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英雄にはならなかったとある冒険者  作者: 二月 愁
第一章 英雄の帰還
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新たなる旅路5

今回はいつもよりちょっと長めになっております!

 目に映る風景は全て同じ、黒くくすんだ骨と腐敗した肉を纏う不死者アンデット。灰色の空も、赤く焦げた大地も見えない。見渡す限りの冥界の者たちの手下。

 正直嫌な臭いしかしない、腐った肉や骨、体に染みついた生臭い鉄の臭い。既にこの旅を始めた当初から、いやこの世に生を受けた時から頭はおかしいのだが、ここにいると余計におかしくなる。

 

『……はぁ』


 思わずため息が漏れる。両手にあるミスリス製の剣はもうボロボロで使い物にならない。足元に目をやれば、折れた聖槍に砕けた戦斧、弦の切れたエルフィムの弓が見える。

 全て退魔の力を持つ珍しい武器、この装備を買うだけでいくらしたか。


(まあ金なんてどうでもいいんだがな)


 少なくとも一人で千を超える敵は屠った。にも関わらず、戦闘を始めた時と風景が一向に変わらない。この有象無象どもを操る冥界の4貴族の一人を倒すべくここに来たのに、その相手が見当たらず流石に苛立ちがピークに達し始めている。

 どれだけここで武器を振るっていたか分らなくなってきた。1時間かもしれないし、1年かもしれない。


(……もう考えるのが面倒だな)


 両手に持つミスリス製の剣を近くにいる不死者アンデットの顔面に目掛けて投げつける。不死者は謎の呻き声を上げながらボロボロと塵に変わる。

 しかしそんなことは正直どうでもいい。首から吊るされているメダルを握る。

 メダルには正十二角形が刻まれており、それらの頂点を結ぶように十二芒星が刻まれている。その各頂点と中心に様々な色の石が埋め込まれている。


『慈愛に……の守護……よ、聖……怨嗟……し、わ……を……え――――ヘスティア』


 小さな声で何かを呟く。すると、手に握るメダルに埋め込まれた石の一つが強く光る。

 背中にまで届く真紅の髪と同じ色をした瞳、手には流麗な太刀。先ほどまでの少年とは明らかに異なる。

 手に持つ太刀を大上段に構え、そして―――。



 先ほどまで見ていて風景とは異なり、今目に映るのは天井の木目。身体は柔らかい何かに包み込まれている。

 久しぶりのベッドの感触に思わず、ぐっすりと眠っていたらしい。もちろん浅い眠りには変わりないのだが、夢を見るほど寝入っていたのはルナとの旅をして初めてのことだった。


(ここ最近警戒していたせいでちゃんと寝てなかったからな)


 身体を起こしながら、思わず大きな欠伸をしてしまう。


「おはよ、マフユ!今日はよく寝てたね」


 優雅にこちらに向かって飛んできて、頭の上にちょこんと乗ってくる。朝からまぶしいほどの笑顔で俺に挨拶してくれる相棒。俺には勿体ないくらいの相棒だと思う。


「ん、おはよ」

「今日は寝坊助さんだね!顔洗ってシャキッとしてきなよ」


 まるで母親がダメ息子を怒るようなことを言いながら、俺の頭を撫でている。


(ああ、気持ちいいな……)


 俺の頭を撫でてくれるのはフィンぐらいしかいないので、今この瞬間は至福のひと時。と言ってもこの甘美な時間を享受し続けられることは無く、そのうち本気で怒られてしまうため、早めに鋼の意志で甘い誘惑を断ち、顔を洗いに行く。

 桶に汲まれた水を両手で掬い、顔を洗う。氷のように冷たい水が肌を突き刺す。もう一度目を瞑りながら掬おうと、手を桶に入れると何やらひんやりとした固形物に触れる。

 目を開けて確かめると――――氷が浮いていた。


(氷のように冷たいじゃないくて、まさに氷水だったということか)


 桶の水は確かフィンが用意してくれたはず……つまり。

 そんな簡単な推理をしていると、フィンが飛んできた。


「どう?スッキリしたでしょ?」

「……ああ、おかげで眠気がなくなったよ」


 苦笑いしながら返事をすると、フィンは褒めて褒めてと言わんばかりに俺の周りを飛んでいる。

 つまりこれは悪戯いたずらではなく、好意で用意してくれたらしい。ならば俺に文句を言う資格はなくなってしまう。


「ありがとな。だが別に氷は入れなくてもいいからな」


 文句は言えないので意見を言うことにした。だが、フィンは「なんで?」と言った顔を浮かべている。おそらく女王さま気質がどこかにあるに違いない、じゃなければ笑顔で「冷たくないと意味がないよ」なんて言えるはずがない。

 これ以上は何も言えないので、頭を切り替えることにする。


(追跡者の目的はなんなんだ?)


 追跡者の話を聞いた村のあと、俺たちは今の滞在地を含め3つの村に寄った。その全ての村で情報収集をしてきたのだが、少し妙なことがあった。 

 まず最近分かったことなのだが、どうやらその噂の人物は俺たちより先行しているらしくこの村には2日前に訪れていたらしい。そして何が妙かと言えば、一番最初に寄った村では俺たちが知っている程度の噂があり、今滞在している村ではその人物の姿を見たという噂を聞いた。だが、一つ前の村ではその話を一切()()()()()()。つまり噂が途中で一端途切れたにも関わらず、似たような噂が流れている。  


(目的が皆目見当つかない)


 俺たちを仮に探しているなら各村に寄って情報収集するのが賢明な判断だと思うし、そもそも俺たちは最短ルートを通ってきているのだからどこかで遭遇していたはず。


(もちろん最初の時点で抜かれていた可能性があるが、ガラッタを出たのは俺たちが先だしな)


 噂を聞いた村の時点で抜かれたと言うわけでもない。マスターの女性曰く、その情報源はガラッタからやってきた行商人がもたらしたもので、その行商人は夕刻前にガラッタを出発し、俺たちが飯を食っているときに来たそうだ。


(行商人は村を出る直前にその当人から聞かれたらしいし)


 つまり、ここ10日前後の間に抜かれさらに俺たちより2日早くこの村に到着していたということである。物理的に不可能とは断言できないが、俺は少なくともやりたくない。


(どちらにしても、とりあえず一度話しておくか)


 簡単に着替えと準備を行い、フィンを外套の中に、ツルキには定位置に戻ってもらい、頭陀袋を肩に担いで部屋を出た。

 宿の一階に下りるとそこに待ち合わせの人がすでにいた。真紅の髪は布に覆われて見えないが、それでも人目を集めてしまうのは美少女の力なのだろう。屈強な体をした強面の冒険者たちが一様に彼女をチラチラ見ている。


(俺がここでルナに声をかけるときっと反感を買うんだろうな)


 目立ったり恨まれたりするのは嫌だなと思い、どのように合流するのがよりベストなのかをルナを遠目に見ながら考えてると、見事に目が合ってしまった。

 ルナからすればきっと居心地が悪かったのだろう、俺を見つけた途端、満面の笑みを浮かべる。その笑顔に強面のおっさんたちはズッキュンしてしまったのと同時に、その笑顔が向けられた俺を親の仇のように睨んでくる。


(……おっさんのズッキュンは見たくなかったな)


 やけくそ気味に心のなかで呟く。

 考え得る状況のなかで一番好ましくないものになってしまったが、もうどうにもならない。こうなってしまったら「待たせて悪かったな」キリッ、って感じて近づいてハグでもしてやろうか、と思ったのだが……もちろんやらないし、やれない。


(おっさんたちはこの際考えないとしても、確実にフィンにボコボコにされる)


 どうにも回避できないので、なけなしの根性を振り絞ってルナに近づくことにした。一歩近づくことに鋭い視線が比例して増えていく。

 小心者の俺としてはこの針のむしろは非常に辛い。なんとかその荊道を抜け、ルナと合流を果たすとルナの手を握り、一目散に宿を後にした。

 宿を出た瞬間、思わず息が漏れた。どうにも人に注目されるのは苦手で、それが敵意の視線なら尚更である。


「ふぅ、なんか大変な目にあっ……ん?」


 俺とは別の視線とはいえ、同じ渦中にいたルナを気遣って声を掛けようと振り返ると、耳まで真っ赤にしたルナがいた。

 はてなぜだろう、と思索にふけようとしたところで、自分がとんでもないことをしてしまっているのではないかと視線を下げながらに思う。

 視線の先にあるのは繋がれた手、そう男女の繋がれた手である。それを見て思考が停止する。


(……誰と誰の手だ?)


 この状況下では誰のものか明らかにもかかわらず、その手を辿り顔を見る。顔を真っ赤にしたルナが見える。もう一度その道を戻り、視線を下に向ける。手が握られている。


「うぉっ!?す、すまん!!」


 すっとんきょんな声を上げながら手を離し、即座に謝った。周りから見ればおそらくかなり無様な姿を晒していたに違いない。


「い、いえ、大丈夫です!?お気になさらずに……」


 そう言いながら握られていた手をチラチラ見たり、胸の前で両手を合わせたりと一番気にしているご様子。それが俺的には傷つくのだが、もちろんそんなことは口が裂けても言えない。


「本当にごめんな」

「い、いえ……」


 それから訪れる無言。一人なら静かな状態が好きだが、誰かといる場合は逆にものすごく居心地が悪い。


「え~っと、とりあえず飯でも食べに行くか」

「は、はいっ」


 ぎこちない空気のまま俺たちは朝飯を食べに行くことにした。



 朝食を終え、今は村の門の前で旅の準備を整えている。準備と言ってもここから半日も歩けばヘスティア領の王都オーフェンに到達できるので、忘れ物がないか程度のことで済む。

 それと朝食のことに触れておくなら……一言で表すなら、無言の食卓であった。大した会話もできず、ルートを少し話したぐらいであとは気まずい沈黙のまま時が流れた。


(あれ、何か大切なことを忘れてる?)


 朝食での出来事を思い返していたら、引っかかるものを感じた。突発的な出来事の連続ですべきことをしていない気がしたのだ。

 ウーンと頭を唸りながら考えてみるが……分からない。チラッとルナの方を見てみるとフィンと楽しそうに話している。


(そこまで重要じゃないってことか?)


 分からないことはいつまで経っても分からないし、思い出せないことはどれだけ唸っても思い出せない。たまにはポジティブになろう、と思い諦めた。

 忘れたままでも魔物と数回であった程度で旅は順調に進み、日が高いうちにオーフェンが見えてきた。まだ遠目にしか見えないが、それでも都を覆う巨大な灰色の外壁が見える。

 ルナと出逢ってから色々と面倒な出来事に巻き込まれたが、もう少しでルナとの旅が終わると思うと感慨深いものがある。

 ルナはどう思っているのかは分からないが、表情を見る限りは悲しそうにも見える。もしかしたら此奴おれを打ち首にしてやるとか怒ってるのかもしれないが。般若も怒ってるように見えて、どことなく悲しそうにも見えるというし。


(そうでないと願いたいな……)


 そんなありもしないことを本気で考えてながら歩いていると、道の端の木に寄りかかっている男が視界に入った。灰色のローブに身を包み、頭はすっぽりとフードに覆われている。一見すれば寝て休んでいるように見えるし、大抵の人間は不用心だなと感想を漏らすだろうが、俺にはこの男が起きているのが()()()()


(……こいつ、こっちを観察してやがる)


 この男が何者で、何を目的に俺たちを観察してるのかは分からないが、少なくとも関わるべきでないと、本能がそう告げている。

 ルナたちもその男に気が付き心配そうに見つめているので、俺はそれを利用し、演技をしてこの場を離れる算段をたてた。


「たぶん疲れて寝てるんだろ?この辺は王都に近いから比較的安全だし、そっとしておこう」


 平静を装い、いつも通りの口調で二人に提案した。フィンは基本的に俺の意見に反対することは無いし、ルナも冒険者として一応先輩である俺の提案は受けてくれた。

 そのまま一歩、また一歩といつもと同じ歩調でその男の前を通過し、そのまま何事もなかったように歩き続けようとした。

 しかしそうすることは出来なかった。先ほどまで向けられていた観察する視線が、一変し殺気となり俺の肌を突き刺した。

 振り返ると、顔面に向かって強烈な蹴りが迫っていた。それを防ごうと腕でガードしようとしたが、止めて上半身を反らし躱す。男は狂気染みた笑みから一転し、驚きを見せたが再び獰猛な笑みを浮かべていた。

 

(なんで襲われなきゃいけないんだよっ!)


 内心で毒づきながらも腰から鞘ごと剣を抜き、躱しざまに相手の鳩尾を狙って剣の柄頭を叩き込む。急所への一撃のため、入れば絶命しないまでも戦闘不能になるはずなのだが、男はバックステップで距離をとる元気があった。


(どんな頑丈な体してんだ!?……それとも感触が変だったことが関係してるのか?)


 男は俺を嬉しそうに見ている。見られるのだけで苦手なのに、加えて男に嘗め回すように見られるなんて不快でしかない。

 ルナたちが心配になり、そちらに目を向けるとルナはまだ起きたことを把握できていない様子だが、フィンはしっかり防壁魔法を展開していた。相変わらず頼りになる相棒である。

 安心したとこで再び男に視線を戻し、問い詰める。


「急に攻撃してくるなんて、どういうつもりだよ?」

「そっちこそ、俺の視線に気が付いていったのに無視するなんてひどいんじゃないか?」

「生憎男に見られて喜ぶ性分じゃないんでね、無視して当然だろ?それにお前みたいな礼儀知らずの知り合いはいないしな」


 俺も大概の礼儀知らずと自負しているが、さすがに通りすがりの人間を襲うようなことはしない。

 男は嬉々とした表情から真面目な顔をして言い放った。


「こうして知り合っているじゃないか。それに俺はあんたたちを探していた」


 "探していた"その言葉を聞いて、色々と失念していたことを思い出したと同時にこの男が俺たちを追っていた人物だと分かった。


「ここ2週間ほど俺たちを追っていたのはお前か」

「ああ、だが最終的には待っていたんだが」


 そこで冷静に訂正しなくてもいいんじゃないかと言ってやりたかったが、我慢した。それに後ろから非難めいた視線を感じるし。


「フィン、話すのを忘れていたのは謝る。だが、俺もこいつの詳しい目的を知らないんだ」


 いつもなら誠心誠意謝るのだが、今は非常事態のため簡単にだけしか謝れない。フィンもその辺は理解してくれているので、非難めいた視線はなくなった。


「俺の目的はただ一つ!あんたを倒し、俺のが強いことを証明することだ」


 一瞬俺の過去を知っているのかと、体を強張らせた。


「本来なら俺がガラッタに現れた魔物を倒すはずだったのだ!そして名前が広まり、さらに強い者と戦い、チヤホヤされ、モテモテになる予定だったのだ!だが、貴様が……」


 下唇を噛みながら悔しそうに睨まれているのだが、正直言って俺はアホ臭くなってしまった。

 未だに何か叫んでいるが、要するにこいつは名前を売りたかっただけらしい。確かに有名な冒険者はかなりモテるし、いい暮らしもできる。

 だが、俺にはこいつの考えていることに一切理解できない。かといって、争うのも面倒だし嫌なので謝ることにする。


「そうか。野望の邪魔をして悪かったな。これからは邪魔しないようにするな……じゃ!」


 そういって流れで立ち去ろうとしたのだが、逃がしてもらえず今度は拳を出してきた。

 

「誰が立ち去って良いと言った!強い者を前にして逃がすと思うかっ!」


 戦闘狂では無い俺としては無用な戦いは避けるので、こいつの言ってることが理解できないのだが、どうやら倒さない限りどうにもならないらしい。


「チッ、あとで後悔するなよ!フィン、そっちは任せたぞ」

「任せて!その変わり、そいつにマフユの偉大さを見せつけてやって!!」


 正直言って理由もないし、乗り気でもなかったのだが、偉大さを見せつけるために戦うことになった。



 戦い始めて分かったのだが、この男は魔闘拳の使い手だった。

 魔法は放出するものと、自らの身体に作用させるものの2つに分類できる。フィンやルナが使う魔法は前者でこの男の使う魔闘拳は後者である。

 魔闘拳とは要するに肉体を魔法で活性化したり、拳や脚に魔法を纏い攻撃力や防御を上げるものである。様々な流派が存在するらしいが詳しいことは知らない。


(とりあえずは初撃を躱したのは正解だったな)

 

 咄嗟の判断で受けるより躱すことにしたのだが、仮に何も知らない状態で受けていたら最低でも骨は折れていたに違いない。

 それにこの男はかなりの使い手のようで動きが洗練されている。


(だが、相性は悪くない)


 魔闘拳の使い手は総じて放出系の魔法が苦手とされ、逆もまた然り。

 俺は魔法は使えないので接近戦に持ち込まないと勝てないのだが、遠距離から魔法を撃たれると近づくだけで一苦労であり、相性はあまりよろしくない。

 その点、遠距離攻撃が無く接近戦をできるだけやりやすい。もちろん魔闘拳の使い手は接近戦が得意なのだがそれは俺も同じ、むしろ武器だけで戦っている俺のが上回っていると言える。


(今度こそこれで幕引き……だっ!!)


 男の徒手空拳と蹴りを連撃を身体を捻って躱し、そのまま反動をつけ今度は脳天に目掛け鞘を振り下ろす。

 放たれた一撃はそのまま脳天に吸い込まれることは無かった。頭と鞘の間に見えない障壁に阻まれた。

 男はそのまま獰猛な笑みを浮かべ、小さな声で何かを呟いた。

 その声が耳に届くと同時に、俺はすぐさま男から距離を取った。しかし、少し遅かったらしく右手に無数の切り傷ができている。

 痛みに顔をしかめながら毒づく。


「おい、魔闘拳の使い手じゃねーのかよ?」

「魔闘拳の使い手が風の盾を使うのが変なのか?なら、これはさらに変に思えるだろうなっ!」


 そう言いながら今度は無数の土の弾丸を飛ばしてきた。

 この男も一応放出系は苦手なようで、先ほどの障壁も今の弾丸も初級レベルの魔法で魔物には牽制程度にしか使えないものだが、俺は丸腰の人間である。当たれば痛いし、軽傷じゃ済まされない。

 仕方ないので剣を抜き、身体に当たるであろう土の弾丸を切り裂くか受け流しやり過ごす。


(これじゃすぐ鈍になっちまうじゃねーかっ!!)


 舌打ちしながらも、襲いくる弾丸を何とか凌ぎ切った。しかし、それで一瞬安心してしまい相手の姿を見失っていた。

 俺の考えを読んでいたかのように足元から声がした。

  

「なかなかやるな!だが、足元がお留守だぞ」

「ちっ!?」


 下を見た時にはすでに足払いをされ、俺は無防備に空中に晒されていた。男は間髪入れず、魔法で強化された拳を腹に目掛けて振り下ろしていた。

 もちろん俺だってそれを黙って受け入れることはせず、まずは観察をした。男の顔や拳、見える範囲を細部までしっかり視た。


(こいつ、雷を身体に纏ってるみたいだな)


 冷静に分析しながら、自然と身体が動き始めていた。

 振り下ろされる右拳の先にある袖を左手で掴んで引き、右足を振り上げ相手の身体を蹴上げる。俺の身体は自然と横向きになり、拳は空を切り、男は地面に叩きつけられる。

 無論俺も受け身はとれず体を打つが、すぐに姿勢を整え、地面を蹴り男に接近する。

 男はやっと片膝立ちになれたとこで、俺に気が付きすぐさま「土壁サンド・ウォール」と叫ぶ。

 剣が男に達する直前に地面がせり上がり、キーン、と高い音が響き渡り俺の突きを止めている。


「はぁはぁ、危なかったが俺の勝ちのようだな」


 土の壁の向こうから荒い息遣いとともに勝ち誇ったような声が聞こえてきた。確かにこのまま何かしらの魔法を使われれば俺が負ける可能性があるが、生憎そんな暇は与えない。


「悪いがそれは勘違いだ……らぁっ!」


 あまり使いたい技ではなかったのだが、ウダウダ言ってられない。

 気合とともに、鞘を握ったまま柄頭に全力の左拳を叩き込む。土の壁にひびが入ったかと思うと、さらに力を加え剣を押す。すると、土の壁が崩壊すると同時に、剣が破砕音を響かせながら半ばからポッキリと折れた。

 土壁の向こうでは何が起きたか理解できないといった表情を浮かべる男が見える。そこで追撃の手を緩めず、体を回転させ遠心力と勢いを高めた鞘での一撃をその驚きに呆けている男の脇に目掛け放った。

 男は苦悶の表情を浮かべ、そのまま地面に伏せた。


「急所への一撃は効くだろ?」


 そう言いながら一応刀身が半分無くなった剣を鞘にしまい、ルナとフィンの方に視線を向け無事を確認する。そしてそのまま地面に座り込んだ。

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