謎の人物と光の術師
ユリアが意識を取り戻すと辺りがやけに眩しかった。――おかしいな、遺跡は薄暗かったのに。床も埃っぽくないし……ってあれ?
異変を感じて、寝ぼけていた脳がようやく活動し始める。
「あれ?」
明らかに遺跡では無かった。見渡す限り辺りは純白。他に動くものは見当たらない。ユリアは混乱しながらも、取り敢えず今までの行動を振り返る。
「……何とか遺跡に着いて、掃除して、準備して、儀式を進めて、儀式が終わって……?終わってどうしたっけ?」
「私がここに連れてきました」
「なっ…!?誰!!」
背後から声を掛けられて振り向くと、誰も居なかったはずの場所に笑顔で立っている人物の姿があった。
「んー誰と言われると困りますが……。そうですねぇ、取り敢えずロッド、と名乗らせて頂きましょうか」
「名前じゃなくて!!何者なのか訊いてるの!!それにあなた今『連れてきた』って言った!どういう事なのか簡潔に説明しなさい!!」
一気にまくし立て、ロッドと名乗った人物を睨み付ける。
最初は術師かと思ったが見る限り手の甲に紋章は無い。薄墨色のつなぎにも特に特徴は無いし、微笑みを浮かべる顔に見覚えも無い。
いきなりこんな所に連れて来られる意味が分からなかった。 ロッドは視線に含まれる敵意に苦笑しながら言った。
「そんなに物騒な目で睨まなくても危害は加えませんよ。きちんと質問にも答えます。まず何者かという事ですが、レイド神話のことは知っていますね?」
ロッドは逆にそんなことを訊いてきた。
「知ってるけど……」
警戒を解かないまま答える。レイド神話はレイドに住む人なら一度は聞く話だ。ユリアもよく母親から聞いたが、今この状況との関係が見えて来ない。
「話が早くて助かりますねぇ。神話の冒頭に光に選ばれた者ってあるしょう?ほとんど知られていないですが、あれは光の術師のことなんです。で、その光の術師を導くために私が存在するんですよ」
ここまでは大丈夫ですか?というようなロッドの表情。
「うん、敢えてどこにも突っ込まない。もう何となく展開が分かったけど一応訊いとく。何で私は連れて来られたの?」
話を聞きながら嫌な予感しかしないユリアだったが、一番肝心な事を尋ねた。
「何でって……貴女が光の術師だからですよ。どこかで待っている長達を全員見つけて、神々を探し出して下さいね!」
「ごめんなさい、ムリです、他を当たれ」
ロッドが『ね!』と言い終わるのとほぼ同時にお断りするユリア。まさに一刀両断。
「それは無理な相談ですねぇ。もう儀式済んじゃいましたし。紋章、出てるでしょう?」 その返事もまた間髪入れない物だった。 ぎょっとして右手の甲を見ると、そこには二重の正方形を45度回して重ねた、シンプルで見たことの無い図形が色濃く浮かんでいた。
「……マジっすか」
「まじですねぇ」
呆然としてロッドを見つめると、空気を読んでない笑顔を返された。
「~~~っ!!だって光の術師なんて聞いたこと無いよっ!?……あっ、もしかしてこれ幻魔に凄い狙われるんじゃっ!?」
「おや、ご名答。そこらの術師の比じゃないぐらい狙われますねぇ」
珍しいですからねぇアハハ、などと軽く言われてしまえば、もはや笑うしかない。
術師になるリスクで最も厄介なのが幻魔に襲われやすくなることだ。
深淵と呼ばれる世界の影から現れた生き物達を総称して幻魔という。人と共存している種もあるが、幻魔の多くは凶暴で人や家畜を襲う。ただの人よりも術師のほうが美味しいらしく、強い術師ほど狙われる。力が強ければ強いほど危険度も増すのだ。一般的に紋章がはっきりしているほど術師の力は強い。