蒼ー2話
「『十刀』の持ち主はナ……」
漁那さんが続きを云い終える前に、駒須さんは叫んだ。
「じ…冗談でしょ!?なんで5兄弟がその…総大将の求める刀を持っているの!」
駒須さんは漁那さんの胸ぐらを掴み前後に揺らした。
あんなに揺らしたら目が回りそうだ…。
ようやく駒須さんの手が止まった。
漁那さんは少し息を整えた。怒りで少し震えているようで、その震えが段々と大きくなり、そして大声で叫んだ。
「…この、バカたれがぁぁぁぁ!!」
漁那さんのその声が原因なのか分からないけど森の鳥たちが飛んでいった。
「妖の話は最後まで聞けと云わなかったかぁぁぁ!!」
そのまま説教しそうな勢いだったけど、抑えてその刀を持っているという5兄弟について教えてくれた。多分、僕らが向かった後で駒須さんに説教するだろう。
漁那さんが教えてくれたのは、5兄弟の名前と居場所。『十刀』を持っているのは5兄弟の一番上らしい。『一刀』も持っている可能性があるから気を付けてくれと云われた。
僕らは駒須さんと漁那さんにお礼を云って、5兄弟が居るという横須賀へ向かった。
後ろから駒須さんを説教する漁那さんの声が聞こえた。
「蒼、駒須さんと漁那さんのやりとりを見て誰かに似てるって思わなかった?」
「誠も思ったんだ!?」
「うん。……まだ聞こえるよ、漁那さんの説教」
僕は、僕らは笑った。理由は分からなかったけど可笑しくて笑った。
「疲れた……。江戸から横浜より遠く感じるんだけど…」
「遠く感じるのは、あれじゃないかな?」
「……道が真っ直ぐだから?」
!?誠も驚いた顔をしていた。
「なに2人して驚いた顔をしてんの」
「なんで、碧がいるの!?」
「いちゃ悪い?」
「悪くはないんだけど…ねえ、蒼」
僕は頷くだけだった。
碧から話を聞くと、総大将から僕らの手伝いに来るように云われたらしい。
碧に漁那さんから聞いたことを全て話した。
「じゃあ、今は横須賀に向かってる途中ってわけだね」
「そうだよ。それにしてもさ、道が真っ直ぐだと近くても遠く感じるよね」
「それさっきも云ってたよ」
「そうだね。誠、碧、横須賀が見えてきたよ」
それは、横須賀は砂漠の中のオアシスのように存在していた。
誠はそこへ走って行った。
誠が刀を…『無刀・殺』を持っていなかったら、殺されていただろう。