凡人くんと新しいともだち〈1〉
人外要素がまだ皆無なんですが
私立四季野高等学校が建つ四季野町は田舎でもないが都会でもない。もっとも、俺の実家よりはよっぽど都会だが。雑多な街並みが自然に溶け込んでいる、そういう街だ、というのが俺の感想。
いよいよ学校にたどり着き、家から乗ってきた自転車を駐輪場に停めて、正面玄関から入ろうとした、が―――
「人、多すぎじゃね……?」
俺と同じ新入生はもちろん、その保護者らしき人たち、おそらく歓迎のために並んでいるのであろう上級生、教職員などであふれていた。多いだろうなとは思っていたが、予想以上だ。正直あの中にビビらずに行ける気がしない。まして、あの中には新しいクラスメイトや先輩になるであろう人もいるのだ。初対面でビクついている姿を見せるわけにはいかない。誰かと一緒ならまだいいかもしれないが、生憎ぼっちなものでね…… よし、決めた。心の準備が出来てから行こう。まだけっこう時間はあるし。それまでここにいよう……
そんなことを考えていると、後ろのほうから突如ドドドドドドドド…………という凄まじい音が聞こえてきた。いきなり何だ!?とそちらを向いた瞬間、体に大きな衝撃。
「あ、ごめんなさいー」
気がつくと、目の前に美少女の顔があった。というか、美少女が俺を見下ろしていた。背景には青い空。神様、もしかしてこれがラッキースケベというやつですか? 一瞬思考が停止するも、なんとか気を取り戻して立ち上がる。女の子は俺がフリーズしている間にさっさと立ち上がっていた。
「ああああああ、いや、だ、大丈夫だよ!?君こそ大丈夫!?」
「あーはい、大丈夫です♡」
童貞丸出しの思いきりテンパった返事をすると、愛らしく冷静に返された。かわいい。そして恥ずかしい。というかこの子はどうしたんだろう。
人形のように整った顔。長い睫毛。よく通る綺麗な声。真新しい制服に包まれた華奢な体躯。スカートから伸びるスラリとした白い脚。紺のハイソックス。二つに結った柔らかそうな茶髪。同じ色の猫のような瞳。状況から察するにここまで走ってきたはずなのに、息を乱すこともない。運動部なのだろうか。
「ええと」
「あ、わたしは一条理央でーす。よろしく」
「……三久優也デス。ヨロシク・・・」
無理矢理笑顔を作り自己紹介をする。でも、この子に対する怒りは一切湧いてこない。だってこの子は可愛いのだ。思春期男子は単純なのである。
と、再び後方からドドドドドドドド…………という音。何このデジャヴ。ってことはつまり、
「理央ぉーーーーーーーーー!!」
二度目の衝撃。ただし今度は普通に突き飛ばされた。あと相手はズボンを履いていた。付け加えると、さらさらした黒髪と切れ長の目が麗しい正統派イケメンである。声だけは高く、声変わり前の少年のようだった。そいつは俺を見ずにまっすぐ理央ちゃんのほうに向かっていく。
「やっと追いついたぞ!さあ返してもらおうか、私の制服を!」
「あれ、るいるいはやかったねぇ。つまんねー」
「私の脚力をなめるなよ!正直今普通に怒ってるからな、さあ脱げ!」
「わかった、わかったから……あっ痛い痛いいたい。しんじゃう、オレしんじゃう」
「・・・ちょ、ちょっと、あの!お、女の子に暴力はダメだよ!?」
黙って見ていることが出来ず、つい口を出してしまう。でも、なんかいろいろおかしい。「私の」制服?それに、理央ちゃんの様子が……
「は?」
るいるいと呼ばれていたイケメンが、ようやく俺のほうを向いた。一瞬「何言ってんだコイツ」という表情になるも、自分が現在進行形でギリギリと締め上げている相手を見て、「うんまあ、それもそうか」と小さくこぼした。とっても嫌な予感がするんだけどなんでだろう。
「コイツは男だよ。ついでに私は女だから。これはコイツの制服」
予感的中。当たってほしくなかったけど。
どうしてこうなった。