゃったからね……。


 辰海は、少し眉根を寄せて言葉を切った与羽を見ながら思った。

 もちろん後悔はない。


「『少し――』なに?」


 言いたくなくて言葉を切ったのだとは分かっていたが、あえて尋ねてみる。


「少し――」


 与羽はつぶやいて、「んんー」とうなりながらその場にあおむけに倒れ込んだ。

「なに?」とせかすと、与羽は天井を眺めながら目を細めた。


「少し、残念かなぁと思わんこともない」


 ぶっきらぼうに言う言葉の裏に、どんな感情を隠しているのだろう。

 ちらりと向けられた与羽の目は鋭い。


「けど、絡柳先輩を追い落としてまで、上に行ってほしいとも思わん」


 その言葉を聞いた瞬間、辰海はわずかにたじろいだ。


 くぎを刺されたと思った。距離を置いた時期もあるが、幼いころから与羽を見てきた辰海は、誰よりも与羽のことを理解できる自信がある。しかし、与羽も同様に、ある程度辰海の行動や思考が把握できるらしい。

 今も、与羽が望むのなら、どんな手を使ってでも上に行こう、と策をめぐらそうとした瞬間にそう言われた。


「うん」


 辰海は与羽の脇に座り直して、彼女の前髪をそっとすいた。

 与羽は仰向けに寝転がったままだったが、旅の初日で疲れているのだろう。

 与羽は馬に乗るのが苦手だ。今年の頭に天駆(あまがけ)を訪れて以降、たまに練習していたおかげで、ある程度の乗馬はできるようになった。

 しかし、今日の与羽を見ていると、まだまだ不慣れで、ひどく神経を使っているようだった。疲労とともに、きっと体のあちらこちらが痛んでいるはずだ。


「疲れた?」


「少し……」


 辰海が問い、眠そうに瞳を閉じた与羽が短く答える。

 そうやって、たわいもない話をして過ごした。

 与羽もそれに合わせてどうでもいいような軽い質問をし、辰海も穏やかに答える。黒く染められた与羽の髪をすきながら。

 そして、その答えを聞いた与羽が、時々口もとにいたずらっぽい笑みを浮かべるのだ。


 そんなささやかなことが、とても幸せだった。


 本当は旅に同行する武官をはじめ、あいさつをしなくてはならない人がいるのだが、明日以降にしよう。


 与羽の疲労をいいことに、辰海はそう予定を組み直した。

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