M-1決勝
何年か前に、某雑誌の企画に投稿したのを少し書き直しました。M-1もうないけど、まぁいいや。ちなみに何の賞も貰えませんでした。
その日、俺たちは夢の舞台、M-1の決勝にいた。
「はい、はい、はーい!どーもー!ヒロシ・コウジでーす!いやーついに来ました、M-1の決勝!ここまで来るのにどんだけ苦労したか!初めて舞台で漫才したとき、お客さんはたったの3人でした。それが今やテレビに出れて、何千、何万の人の前で漫才ができるようになって、優勝したら1千万円も貰える!これはチャンスです!大きなチャンスなんです!これをきっかけに上へのし上がってやりますよ!なっ!ヒロシ!・・・」
とヒロシの方を見るとなんだかヒロシの様子がおかしい。
「(小声で言う)おい、おいっ!どうしたヒロシ!なんだその暗い顔は!M-1の決勝だぞ!張り切っていこうぜ!」
「いや、実はちょっと話があるんだけど・・・」
「なにっ!な、なんだ?こんな時に話ってなんだ!?」
客がざわついている。
「俺、芸人辞めようと思ってるんだけど・・・」
「えー!なにー!なんでー!なんで、こんな時にー!」
「俺、才能ないと思って・・・」
「いや、いや、あるよ!多少はあると思いますよ!M-1の決勝まで来てるんだから!俺たち才能あるよ!自信持てよ!それに、今は大事な決勝なんだから、漫才の事だけ考えよう!優勝する事だけ考えよう!なっ!なっ!」
ヒロシ、黙り込む。
「おい!ヒロシ!」
「そ、そうか、そうだよな。今は漫才だけに集中しよう」
「そうだ!その調子だ!」
「え、えーっと、何のネタやるんだっけ?」
「さっき、あのネタやるって裏で決めたじゃねーか!ほら、あの、学校の!」
「な、何だっけ?何だっけ?えーっと・・・」
「学校で、遅刻して、怒られたりする、あれだよ!あれ!」
オロオロするヒロシ。
「わ、わかんねー、全然わかんねー!わかんねーよー!ああーーー!!」
俺たちは3分ももたずに舞台を降り、出場8組中、最下位になった。最高の舞台で、最低な結果を残してしまった。
楽屋でヒロシは責任を感じて落ち込んでいた。
「すまん・・・」
とヒロシは言った。
「・・・お前、本当に辞めたいのか?」
「ああ・・・」
「辞めて何やるんだ?」
「宇宙飛行士になろうと思って・・・」
「う、宇宙飛行士?そんなもんお前みたいなバカがなれるわけねーじゃねーか!なに言ってんだ!」
「いや、なれる。絶対なれる!俺、才能ある!俺、泳ぐの得意だから宇宙でもうまく泳げる!宇宙はスゴい!かなりヤバい!俺は宇宙のスゴさをみんなに伝えたいんだ!もう誰も俺を止められないんだ!俺は行くんだ!宇宙に行くんだ!うぉーー!うちゅう!うちゅう!うちゅう!」
とヒロシは騒ぎだした。
「ダ、ダメだ。こいつ。ちょっと頭おかしくなってる」
その後、俺はヒロシとコンビを解消した。
一年後、新しい相棒を見つけた俺は、またM-1の決勝にいた。
「トオル、チャンスだぞ!M-1の決勝だぞ!芸人辞めるなんて言うんじゃねーぞ!」
と舞台裏で俺はトオルに言った。
「なんだ、それは!あたりめーじゃねーか!バカヤロー!なに言ってんだ!俺の実力見せつけてやるんだ!バカヤロー!」
俺はトオルのギラギラした目を見て、今度こそいける、そんな気がした。
「はい、はい、はーい!どーもー!トオル・コウジでーす!・・・んっ?」
とトオルを見ると、トオルの顔が青ざめている。
「おい!トオル!おい!どうした!」
俺は悪い予感がした。
トオルは何かを訴えるような顔をして俺を見ている。
「あ、あの・・・ちょっと、うんこ出そうなんですけど・・・」
今度もダメだ・・・俺はそう確信したのだった。
おしまい。




