幕間 多様な英雄像:笑わない少年
昨日のPVが1000を超えた記念の幕間です。
物語にはたいして関係のない話です。
冥王が人界を支配し始めたころ、少年は生を受けた。
しかし少年は独りだった。誰からも愛情は注がれず、むしろ存在を認識されないかった。暗黒街――――少年はそこで独りで生きていた。誰にも助けられず、生きるために必死だった。
この時から少年の心は破綻し始めていた。それでも人間らしい感情は持ち合わせていた。
それから人間には悠久ともいえる時間が流れた。
人界では、人族と冥王の手下たちの熾烈な戦いが起こっていた。各地で大なり小なりの争いが起き、大地は荒廃の一途をたどっていた。
激しい戦闘の最中、とある冒険者の噂が流れる。曰く、神々しい姿となり悪鬼羅刹を討ち勝利へ導く救世主。
各地の戦場に現れては冥府の者どもを討ち、血の雨を降らせていた。人々はかの者をいつしか勇者と呼んでいた。
勇者と呼ばれる少年は、常に最前線で武器を振るい、血に塗れ染まっていた。その姿を見た者は"冷血な勇者"や"無常なる勇者"と恐れを抱いた。少年の身なりのくせに命を奪うことに些少の躊躇いもせず、顔色一つ変えない姿が人には見えなかった。あどけなさが残る顔には感情が無くなっていた。ただ分かるのはあどけなさが残るということだけで、顔が思い出せない。
勇者とは謎の存在にもなっていった。
それはともかく、少年に感情が無かったわけではない、ただ運命が少年の感情を奪った。
愛情が与えられず、血を嫌というほど浴び、命をひたすら奪った。少年は優しいが故に笑顔を失った。
少年は笑っていたと話すかもしれない、だが実際は笑っていなかった。その顔に笑みがこぼれることは決してなかった。旅の相棒ですら笑顔を見ることは無かった。
笑わない少年――――それは後に英雄と呼ばれる者の一面である。




