何事もバランスって大事だよね
「それじゃあこの問題を火成頼んだ。」
「はい。」
「それとその問題も火成頼んだ。」
「はい。」
「ついでに次も火成頼む。」
「はい…。」
授業で生徒に答えさせるうちだいたい9割が俺へと飛んでくるという部長の予想通りの展開となった。他のやつらはいったいどんだけ適当に受けたんだよ!?昨日の答え合わせみたいな解答がクラス全体で行われたというのか!?べつに俺は特別成績が良かったというわけでもなかったのに…
もうわからないふりを続けようかな?答えられない人にいつまでも指名してこないだろうからな。
そして、いつも以上に疲れる授業も終わり帰りのHRが訪れた。
「えーと、連絡事ですが、皆さんもご存じの通り明日は体育祭ですので怪我なく元気に参加してください。これで…」
そうそう明日は体育祭……
「ってそんなん年間予定表に書いてないんだけど!?全然ご存じじゃないんだけど!?」
そもそもこんな入学したてで団結力とか皆無だわ。それとも体育祭で団結力を深めてくださいってか?その要求はハードル高すぎだろ…
「そうでしたか。春の体育祭は予定表から抜け落ちてましたか。では確認も済んだことですしこれでHRも終わりとします。」
「そんだけかよ?そもそも春のって何回も体育祭あるの?文化系の人にとってそれはけっこう酷なことじゃね?体力とかコミュニケーション能力とか?」
……………
「……皆さんさようなら。明日の体調にはいつも以上に気をつけてお帰りください。」
あっ、皆さんスルーですか…。かなりのやるせなさを感じがとりあえず部室へと向かおう。先輩からのアドバイスが参考になるかもしれないし。
閑話休題
俺が帰りの支度を終えたころには雪子の姿が見当たらなかったため、今日は一人で部室へと向かった。そして、部室に到着したのはいいが…、相変わらずこのドアを開けるのにはけっこう勇気がいる。果たして慣れる日が来るのだろうか…。まぁ慣れたときには俺の人格がやばいことになってるような。
今のところ部活以外で特にすることもないので興味本意で参加しているだけなんだよな。部員以外でろくな話し相手がいないのもあるが…。部員の中でもほとんど雪子だけなんだが…。
「うーす。……!」
「おー、やっと来たわね。今から明日の作戦会議を始めるからさっさとこっち来なさいよ。」
そういう部長の顔はいつも以上に真剣なものだった。出会って数日なのだからいつもがどんなんだがわからないことはひとまずおいておこう。
それほど部長の空気がピリピリしてるというのだけ頭に入れてほしい。
「えーと…」
「静雄さんこっちこっちー。私の隣に座ってください。」
俺が座る場所に困ってる所を雪子が声をかけてくれた。何故座る場所ごときに困ったかって?俺がおどおどするタイプだからというわけではない。
それは部室の中には5、60人ほど人が集まっており、一斉にこちらを向いての威圧的な態度に驚いたからである。俺の今までみた限りは20人ぐらいしかいなかったため、こんなに所属している人間がいたのかという驚きでもある。それに加えて、今集まってる大人数でも余裕をもって使えるほどの王宮にありそうな立派な机が部室の中央に存在しており、机の大きさと場の雰囲気に圧倒されていたからであり、どこにでも座るスペースがあったため上座など席次を気にしていたからでもある。
「それじゃあ、裏方以外も集まったことだしすぐに作戦会議に入るわ。
みんなはこれが何の会議かはもちろんわかってるよね?」
それもわからずにここにいる者はいないだろ?
「体育「「「他人を蹴落とし自らの有能性を示しな祭」」」祭っ!」
あれ?俺が間違ってた…?
「そうよ。一人を除いてみんなわかってるみたいで安心したわ。そう明日は『他人を蹴落とし自らの有能性を示しな祭』よ。
戦いは準備の段階で勝敗が決まるっていうのは有名なことよね。だから私たちは毎年このように作戦を考えているのだけどっ…」
だけど?
「約一名それをわかっていなかった人がいたのがショックだわ…」
「ちょっと、待て!そう一斉にこっちを見るな。間違えたことは素直に認める。ほんと済まなかった。いつまでも俺のせいで時間を無駄にするわけにはいかないから早く本題に移ろう。」
「…………、そうね。さっさと本題に移ろうか。」
その最初の沈黙はなんだ!?俺なんか間違ったこと言ったっか?
「それでまず今回で一番重要なことはあの自称天災科学者が体育祭当日は作戦実行に関わりません。」
「あいつが!?」
「おいおいそれじゃあ俺たちいったいどうすりゃいいって言うんだ!?」
「それもまた俺の宿命とやらなのか。ならばその宿命を果たしてみせる。」
え?そんなに重要な人なの?なんかいろいろ凄い人だとは昨日でわかったけどみんなのそのノリについていけない…。っていうか新入生の中でも事態の深刻さを知らないの俺だけ?何故他のやつらは入学したてなのにわかるんだよ。
それと今体育祭って言った?言ったよな?なんでみんなそこはスルーなの!?前半のインパクトに負けて後半聞いてないの?
「それでは部長明日はどうするんです?あの人が居なければ使える手段なんてそう多くありませんよ。」
「たしかにそれもそうね田中君…。だけどねっ、あいつからみんなにそれぞれの行動指示ををもらっているのよ~。
今から一人一人に作戦表を渡すから私に近い人から取りに来て。今から渡す紙はそれぞれ違った内容のその人専用の紙になるからなくしたりしたらおしまいだから気をつけてね。
あぁー、後全員に紙行き渡ったら作戦会議終了ね。」
「そんだけで作戦会議終了かよ!?これじゃあ具体性のないダラダラした一向に進まない会議のほうがまだ安心できるわ!作戦会議らしいこと何もしてなくね?」
「なに?私は今忙しいの!みてわからない?あいつが立てた作戦なら問題ないわよ。
それにねー、まだ何が起こるかわからないこのドキドキがいいんじゃない。
文句言ったから紙渡すの静雄君最後ねー。
もう面倒だし紙貰った人から帰っていっていいわよ。」
そうして待つこと10分、ようやく俺の番がまわってきた。
俺で最後だというのにまだ机の上には大量の紙が置いてある。その厚さはだいたい本一冊ぐらいだ。こうみえても部長って苦労してるんだな…。
「はいっ。残り全て静雄君のね。よろしく頼んだわよ。」
何その笑顔は?今日一日でこれ全部覚えろと?ずいぶんと鬼畜だな。他のやつらは紙1、2枚。多くても5枚ぐらいだったじゃん。さっきの俺の感心を返せ。
「大丈夫だよ。そう難しいことじゃないから。完璧じゃなくてもいいし、せいぜい8割頭に入れとけばいいだけよ。
それじゃ明日の体い…じゃなかった、えーと…『他人を蹴落とし自らの有能性を示しな祭』を楽しもうね。」
「もうぐだぐだじゃねぇか。いい加減体育祭って認めてもいいだろ?それにこの作戦用紙の量わかってる上で楽しめとかずいぶんと無茶ぶりが凄いな!?」
「うるさいわねー。こういうのはノリが大事なんだからいちいちつっこまない。そうやって人の墓穴ばっか掘ってると嫌われるよ。
それとねその作戦の量も別に大丈夫って言ってるじゃない。まったくもう静雄君は仕方ないなぁ。特別にひとつだけヒントをあげるよ。」
意味を間違えているところが気になるが、そこは墓穴を掘るじゃなく揚げ足を取るとかだと思うんだが。それでもアドバイス通りここはスルーしとくべきだろう。ここで指摘したらそれこそ俺が墓穴を掘りそうだしな。
「何だよヒントって?」
「それはねー、楽しむことが一番ってことよ!」
「何だよそれは?」
「もう教えられないよ。じゃあまた明日ね静雄君。明日絶対にサボっちゃダメよ。」
「じゃあなっ、部長。」
その後すぐ俺は部室を出て行った。部室から出ていく俺を部長は手を振って見送ってくれたが俺はそのまま気にせず帰っていった。その後寄り道をせずまっすぐ自宅へと帰ったんだが、そこまでして急いで帰ったのは膨大な量の作戦を少しでも多く覚えるためだとは言うまでもないだろう。
読んでくださりありがとうございました。