キチガイ村
この村にはキチガイしかいません、との立て看板の向こうに入ってみると、人が歩いてきた。「やぁ、歓迎するよ」と言っていた気がするけれど、彼は手を上げただけなので真意はいざ知らず。内心ビクビクしながらもトコトコ歩いて行った。
開けた場所に出ると、男女が二人、仁王立ちで目を最大限に開いて口をパクパクと開いている場面に出くわした。僕はうわっと思い、通りすがる瞬間に男を殴る。こいつらは殴ったらどうなるんだろう、そんな気持ちもあったし、確かめてみた。するとどうだろう、女が金切り声を上げて逃げ出した。なんだ、僕らと大差無い反応じゃないか。直ぐに男が立ち上がって僕を睨む。危険を感じたので相手の股間を蹴り飛ばして、悶絶している内に逃げ出した。
更に進むと、ここは中々文明が優れているみたいだなと実感することが出来た。木で建てられた家やコンクリートで舗装された道路が姿を見せる。歩行者も割りと多くてそれぞれがそれぞれ、僕を発見するや否や雄叫びを上げたり嬉々とした表情で躍り狂ったり、その内の誰かが笑いながら僕に近寄ってきた。
歓迎されているのだろうか? それとも、先程危害を加えてしまった女の報復の一環かな? 違うな、そうも見えない。それを確認すると、僕はここに住む奴等が一体どういう反応を示してくれるのか楽しみになった。「うひゃ、うひひあはひゃひゃひゃ」僕は笑う。コイツらがそうするように、真似して笑ってみせる「うひ、ぐひひへひゃはははははっ」と。ボカン。音がして、僕の頬が弾けた。
「きめぇから死ねよ」
ん? あれあれあれあれ? 殴られた? 僕は君達の真似をしたんだよ? え?
「キヒヒヒヒヒ、ヒヒヒイヒヒヒ」
僕は頬の痛みの原因を排除すべく、首根っ子を引きちぎる。鮮血を被ったけれど気にしてられない。うひいいひあががががががががががきがががげふぃぅぁっ。息が出来ないのか奇怪で気色の悪い断末魔。決めた、ムカつくから僕はコイツらを全員殺す殺スコロシてしまいまス。
様々な表情で僕に視線を集中させる住人に向かって、僕は宣戦布告した。
「にひ、きひきき、僕はキチガイぐき、ぐききききき」