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英雄にはならなかったとある冒険者  作者: 二月 愁
第一章 英雄の帰還
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交錯し始める運命5

感想などありましたらお願いします!

励みが欲しいので……

 この村にある一番豪華な宿屋の一室。部屋にはふかふかのベッドとソファー、テーブルの上には高そうなウイスキーと果物。俺がここ何年も泊まっていた安宿とは大違いすぎる。まさに天と地ほどの差がある。


(ここまで感謝されるとはな)


 今から数時間ほど前、村に戻った俺たちは村長に森の中であったことを全て話した。そして、そのまま村長と神父、そして村の若者数人を引き連れゴブリンたちの死体がある場所に戻り確認してもらった。

 確認というのは魔物を退治出来ているのかと、あの冒険者たちの身元であった。身元確認をしてもらった結果、この男たちは勇者だと名乗っていたらしい。それを聞いてルナは何とも言えない顔をしていた。村長たちも最初は驚いていたが、やはり途中から胡散臭い連中だと思っていたらしい。

 ところで、なぜ神父と若者たちに同行してもらったのには理由がある。殺された人間は適切に供養しないと一定の確率で不死者アンデットになってしまう。こいつらがまた厄介で、人を襲うし、叫び声で金縛りに遭うし、剣など物理攻撃が効きにくいと嫌らしい。なので神父に偽勇者ご一行の供養を依頼したのである。結局生前は会えなかったが、アンデット姿にしてまで会いたくもないし。

 そして、若者たちには武器や防具、その他使えそうなものを回収し運んでもらう役割のためついてきてもらった。このような物も放っておくと他の魔物に再利用されるので、回収できるものは全て持ち帰る。


 それらの一連の作業を終わらせ、あとは寝るぞと思っていたのだが、村長から感謝のしるしにもてなしたいのだがと提案される。確かに追いはぎや供養を終え、村に戻るとかなり賑わっていた。


「お二人が魔物を退治して下さったおかげで、花蜜採取が再開できますし、魔物に怯えないで済みます。それを村人たちは喜んでいるのです」

「村のために貢献できたのならこちらとしてもうれしい限りです」


 完全に建前でしかない言葉をとりあえず返す。実際には俺は一目散に逃げようとしていただけで、戦う気なんて無かったし、倒したのは生きるためでありしかも運が良かっただけ。


(だからと言って、わざわざ本音を言う意味はないし)


 嘘も方便と言うし、良い嘘もあると誰か言っていた気がする。良い嘘なのかは甚だ疑問ではあるがこの際気にしない。だからと言って、自分が持てはやされるのは好きじゃないので隣の人物に全てを任せるという暴挙に出る。


「しかし村長、今回魔物を退治出来たのは隣にいる我がご主人であり、魔法使いのルナ王女のおかげなのです。ヘスティア家の王女であるルナ様は今回の件をお一人で解決されたのです。私は単なるお付きの者ですので、感謝は全てこちらの王女殿下にお願いします」

「王女殿下でしたか、これは大変失礼しました。そして今回は誠にありがとうございます」

「へ?あ、あの……」


 俺の落とした爆弾の威力に村長もだが、ルナは大いに驚いている。しかし、これは致し方ないことなのだ。俺は目立ちたくないし、ゆっくり休みたい。その点ルナは多少面倒だが、個人としてもヘスティア家としてもプラスにしかならない。つまりこうなるのは自然の摂理なのだ。

 そもそも村人だって、男を誉め讃えるよりも美少女を讃える方がうれしいはず。すべてこれで丸く収まる……そのように勝手に結論付ける。


「王女殿下あとはお願いしますね。さて、村長私は少し休みたいのでどこか宿の一室をお借りしても……」

「大丈夫ですよ、案内させましょう」

 

 村長に呼ばれた40代半ばの女性に付いていく。横目でルナのほうを確認するとまだ事態を把握できていない様子で、茫然としている。それでも周りと会話をしているのはさすが王女と言ったところか。その様子を見ながらすまないと心の中で呟く。

 

 ルナを代理スケープゴートにしている間に俺が案内されたのはなんとルナが泊まっていた宿屋であった。この女性はここの従業員であったらしい。そのまま最上階の部屋の前にまで案内される。


「俺がこんないい場所使ってよろしいので?」

「はい、功労者なのですから。こちらのお部屋をお使いください」

「それではありがたく。あと、花蜜が欲しいのですが」

「花蜜ですね、後程お持ちしますね」


 フィンも今回かなり助けられたのでちゃんとお礼の意味を込めて花蜜をあげないと、忘れるとまた怪我が増える気がするし。そんなことを考えながら部屋を開けたら……豪華な部屋だったということだ。

 とりあえず突っ立てるのも変だし疲れているのでソファーに腰を掛ける。この感触、地面や床などとは比較にならない柔らかさ。もちろん最高級品と比べれば、こんなのカチカチなのだとは思うが俺にとっては過去最高と言っても過言ではない。


(ああ、眠くなるな)


 これは人をダメにするソファーなのかとアホらしいことを考えてしまうほど気持ちが良い。そんな下らないことを考えながらウトウトしているが、外の騒がしさに眠りに至ることはない。


(かなり喜ばれてるみたいだな)


 魔物が退治され、さらにお姫様まで現れればそりゃあ盛り上がらないほうがどうかしてる。外の盛り上がりを聞く限りではルナを功労者に仕立て上げた俺の判断に間違いはなかったようだな。


(もちろんルナには悪いと思うが、こんな冴えない男より断然良いだろ)


 俺は今までこのような祝い事に参加した経験が一度もない。そもそも人との関わることがあまりなく、ここ数年は希薄とであった。だから自分の容姿がどの程度なのか知らないが自己評価では中の中である。昔世界を旅していた頃は、多くの村で初対面の女性と仲良くなっていたのだが、決まって次の日になると女性たちは余所余所しい態度と挨拶になっていた。そのことを一度フィンに相談してみたのだが『マフユは悪くないからね、私がいるし』という疑問の残る回答と笑顔しか返ってこなかった。

  

 とりあえず容姿のことは置いておくとしても、俺は祝い事に参加したことがないからどのように振舞えばいいか分らないし、人が多いのも苦手なので参加したいとも思えないのである。


(そもそも俺が人界で生まれたのはかなり昔だからな)


 生まれてから人界で過ごした10年、正直言って何も良い思い出はない。その後もいろいろと巻き込まれ、いつも死にかけていた思い出しかない。知らぬ間に流れた時間、変わった風景、そんなもの俺にはどうでもいい。フィンとツルキ、この二人に会えたことが俺には最高の思い出だ。


「フィン、ツルキおいで」


 呼びかけると、二人とも外套の下から現れフィンは左肩に、ツルキは膝の上に乗ってくる。ツルキの頭を撫でながらフィンを見ると嬉しそうにこちらに微笑んでいる。


(二人がいてくれたから俺はあの旅を乗り切れた気がするな)


 俺の考えていることが伝わったのかはわからないが、フィンが俺の頬に寄り添うように体を預けてくる。その確かな温もりを頬でしっかりと感じる。


「私もツルキもずっとマフユの味方だよ。例えこれからマフユが運命から逃れられなくても……」

「ありがとな、その気持ちが俺はうれしいよ」


 その数少ない癒しの時間は花蜜を持ってきたおばちゃんによって終止符を打たれた。確かに頼んだのは俺だけどさ、もう少し癒されたかった。女性との関係が無く、そのような癒しがない俺にとっては唯一の時間だったのに。もう一度言うが決して俺はフィンをそのような対象として見てないからな、これは絶対信じていただきたい。フィンは花蜜の虜となり、俺は完全にアウト・オブ・眼中。


(はあ……服でも着替えようかな)


 今さらながら血によって赤黒く変色した外套と服を変えるために服を脱ぐ。右肩の傷はルナによって塞いではもらったのだが、完全には治り切っておらず痛みが激しく残っている。それに体中の切り傷に至っては治療すらされていないので、神経が直接刺激されるような痛みが全身に走る。


(ぐっ、だから戦闘は嫌いなんだよ。もう二度とごめんだ)


 一向に脱げないのでフィンに手伝ってもらいながら何とか脱ぎ切る。脱いだ服と外套をまじまじと観察してみると酷いものだった。元の枯草色が分らないほど変色しているし、見事に切り裂かれスカスカで肌を隠せていたのか疑問が残る。今までボロ布を着ていたようなものであり、すごく恥ずかしくなる。


(包帯巻いてなかったら完全に変態だったな。……いや、むしろ変態か?)


 変態について考察し始めるが、すぐにやめる。そんなこと考えても無意味だし、そもそも先ほどまでこの服装で外を出歩いていたんだし。それに外歩いていたとき誰にも何も言われなかったし、白い目で見られなかった。……うん、大丈夫としよう。そうしないと俺がメンタル的に辛いし。


 メンタルを守ったところで、ぼろ布と化した外套と服を同じ色の頭陀袋の中にしまう。今度雑巾にするためにしまうわけではない。この頭陀袋は特殊な袋で、魔法の袋と呼ばれる大変貴重な品物である。魔法の袋は使用者の魔力に依存し、収納できる物の量が決まる。よって俺がこの袋に仕舞える量はアホみたいに多く、無駄に多い魔力に感謝してしまう。


(まあ本当にコレしか本当に魔力を持っている意味がないんだがな)


 あれ、すごく悲しくなってきた。せっかくメンタルを守ったはずなのに結局大ダメージを負った気がする。本当に虚しくなるな、俺って意味ない存在にしか感じないよ。いかん、これ以上考えると絶対立ち直れなくなる気がしたので無理やり思考をカット・オフする。


 ところで話を戻すが、魔法の袋の中は時間が停止しているので中の物が劣化することがないので食材や生モノを入れておいても問題はない。これ以外にも大きな利点があり、中に物を入れると修復してくれるというすごい機能が付いている。なので、この外套と服も中に入れれば元通り修復されもう一度使えるのである。もちろん布製品に限られるが、俺にはありがたい。


(なんたって、服が何着もいらないし洗濯も不要で俺のような人間には最高の道具)


 旅の途中で何度これがあってよかったことか。服が何度も着れて経済的だし、最低2着あれば生きていけるという優れもの。……けち臭いとか思わないでいただきたい、倹約家と言ってほしい。

 

 誰に対するお願いかはさて置き、用意してもらった服に手を伸ばすが自分の身体を見て躊躇する。巻いてもらった包帯は真っ赤に染め上げられている。つまりこのまま着てしまうと、新しく着る服も明日の朝には赤黒く変色してしまう可能性が高い。


(めんどくさいが包帯変えとくか)


 10分の格闘の末に、足元には赤い布の山が出来上がっていた。その山を片手で摘み上げそのまま頭陀袋にしまい、代わりに真っ白な包帯を取り出す。それを巻くために一度体の傷の状態を見る。


(うん、やはり傷だらけだな。血まだ滲んでるし)


 今回の戦闘で負った傷はまだ半ナマと言った状態であるが、それを抜いても傷の量が尋常じゃない。引き締まった体には、山のような傷が古傷がいたるところに刻まれている。切り傷や火傷、貫かれた痕のようなものまでついていて、グロテスクである。


(こんな身体、女性の前じゃ見せらんねーよ。その前に見せる相手もいないけど……)


 やはり自分で思っていて悲しくなってくる。なんで俺はこんなに今日一日でメンタル的にもフィジカル的にもダメージを負わなければいけないんだ。外はあんなに楽しそうなのに俺は全然楽しくない。


(もう嫌だ、巻き直してふて寝してやる)


 フィンに手伝ってもらいながら、ちゃっちゃとと巻きなおす。これだけはずいぶんと手慣れたものだ。本当に悲しくしかならない。


(ふて寝の前にウイスキーでヤケ酒だ、チキショー)


 フィンにお礼を言い、手早く服を着直してウイスキーの瓶に手を伸ばす。ガラス製の蓋を外すと中からエステリー香が漂う。俺にはとても心地よい香りなのだが、俺の肩で花蜜を啜っているフィンには好みの香りではないらしく、嫌そうな顔をされる。


「これはフィンの好みじゃないか?」

「私甘くないの嫌い!まあ、マフユだから許してあげるけど」


 フィンに飲むお許しを頂いたところで氷の入ったグラスに注ぐ。この氷はフィンに魔法で出していただいたもので見事な球形をしている。こういうところは分かっているのでとてもありがたい。ツルキには干し肉を与え、フィンと乾杯して口に少し含む。口の中に芳醇な香りが広がり、それを飲み込むと体が一気に熱くなるのが分かる。この熱がとても心地よく、傷が癒されてる気になる。もちろん治ってなどいないのだが。 

 もう一口飲もうとしたところで、ドアがノックされる。


(……誰だ?もう頼んだものはないはずだが)


 少し考えるが、わからないのでとりあえず「どうぞ」とだけ答える。もちろんこの間にフィンとツルキには隠れてもらうように目配めくばせしてある。別に隠すようなこともないのだが、あまり人前に晒したくない。

 

「失礼します」


 控えめな声で入ってきたのはある意味予想外の人物だった。

 確かにこの村で俺の知り合いは一人しかしない。だが、その人を思いっきり持ち上げて、今ここでくつろいでいる身としてとても申し訳ない気持ちとともに会いたくないとも思っている。主にどんな文句を言われるかたまったもんじゃないし。


(……とりあえず謝罪するしかない)


 部屋の入口に立ったまま動こうとしないルナ。扉全開とまではいかないが、開いている状態で謝罪の言葉をするのはいろいろとまずい気がするので中に入ってもらうように促す。

 ルナは躊躇いながらも言うとおりに部屋に入ってきてくれる。


(……ん?これってもしかしてヤバいのか?)


 主に俺が連れ込んだ格好に外からは見えるんじゃないかなど考えるが、大丈夫だと自分に言い聞かせる。フィンも誤解はしていないだろうと隠れている方を見ると、目を背けたくなるような黒いオーラが視える。


「えーっとフィン、怒ってるのか?」

「別に怒ってなんかないよ」

 

 極上の笑顔でそんなこと言われても信じられるはずがない。背後にはなんかオーガなんて目でもない鬼が見えるし。

 前には極上の笑顔で阿修羅と化したフィンが、背後にはどんな文句で罵られるか分かったもんじゃないルナ。下手したら死刑とか宣告されてもおかしくないことしてるし。ってか、前も後ろも死刑台がある状況にしか感じられないのはどうしてなんだ……。

 

(とりあえずこうなればルナに謝るのが先決だな)


 謝罪すべくルナのほうに体を向ける。後ろから尋常じゃないプレッシャーを感じるがこの際仕方がない。二人からの裁きを素直に受け入れよう。


「お怪我のほうは大丈夫ですか?」

「……へ?」


 頭を下げ謝罪し、全ての、あまねく文句で罵られる覚悟をしていたのだが、予想外の言葉がかけられた。予想外過ぎたために言葉を理解するのに時間がかかり返答までに間が空いた。


「怪我って俺の話?」

「それ以外に怪我をした人はいないと思いますが」


 確かにあの戦いにおいて怪我をしたのは俺しかいない。俺以外はみんな後方で防壁魔法によって守られていたのだし、当然と言えば当然なのだが。


「えーっと……怒ってないのか?」

「怒るって誰にですか?」

 

 心底不思議そうな顔で質問を返されてしまった。確かにルナをよく観察してみると怒っている様子は見てとれない。女心が分からない俺でも、怒りや憎しみ、特に殺意なんかはよく分かる。それだけに物凄く困惑してしまう。 


「俺が全部ルナに押し付けたこと怒ってないの……か?」

「そんなこと怒るはずないじゃないですか。私はマフユさんに助けられたのですし、戦いのときは何もできませんでした。ですので、マフユさんのご負担が減るのでしたらあれしきのこと引き受けて当然ですので」


 本当に自分が卑しい人間だとつくづく思わされてしまう。こんな優しいにあんな押し付けるなんて……だが、今さら嘆いても仕方ない。なのでここは彼女の好意に甘えさせてもらう。


「ありがとな、ルナ。おかげでゆっくり休めるよ」

「いえ、お役に立てたなら幸いです」

「ところで、君の目的は達せられたということでいいのか?」


 あんな結果となったが、俺の中では一応今回の勇者を見定めたいという依頼は完了なのだが、依頼人であるルナに聞いてみた。だが、ルナの顔はなぜか険しくなった。いや、どちらかと言えば落ち込んでるって感じか。


「そ、そうですね。私の依頼は完了です」


 最後のほうはほとんど聞こえないような声で告げられた。そのままルナは「おやすみなさい」とだけ告げて俺の部屋から去って行った。

 俺としてはこれで全てが終わり、また自由気ままに旅を再開できると喜ぶべきところなのだが、どうしてもそんな気分になれなかった。彼女のさびしそうな背中を見てしまったからなのか、それともこの件において俺のすべきことが残っていると心のどこかでわかっているからなのか。

 どうするべきかわからないまま、ベットに潜り込み浅い眠りに落ちていった。

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