誠ー2話
「先ほどはすまなかった」
確か、狂世だったかな?お辞儀して謝った。
横須賀に足を入れた瞬間に刀を振り下ろした失礼な男だ。僕らが刀を奪いに来たんではなく貰いに来た者じゃないことで安心したのか?わからないや。僕は蒼じゃないし。
「いえ、僕の方こそ刀を出してしまって」
「主の刀はなんという」
また狂がいつの間にか狂世の隣にいた。
そして狂世は驚いた。僕も驚いた。
狂は気配を消せるらしい。その腰に持っている刀の力か彼自身の力かどうかわからない。
「『無刀』といいます。あなた方は」
「我は『一刀』狂世のは『百刀』」
一刀と百刀……数字に纏わる刀か。他の兄弟も持っているとすれば『十刀』『千刀』『万刀』かな?
狂世の『百刀』に関して今何か云うとしたら狂世が持つことによって素早さを増している。『一刀』に関しては何もわからない。
『殺』は何か感じたのかな……?
《なにもわからない。ふれてみないとなにも》
……そうか。
《百刀にかんしてはいろいろとわかった》
そうなのか?
《もともと狂世ははやい。そのはやさに百刀のはやさがばいぞうされてもっとはやくなった。まあ、そのぶんおまえのはやさをばいぞうさせるからな》
『殺』はそう云うと(頭に思念を送っているのだが)笑った。爆笑した。苦笑した。
「『一刀』はどんな力を持っているんですか」
狂はすましたような笑顔で答えた。
「いやだ」
「ありがとうございます。……ん?今、なんと」
「嫌だと云ったんだ。聞こえなかったか」
狂が聞こえなかったかと云った瞬間、狂世の顔色が変わった。
「……誠」
狂世は僕の名前を呟くと僕を引っ張って狂のところから逃げ出した。
「なんてことを云ったんだ!」
……怒鳴られた。
「なんだよ……。なんでいきなり怒鳴るんだよ」
「狂兄に刀のことを聞くな、殺されたいのか!」
震えてる……。狂が、怖いのか……?
「……狂が……」
《誠、くるぞ》
来るって誰が。
《一刀がきょうがくるぞ》
狂が来るのか!?
『殺』の返答はなかった。
「みぃーつけたぁー」
多分、狂だろう。その声に狂世は狂世の身体はよりいっそう震え始めた。
《あいつは無刀よりおそろしい》
嘘だろう。無刀より恐ろしい刀を創っていないはずだ。
《ちがう。刀がおそろしいのではない。きょうほんにんがおそろしいのだ》
冗談だろう。無刀より恐ろしい妖がいるなんてきいてないぞ!
「狂、どうした。そんな顔してそんな話し方して」
「どぉーしたぁってぇいゎれたぁってさぁーもとからぁこんなぁはなしぃかたぁだよぉー」
「今日初めて君に会ったけどそんな話し方はしなかった。君たち5兄弟は皆同じような顔して皆同じような話し方だった」
「そぉーだねぇ。みんなさぁおなじようなぁかおでぇはなしかたでぇいやだったのぉー」
狂世にこの狂のことを聞こうとしたがガタガタと震えて話すことができない。
『殺』は反応をしない。ただ、何を感じているかはわかる。恐怖だ。珍しい。『殺』が妖に恐怖を感じることは少ないからだ。
《きょうはこわれている。じががこわれている》
自我が壊れているだと。それは今の状態だからだろう?
《ちがう。刀を手に入れてからこわれはじめていた》
それはだいぶ前からだな。
「……狂兄は『一刀』を…『一刀・丁』を……」
狂世はそれから何も喋らなくなった。息が微かにするだけで。
「え……」
いつ、いつ刺した。いつ、刀を抜いた。
狂世は死んだのか……?
《おちつけ。まだしんでない。百刀は息をしている。いま、よんでいる。ほかのきょうだいにもおまえのなかまにも》
「つぅぎぃはぁーおまえのぉーばんだよぉ」
僕は自分の刀『無刀・殺』を抜いて構えた。
狂は『一刀・丁』を構えていない。スッと鞘にしまった。それは、普通ならば戦わないという意思の表れだ。しかし、彼との戦いに置いてはその意思ではなく、彼の構えの体勢なのだ。
「行くよ、狂!」
狂はニタァと笑い「いいよぉー」と云った。
僕は『殺』に全神経を集中させた。
『殺』が上へ下へ右へ左へ僕の身体を動かして呼吸をさせて狂の壊れたものを《殺して》いった。
狂はのらりくらりと攻撃を交わして懐へ入ってこようとする。刀は抜かない。
カンッと、『一刀』が収められている鞘と『殺』が当たる音が何回も何回もする。
『殺』のお陰で僕自身、体力をあまり消耗せず戦っている。
「へぇーやるじゃぁないのぉガキのくせにぃー」
「ガキだからってなめてると痛い目にあいますよ」
「狂世!」
《ほら、きたぞ》
『殺』が狂樹や蒼たちが来たことを教えてくれたけど蒼たちが僕や狂世の名前を呼んでいるのがなんとなくわかるけどこの戦いは他のことで気が散ると壊される!
「あれぇーなぁんでさぁあのこたちがぁきちゃうのかなぁー」
《ちゃんすだ》
狂の気が蒼たちに向けられた今がチャンス。狂の壊れたものを《総て殺す》ことができる!
僕は『殺』は体勢を息を整え狂の後ろへ回り込んだ。
「な、にっ!」
そして壊れたものを《殺した》。
狂はその場に倒れ込んだ。これで終わりかと思ったけど『殺』がおかしなところがあると云った。それは、僕が『殺』が狂を刺したはずなのに一滴も血が出ていないことだ。
まだ《殺せて》ないってことか?
《わからない。一刀をかいしゅうしろ。いきなりうごかれてさされてもこまるからな》
「誠!どうしてそんなに息が切れてるの?誰かと戦った?」
「戦った?って狂と……」
「狂とは誰です?」
「えっ……?狂樹さんのお兄さんですよ」
「我らは4兄弟ですぞ」
えっ……?5兄弟じゃなかったの?
《きょうはそやつらのなかにもぐりこんでいたあやかしだったのかもな》
潜り込んでいただけじゃないよ。皆の記憶に自分を入れたんだ。
「狂世は!狂世は無事なんですか」
「狂世は今治療中です。狂芽と狂海が治しているので大丈夫です」
狂世が刺された傷はなかったことにはならなかったんだ。
《すべてがなかったことにはならないだろう。たぶんこやつらのいえにはごにんぶんのさらなどがおかれている》
「誠、狂世は一体誰にやられたんですか。狂とは一体誰なんですか」
「狂世は狂にやられた。狂が誰かは知らないけど、狂樹たちの兄として僕らは知り合った」
「我らの兄……狂……。すいません、分かりません。ただ、あなたを見ればその狂と戦ったことだけは分かります」
あれから一週間たった。
狂世の傷はすっかり癒えて『百刀』を使えるまでになった。
蒼は狂樹と刀の交渉を何回もしている。
僕は狂世と碧は狂芽、狂海と遊んでいる。
狂芽と狂海は狂世の治療で体力を使い2~3日寝込んでいたけど体力が復活した。
「誠、その刀をどうする」
「『一刀』のことだね。どうしようか、当初の予定通り総大将に渡すかな」
「『一刀』は狂のものだったんだよな。狂はあれからどうなった」
「狂は刀を取った瞬間砂となって消えたよ」
そう、あのとき『一刀』を取った時、サラサラーとそんな音をたてながら狂は消えてった。
狂世は妖がそんな方法で消えるわけがないと笑ったが狂樹はあるかもしれないと微かに笑った。