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濡れ衣で済む話じゃねーぞ!

また遅くなってしまった。orz

あ、一応次が最終回です。

 その日の雫さんは珍しく時間ぎりぎりに登校して来た。かく言う俺も今朝は慌しかったし弁当なんて作る暇がなかったから人のこと言えないけど。

「お早う御座います、弥生さん」

「おはよ。急がないと本鈴鳴るぞ」

 校門前でばったりと会う俺達。思えば雫さんとは教室よりも校門であることが多い。お互い登校時間が同じ時間帯とはいえ、珍しいことだ。

 残り少ない時間を気にしながら俺は走る。それとなく横を見ると雫さんもしっかり付いてきてる。本気で走ってないとはいえ、よく追いつけるな。

「雫さん、運動できたのか?」

「あっ、はい……っ。中学までは、剣扇舞を少々……」

 剣扇舞って……確か刀剣とか扇子を使う舞いみたいなやつだよな? 詳しいことは全然分からないけど。

 昇降口を抜けて階段を二段飛ばしで駆ける。ここまで来ると流石にキツいのか、雫さんは息を荒くしながらも懸命に足を動かしている。一生懸命付いてくる姿が子犬みたいで可愛いな。

 四階まで一気に登って行き着く間もなく教室へ駆け込み、俺より十秒ほど遅れて雫さんが入ってくる。そのとき、タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴った。

「お、おはよう……ございます…………」

「おはよう、相原さん。今朝は随分と慌しいわね」

「はい……。ちょっと、寝坊してしまいました」

 寝坊ねぇ……。大方、夜遅くまでオムレツ作りに挑戦してたんだろう。勉強の他にも習い事だってある筈なのに……ちゃんと寝ているかちょっと心配になってきた。

「時間ぎりぎりじゃねぇか、紅瀬。しかもタッチの差ときた」

 タッチの差だって? 何を言っているんだこいつは?

「お早う御座います、紅瀬君」

「ひ、柊先生……」

 やべっ。昨日のこともあって流石に今回ばかりは減点されても仕方ねーぞ。しかもめっちゃ爽やかな笑顔を向けてるから余計に怖いッ!

「本来なら遅刻は限定対象ですがタッチの差で紅瀬君の方が早かったようですし、今回も見逃してあげますよ」

「あ、ありがとうございます……」

 うわっ、言葉にすんごい棘を感じるんですが……。俺、もしかしたら柊先生に目ぇ付けられたか? 奨学生という身分を忘れた不良生徒とかいうレッテルを貼られるのだけは勘弁だぞ。

「では皆さん、ホームルームを始めますので席に付いて下さい」

 そしてそれまで騒がしかった教室を仕切るように一際大きな声で先生が声を出す。こうして、今日も一日が始まっていくのを実感しながら俺も大人しく席に付いた。


 昼休みは大人しく食堂で食べることにした。本当は雫さんと一緒に食べようと思ったけど今日は他の友達と約束をしてたらしい。水瀬に至っては『おホモだちに見られたくないやいっ』なんてワケ分からないことを口走ってたし。

 そんな訳で一人で食堂へ向かってみると──

(うわっ……)

 食堂に出るとそこは相変わらずの盛況だった。狭い食堂という訳じゃないがそれでもここは全校生徒の半数しか入らない規模らしい。何でも大きくする白鷺学園にしてはわりと地味なスケールだ。

 券売機でキャビア丼(これもビックリするほど安い)の食券を買って受け取り口で食券と交換する。人混みを分け入りながら席を探すべく、目線をあちこちに配らせていると桐生先輩が食堂の隅でご飯を食べているのが見えた。初めて先輩と会った時とは逆の立場だな。それならここはあの時と同じように振る舞ってみるか。

「ここ、空いてますか?」

「どうぞ──て、紅瀬君じゃない」

「先輩も今日は学食ですか?」

 先輩と向かい合うように腰掛けて無難な話を切り出す。遠くから見つけた時は学食のご飯を食べているように見えたがどうやら違ったようだ。

「デザート目当てですか」

「えぇ。ここのシフォンケーキ、結構美味しいわよ~。紅瀬君は食べたことある?」

「美味しいという話なら沢山聞いたことあるんですがね」

 どう考えても一個五百円は高いだろ。近所のケーキ屋でも高い奴が三百八十円だからそれを考えればどれだけ高いか容易に想像が付くだろう。

 なに、発想が貧困? うるせー、庶民ならこの程度の金銭感覚は当然なんだよっ!

「ところで先輩……」

「ケーキならあげないわよ」

 いや、頼まれてもケーキ取らないから大丈夫だって。

「いや、そうではなくて……食べる順番、逆じゃないですか?」

 普通、ケーキやアイスといったデザートの類は食後に食べると相場が決まってる。が、先輩は食前にデザートを食べている。……多分、突っ込んだらいけないことだろうけど気になった以上、突っ込まざるをえないだろうこれは。

「いいのっ。食後にまた頼むから問題ないわよ」

 食後にまた食べるって……明らかに金の無駄遣いだから。別に止めたりはしないけど……。

「そういう紅瀬君こそ今日は学食?」

「弁当作る余裕がありませんでしたから」

「ふふん、駄目だよ紅瀬君。弁当を作る余裕を持つのも家事仕事のうちよ♪」

「現役で専業主夫やってる人間によく言えますね」

「あら? 私も家事仕事ぐらいするわよ」

 本当かよ? 家事仕事は料理だけじゃないんだぞ? 日曜日だって朝起きてご飯作ったり洗い物やったり洗濯物を片付けたりしてるのか?

 ……まぁ、うちは親父と二人暮しだからそんなに手間は掛からない方だけど。

「あぁ、そう言えば先輩に一つ報告しておきたいことがあります」

「そんなに食べたら太る、とでも言いたいのかしら?」

「それもそうですが……俺が同好会の部員じゃないこと、バレてましたよ」

「うっ……。やっぱりバレてたんだ、紅瀬君のこと。……それで、鳳条院さんは何て言ってた?」

「黙認してくれるそうです」

「ふーん、黙認ねぇ…………」

「何か不満でもあるんですか?」

「あるわよ。なーんか貸しを作られたみたいですっきりしないのよねー」

 あぁ、そういう風に解釈したのか。それならちゃんと説明しといた方がいいな。

「別に貸し借りとかじゃないですよ。俺に一日限りの手伝いをさせる代わりに黙認するって言ってましたから」

「自治会の手伝いなんかしたの?!」

「そうですけど?」

 なんだよ。自治会ってそんなにおっかないところなのか? 俺がそんな顔を浮かべていたかどうかは分からないけど先輩は思い出したように首を小刻みに振って俺の目を見てくる。

「紅瀬君は新入生だから知らないでしょうけど、前の自治会は本当酷かったのよ?」

 そう前置きしてから先輩は一度だけ咳払いをして、話を続けた。

「二年前までこの学園はね、部活も同好会も結構多かったのよ。けど当時の会長だった人が相当融通の利かない奴でね、半分以上の同好会と部活を廃部にしたの。今の三年生なら誰でも知ってることよ。勿論、廃部になったところはそこまで真面目に活動しているところじゃなかったしその年は充分な予算が確保できなかったっていう背景があったみただけどね」

「だからと言って自治会を敵視する理由にはならないと思うのですが?」

 今の話を聞く限り、当時から自治会に相当な権限があるのは分かったけど先輩の反感を買うほどのものだとは思えない。

「いいえ。決定的なのはその年の秋に起きた出来事。そのとき、素行の悪い生徒が何人か目立ってたけど多分、普通の高校と比べたら許容範囲内なんだけど、あろうことかその会長はその生徒たちを退学処分にしたのよ」

「えぇ?!」

 退学処分って、明らかに生徒の裁量に任せていい問題じゃねーだろッ! 教師がそうした処分を言い渡すのならまだしも、自治会の権限で退学はやり過ぎってもんだろ。

「その当時、会長……鳳条院先輩も関わっていた、と?」

「そりゃそうでしょ? 鳳条院さんは入学当初から副会長の座に付いてたんだし」

 いや、一年で副会長とか別に珍しくないぞ。規則では副会長は二年と一年が一人ずつ就任するよう義務付けられてる訳だし。

「とにかく、そういうことがあったから自治会の存在は絶対だし誰も逆らおうとは思わないのよ。誰だって大事な場所を奪われたくはないでしょう?」

「…………」

 先輩の言う言葉を、俺は素直に受け入れられなかった。

 確かに先輩が入学した当時の自治会は問題があった。だけどそれは当時の会長に問題があるだけで鳳条院先輩が悪いとは思えない。約束は守るって明言してたし、部活の監査をする時もあくまで公正に判断していた。何より自分のせいで俺の帰りが遅くなったお詫びにと車で送ってくれるような人が悪人だとは思えない。

「今の話を聞いて紅瀬君はどう思った?」

「少なくとも、の会長は悪い人ではありません」

「そう思う根拠は?」

「自分の目と耳で会長の仕事ぶりと人柄を体感しましたから、では理由になりませんか?」

 先輩が会長をどう思おうが俺は口出しする気はない。けどそれはちゃんと今の会長を知ってからにして欲しい。料理部の件については妥当な裁量だと思うけどそれとこれとは別問題だ。

「先輩、料理部のことを悪く言われた時こう言いましたよね。活動視察さえしてない人間に遊びなんて言われる筋合いはないって」

「うっ…………はい。言いました」

「会長には会長の事情があるように、俺達には俺達の事情があります。立場が違えば対立するのは自然ですから会長イコール悪い奴だと決め付けるのはいけません」

「うぅ……一年なんかにいいように言いくるめられている自分が果てしなく悔しい」

「いや、別に言いくるめている気はないんですけど……」

 俺はただ自分が感じたことをそのまま口に出しただけだし。喋っている途中で先輩の反感を買うんじゃないかって結構ヒヤヒヤしたけど。

「けど、相原さんの味方をするわりにはあの会長さんのこと気に入っているように見えたのは私の気のせいかしら?」

「茶化さないで下さい。あれはあくまで俺個人の評価ですし、会長派に寝返るようなことなんて絶対しませんから」

「分かってる。冗談よ」

 冗談だったのか……。結構本気にしちゃったぞ。そんなに親しい間柄ではないが先輩は自分が楽しむ為なら俺をいくらでも弄り倒すような人間だと思ってるから油断できないんだよなぁ。

「紅瀬君は少し固すぎるわよ。もうちょっと肩の力を抜いて生きてみると楽しいわよ」

「目の前に肩の力を抜きすぎている人が居るように思えるんですが?」

「失礼しちゃうわね。人よりちょっと青春を謳歌してるだけよ」

 どっちも同じジャン。まぁ先輩にはデザート専門のフルコースを作るパティシエになるっていう夢があるから努力は怠ってないだろうけど。

「で、話は変わるけど紅瀬君」

「なんですか?」

「今日はどうして一人なのかな? おねーさんに話してごらん。ほれほれ~」

「何の話ですか?」

「とぼけなくてもいいわよ。水瀬君に相原さんを取られちゃったから拗ねて学食に来たんでしょ~?」

「違います。雫さんは今日、別の友達と一緒に御飯を食べてるだけです」

「とか言っちゃってぇ~。本当は水瀬君に取られたんじゃな~い? 正直に話してくれたらおねーさん直伝のオンナを口説く秘訣を教えちゃうぞ♪」

「だから本当のことを言ってるじゃないですか」

 全く、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言うと来たもんだ。しかも雫さんの名前出されるまで一番訊きたかったこと忘れてたし。

「俺のことより雫さんのオムレツ作りの成果はどうなんですか? 先輩、昨日も雫さんの特訓に付き合ったんでしょう?」

 順序が逆になったけど先輩に会ったらまずそれが訊きたかった。我ながらとんでもない遠回りをしてしまったと思う。ギャルゲーで言えばフラグクラッシャーってところか。

「露骨な話の逸らせ方だけど……ま、今日はこのぐらいで勘弁してあげるわ」

 別に話を逸らした気はないんだが……いや、突っ込むまい。ここで反発してしまえば間違いなく墓穴を掘ることになる。

「正直、ちょっと厳しいわね。最初の頃と比べたら幾分かマシになったけど……鳳条院さんの下を唸らせることは難しいわ。少なくとも今日の段階で格段に成功率をあげない限り、勝機はないって思った方がいいかも」

「そんなに酷いんですか?」

「ううん。一応オムレツにはなってるわ。ただ、形が悪かったり焼きすぎたりして完成には程遠いってだけ」

 あっ、なんだそういうことか。言われてみれば確かにオムレツとしての原型は留めているが皆が想像するようなふんわりオムレツではない。そこまで完璧なものを作るよう明言された訳じゃないけど、ここには例外を除けば生粋の令嬢とお坊ちゃましかいない。生半可なものは食べ物として認めてもらえないだろう。

「雫さんの心配をしているのは分かるけど、紅瀬君は自分に出来ることは見つけられた?」

「俺がそれを模索しているの、分かってたんですか?」

「ううん。でも紅瀬君のことだから黙っているとは思わなかっただけ。で、実際のところどーなの?」

「オムレツ作りの要点をまとめたメモの手渡しぐらいなら考えたんですが、役に立ちそうもないでしょう」

 そもそも雫さんはお抱えのシェフに調理法を伝授してもらっているんだ。素人も同然である俺が調べ上げたことなんて役に立つ訳がない。

「充分なんじゃない?」

「えっ?」

 ところが、俺の考えを否定するように先輩はきっぱりとした口調で俺に告げた。充分って、そんなんでいいのか?

「相原さんも一応、シェフに作り方は教わっているみたいだけど向こうも忙しいでしょう? それに一人でコツコツ作業するよりは競争相手が居た方がいいと私は思うの」

 あー、互いに競い合って切磋琢磨するって発想はなかったな。いや、俺はオムレツに関する資料を集めただけで実際にはまだ作ってないが。

「じゃあ紅瀬君は今日の放課後、雫さん家に来る?」

「いえ。今日は今日で予定がありますから明日でいいですか?」

「雫さんの手伝いより大事な予定? それってなんなの?」

「家事仕事ですよ。足りない食材や洗剤なんかを買い足したりしているとあっという間に時間が過ぎますから」

「あー、それなら仕方ないか……」

 よく、生活費と小遣いを一緒にしている輩がいるがウチはそんなことはしない。それにその金は俺のじゃないからよく考えて使うべきだから無駄遣いは絶対に出来ない。ただし、材料を無駄にしてしまうことはよくある。具体的な例を挙げるなら夕飯作っておいたけど食べてくれなかったりとか。そういうときは問答無用で朝食か弁当のおかずになることが多いけど、痛みやすいものだった場合は捨ててしまう。

「別に一日ぐらい親に任せてもいいじゃない」

「親が宛にならないから自分で家事仕事をしているんです」

「紅瀬君のご両親って、共働き?」

「いえ、父子家庭です。親父は刑事ですが最近は忙しいみたいで不規則な生活送ってます」

「…………父子家庭、だったんだ」

「えぇ。私は全然気にしてませんけど」

 そりゃ、子供の頃はわりと寂しんボーイな少年だったけど成長するにつれて親父の仕事を少しずつ理解してきたし、それがどれだけ大変かって知ることができたからこそ、俺が家事仕事を積極的にやるようになった。

「じゃあさ、今度紅瀬君の家に遊びに来ていい? 相原さんも一緒に」

「俺の家、ですか?」

「うん。で、そして二人で御飯作って紅瀬君に食べて貰うの。お袋の味とまではいかないけど女の人が台所に立って御飯を作るっていうのを一度ぐらいは味わいたいって思うでしょ?」

「いや、別にそうは──」

「思うわよね?」

 だからどうしてイエスと答えろと言わんばかりに詰め寄る。

「私と相原さんの手料理、食べたいわよね?」

「…………はい」

 結局先輩の有無を言わせない迫力に根負けしちゃった俺。まぁ日程までは決めてないし、ただの口約束で終わるだろう。気まずいものを隠してる訳じゃない。家の中が散らかってるから上げたくないだけだ。

 想像して欲しい。机の上に食べ終わったカップ麺や食器、新聞が置かれた机。乱雑に積まれた雑誌の山。脱ぎ捨ててある衣服。小汚い床。はっきり言って他人を招待できるような家じゃない。そもそも俺、片付けに関してはわりとルーズだからそういうところはあまり知られたくないし見られたくもない。

「そのうち遊びに行くから楽しみにしててね♪」

「気長に待ってますよ」

 できればそんな日は一生来なくてもいいがな。


 例によって例の如く暇を持て余す放課後。雫さんは先輩に料理指導。水瀬は街で知り合ったという女の子と遊びに出掛けた。

 ありのままの心境を話そう。めっちゃ寂しいです、俺。いくら買い物するためにお誘いを断ったとはいえ、流石に寂しいものがある。きっと、俺の背中には哀愁がむんむんと漂っているに違いない。

「ずいぶんと辛気臭い顔してるわね」

 そんな哀愁を漂わせていたせいか、俺は昇降口付近で呼び止められた。相手は振り向かなくても分かる。鳳条院会長だ。

「今日も自治会の活動ですか?」

「いいえ。今日は親戚同士の集まりがあるから欠席」

「今の自治会は会長しかいないなら欠席も何もないと思いますが」

「それもそうね」

 俺の言葉に鼻で笑うと会長はさっさと上履きから靴に履き替える。革靴なんてよく履けるよなぁ。俺なんかくるぶしに淵が直撃して痛くて痛くてもー堪らない。

「…………。靴紐結わくの、面倒ではなくて?」

「庶民にとってはこれが普通ですから」

 そもそも運動靴が庶民の靴というのは流石に偏見だろ。運動部に所属する人間なら誰でも靴紐ぐらい結ぶし、あの雫さんでさえ靴紐のある靴を当たり前のように受け入れてる。

 程なくして靴紐を結わき終えた俺は会長の後ろをそれとなく歩いて校門を目指す。お互い、何かを話すことはなかったがさりとて気まずい雰囲気でもない。共通の話題もないし立場上、俺と会長は敵同士だから馴れ合う訳にはいかない。

「……?」

 校門前まで来ると、俺と会長は足を止めた。背広を着た大柄な男が二人。男の一人が俺達の姿を確認すると歩み寄ってくる。しかも男の頬には刃物で切られたような跡が残ってる。やばい、身に纏ってる空気からして嫌な感じがする。

「鳳条院の人間だな?」

「…………」

 男の質問に会長も俺も答えない。後にして思えばここは違うと即答するべきだったかも知れない。男はその沈黙を肯定と受け取り、ポケットから無骨なモノを──スタンガンを取り出す。まさか、この展開は──

(営利誘拐!?)

 そういや親父が前に言ってたっけ。この近辺で不審者の目撃情報が相次いでるって。まさかこの男がその不審者か?! いや、そんなの考えてる暇なんてない。早く助けを──

「……ッ」

 暗転。俺が声を上げるよりも早くもう一人の男が俺の鳩尾に重い一撃を喰らわせる。あまりの痛さに呼吸さえ出来ず、瞬く間に身体の自由を奪われる。一瞬だけ会長の姿が見えたがスタンガンで気絶させられていた。

 その後はもうあっという間だった。自由の利かない俺を縛り上げると軽々と担ぎ上げられ、車の後部座席へ放り投げられる。しかも周囲には生徒の姿が見えない。えっ、何だよコレ……。もしかして計画的犯行ってやつ!?

「よし。出せ」

 俺を殴った男が短く告げると車は急発進する。ちょ、これ本気でどーなるんだよっ!?

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