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凡人くんと物語のはじまり

ひたすらわちゃわちゃした話になる予定です


 ぼん‐じん【凡人】(名)ふつうの人。

 じん‐がい【人外】(名)①人の住む世界の外。

           ②人の道に外れること。人でなし。

           ③人ではないことや、人を超えていることを表す俗語。


  ◆


 凡人。

 俺という人間を一言で表すのなら、きっとそんな言葉がふさわしいんだろう。

 別に、俺に特徴といえるものが全くないってわけじゃない。自分には何の取り柄もないと謙遜しているわけでもない。


 ただ、あいつらといると、痛いほどに実感させられるんだ。良くも悪くも、俺は、本当に「凡人」なのだと―――


 これは、凡人である俺と、ぶっ飛んだ親友たち、それから愛すべき人外たちの物語。


  ◆


 20××年4月××日午前3時44分32秒。枕元のデジタル時計はそう告げていた。

 俺、三久みつひさ 優也ゆうやは、その数字を見て小さく溜め息をついた。

 確かに昨日は「明日は入学式だから、絶対遅刻できない!」と9時前には寝てしまっていた。けど、何もこんなに早く起きる必要はなかったのだ。このアパートは学校からそこそこ近いから、7時に起きれば十分間に合う。準備などは前日にほとんど終わらせてあるから、正直やることがない。


「もう一回寝るか……」


 だが、万が一寝過ごしたら大変だ。初日から遅刻するなどしたら高校生活が始まる前から終わってしまう。少年漫画の主人公かラノベヒロインならそれでもいいのかもしれないが、生憎俺には遅刻をドラマティックに昇華できるほどのポテンシャルはない。よって、そういった方向で目立つのは避けたい。全力で避けたい。

 包容力に欠ける薄い布団の中でしばし思考を巡らせた結果、俺は散歩に行くことにした。一人暮らしを始めて約10日。引っ越しの片付けやらなんやらで、結局近隣の様子などはちゃんと見れていない。まだ外は暗いが、まあいいことにしよう。




 もぞもぞと布団から抜け出し、洗面所で顔を洗う。春とはいえまだ水は冷たく、「うぁ」と不可解な声が出た。続いて、我ながらぎこちない手付きでコンタクトレンズをはめる。途端にぼやけていた視界がクリアになった。


 ―いままでは、ずっとダサい厚底眼鏡だった。ついたあだ名はクソダサ眼鏡。ひねりがなさすぎて笑ってしまう。性格もビビりで弱虫で、周りの奴らからバカにされていた。そんな自分がずっと嫌いで、ずっと変わりたかった。でも変わる勇気すらなかった。

 だから、親元から遠く離れたこの場所で、新しい自分になろうと思ったのだ。


「……よし」


 気合いを入れるために、自らの頬を両手でたたく。パチーン!という威勢のいい音にはならず、ペチッとマヌケな音がした。ちょっと苦笑いをして、紺のブレザーの制服に着替え、最後にワックスで髪を整える。鏡の中の自分を改めて見ると、


「なんか……ちょっとチャラそ……いや、なんか威圧感が……?」


 まあでも、どうせ変わるならこのくらいのほうがいいだろう。見た目はチェンジ成功。……たぶん。笑顔の練習も……ぎこちないがきっと前よりも爽やかに笑えているはずだ。あとは……中身がな……


「……変わらなきゃ」


 自らに言い聞かせるように、小さな声で、でもはっきりと呟いた。




 外の空気は冷たくて、肌に心地よかった。

 最初は道路を挟んでアパートの正面にある小さな公園。砂場にはスコップとゴム製の小さなヒーローが置き去りにされている。お次は、家賃が俺のアパートの10倍ほどしそうなご立派なマンション。ホラーチックな雰囲気を醸し出す年季の入った診療所。電飾の煌めくラブホテル。店員の見当たらない怠惰なコンビニ。薄暗い街の中を、特に行き先もなくうろうろと歩きまわる。いつの間にか、街のかなり端のほうにある、森の中の大きな図書館まで来ていた。当然開いてはいない。ふと上を見上げると、森の木に一羽の小さな梟が止まっているのが見えた。起きているのか寝ているのかはわからない。なんとなくそろそろ帰ったほうがいいかな、と後ろを向くと、


「う、うわぁぁぁぁっ!?」


 とぐろを巻く白い何か——そう、蛇だ。紅い目をした2mほどの大きな白い蛇が、静かにそこにいた。間違いない、真っ直ぐ俺のほうを見ている。俺は逃げることもできず、ただただ固まっていた。声を出すこともできない。いったいこれは何なんだ。頭の中が「死」という文字で埋め尽くされる。永遠にも感じられた数秒のあと、


 ――ざぁっ。


どこからか強い風が吹いて、巻き上げられた木の葉で目の前が見えなくなる。反射的にぐっと目をつぶる。すると、だんだん意識が遠くなってきて、そして―――




「…………」

 目を開けると、最初に見えたのは天井だった。ゆっくりと身体を起こすと、そこはアパートの一室――自分の部屋だ。ただ、寝ていたのが布団の中ではなく冷たい床の上であること、制服を着ていることから、今までの出来事が夢ではなかったとわかる。

 それから、意識を失う前に聞こえたあの会話。3人分の声。


 ――うぅ・・・驚かせちゃった。

 ――××が悪いわけじゃないよ。

 ――とりあえず、こいつはあたしが家に帰しとくな。

 ――うん、ありがと。

 ――ありがとう。


 あれは一体なんだったんだろう。ぼんやりと考えていると、ぐぅぅぅぅ、と腹が鳴った。そういえば、まだ朝食を食べていない。ご飯は……炊いていないから、今日はパンにしよう。


 時刻は午前6時53分26秒。入学式が始まるまで、あと約2時間半。




次回も見てね♪( ´ ▽ ` )ノ

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