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朝凪高校・恋路工作室 ── 恋愛操作団が愛と願いを叶えます ──  作者: Song1
朝凪高校・恋路工作室 ──最後の翻訳──
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第38話 設計図じゃなく本文を

第38話 設計図じゃなく本文を


「まだ設計図書いてんのか? 本文書けって」 陽太に言われるのは、三回目だった。


十二月二十八日。 年末。


冬休み が一週間経っていた。堤防 で彩音と会ってから 五日。あの日 「大丈夫だ」と言った。彩音は 心理学部に行くと決めた。ピアサポート をすると決めた。 俺は 「翻訳不能でいい」と決めた。陽太 に「言うことにした」と宣言した。


五日 が経って。


まだ言えていなかった。


彩音 とはLINE で毎日やりとりしている。冬休み だから学校 はない。屋上 もない。堤防 にも 毎日は行けない。 だがLINE がある。


何を話しているか。 大したことは話していない。


『今日の昼 何食べた?』

『おでん です。コンビニの』

『コンビニのおでん か。大根 が好きだ』

『大根 ですか。私は 卵 です』

『卵 か。 彩音は卵 好きだったのか』

『好き です。半熟 が』


おでんの具 の話。情報量 ゼロ。密度 は高い。 屋上のサンドイッチ と同じ構造。内容 ではなく。やりとりすること 自体に意味がある。


だが 「好きだ」 は。一度も出ていない。LINEの画面 の中に。


LINEで「好きだ」 と送れるか。 いや。送れない。文字 で送る「好きだ」 は。台本 だ。設計図 だ。打ち込んで。推敲して。送信 する。 翻訳者のプロセス そのものだ。


「好きだ」 は。声 で言わなければ。彩音 の目を見て。 文字 ではなく。音 で。


陽太 が言った。「声が出なくても目で伝わる」。 文字 は。目 がない。


年末 のこの五日間。翻訳者の頭 は 「いつ」「どこで」「どう言うか」 を。無意識 に設計 し続けていた。止められない。翻訳者 のOSが。勝手 に設計プロセス を走らせている。


「言いたくなったときに言え。設計するな」 と。陽太 が言った。


言いたい とき。 いつも 言いたい。LINEで おでんの具 の話をしているときも。「好きだ」 が喉の奥 にある。 だがLINE では出さない。 会って。目を見て。声 で。


次 に彩音 に会うのは 年末 のどこか。「年末 にまた堤防で」 と言った。 まだ日程 を決めていない。


スマホ が振動した。


陽太 だった。


『恒一。 今日 暇か。来い。駅前のカフェ。一時。 告白作戦会議する』


告白作戦会議。 陽太が 名前をつけた。工作室 の作戦会議 のように。


『作戦会議 って。設計するな って言ったのお前だろ』


『設計 じゃない。会議 だ。 お前の頭 を整理してやる。真白 がバイトで 午後暇なんだよ。来い』


暇 だから来い。 陽太 の誘い方はいつも 理由がシンプル。


『行く。 一時』



午後一時。 駅前のカフェ。


朝凪 の駅前。小さなカフェ。観光客 向けの 海が見える席 がある。冬休み だが 年末 は人が少ない。地元の人間 しかいない。


陽太 が奥の席 に座っていた。メロンパン ではなく。カフェラテ を飲んでいる。 珍しい。


「おう。 来たな」


「来た。 メロンパン じゃないのか」


「カフェ だからな。 メロンパン は持ち込み禁止 だった」


「メロンパン教 の受難 だな」


「受難 だ。 座れ」


座った。 向かい合わせ。コーヒー を頼んだ。砂糖 二つ。


「恒一。 五日 経ったな」


「五日 」


「堤防 で彩音ちゃんに会って から。 彩音ちゃんに 言えたか」


「言えて ない」


「 だよな。 LINEで おでんの具 の話してるだけだろ」


「なんで 知ってる」


「真白 が凛花 に聞いて。凛花 が あ、いや。 友達ネットワーク だ。気にするな」


「気に なるが」


「気にするな。 本題 だ」


陽太 がカフェラテ を置いた。 陽太がカフェラテ を置くのは。メロンパン を置くのと同じ 重さ。本気 の合図。


「恒一。 お前 今。何 をしてる」


「何 って」


「五日間 何 をしてたんだ。 LINEで おでんの話 以外 に」


「……考えて た」


「何 を」


「いつ言うか。 どう言うか。 どの場所 で。どのタイミング で。 」


「設計 してんじゃねえか」


声 が。大きかった。カフェ の中で。 隣のテーブル の客 が振り向いた。


「設計 するなって。言ったろ。 堤防 でも言った。LINE でも言った。 何回 言えば分かるんだ」


「分かって る けど」


「分かってない。 お前は翻訳者 だ。翻訳者 のOS が 勝手に設計図 を描く。分かってる と言いながら 脳が 設計 してる。 止まらない んだろ」


「止まら ない」


「だろうな。 翻訳者 の職業病 だ。 だから 今日。面と向かって 言う。三回目 だ」


陽太 が。俺 の目 を見た。まっすぐ。 ふざけていない。にやにや していない。 真剣。


「設計図 じゃなく。本文 を書け」


三回目。 凛花 が一回目。陽太 が二回目(堤防)。今日 が三回目。


「お前 は他人の恋 は設計できる。依頼者 の告白 を。三日 で形にできる。 でも自分の恋 には。五日経っても 設計 が終わらない。 なぜか分かるか」


「……設計 できないから だ。自分の恋 は」


「違う。 設計 しようとしてるから だ。設計 しようとするから 終わらない。 設計 をやめたら。言葉 は勝手に出る」


「勝手 に」


「俺 が真白 に告白したとき。設計 したか?」


「してない。 『好きだ。付き合ってくれ』 だけだった」


「設計 してない。準備 もしてない。 新聞部室の前 で。真白 を見て。 口 が勝手に開いた。脳 が処理する前 に。心臓 が声 を作った」


「心臓 が声 を」


「お前 も同じ だ。 堤防 で。海 に向かって。『彩音が好きだ』 って。何回 言った」


「十一回 」


「十一回 。 あれ。設計 して言ったか? タイミング 計算して言ったか?」


「して ない。 勝手に 出た」


「勝手に出た だろ。 堤防 で海に向かって 言えるのに。彩音ちゃん の前 では言えない。 なぜだ」


「彩音 の前 だと。翻訳者 が起動して 」


「翻訳者 を殺せ」


殺せ。


「殺せ って」


「殺せ。 彩音ちゃん の前に立ったとき。翻訳者 を殺せ。フィルター を外せ。プロセッサ を切れ。 ただの。高瀬恒一 になれ」


「ただの 」


「ただの。十八歳 の。好きな女の子 がいる。それだけ の男 になれ。 翻訳者 も。団長 も。工作室 も。全部 脱げ。裸 になれ」


裸 。


「裸 になって。彩音ちゃん の目 を見て。三文字」


「好きだ 」


「それ だ。今 言えたろ。 俺の目 を見て」


言った。十二回目。カフェ で。陽太 の目 を見て。 勝手に出た。設計 していない。


「今 勝手に出た だろ。 俺の目 を見て。心臓 が動いて。口 が動いた。 それでいいんだよ。彩音ちゃん の前 でも。同じことをしろ。 目を見ろ。心臓 に任せろ。口 が勝手に動く」


「勝手 に」


「勝手 にだ。 設計 するな。計画 するな。 会って。目を見て。 出てくる言葉 が。お前 の本文 だ」


本文。 三回目 の「本文書け」が。最も深く 刺さった。


カフェ のBGM がジャズだった。冬 の午後。窓 の外に海 が見える。灰色 の。冬 の。


「陽太 」


「何だ」


「お前 覚えてるか。去年 凛花が言ったこと」


「凛花 ?」


「『先輩は 設計図じゃなくて 本文を書いている感じです』 って。 覚えてるか」


「覚えてる。 お前 の名場面は全部 覚えてる。親友 だからな」


親友 だから。 全部覚えてる。


「凛花 が最初 に言って。お前 が引き継いだ。 三回。同じ言葉 を。 設計図じゃなく本文を」


「三回 で足りるか。 四回目 いるか?」


「いらない。 三回 で十分 だ」


「十分 か。 じゃあ もう言わない。これが 最後 だ。 あとは お前 が。自分 で」


最後。 陽太の 助言の最後。


「恒一。 一つだけ。最後 に」


「何だ」


「お前 は。全部 翻訳しようとする。他人 の感情 も。自分 の感情 も。 でも恋 は翻訳 するもんじゃない」


「翻訳 するもんじゃ 」


「翻訳できない言葉 のまま。渡すもんだ。 きれいに訳された気持ち より。ぐちゃぐちゃの原文 のほうが伝わる」


「ぐちゃぐちゃ の原文」


「安藤 がやっただろ。お前 の翻訳 を自分 の言葉 に書き直して。ぐちゃぐちゃの 自分の声 で。水嶋さん に言った。 伝わった。泣いた」


「泣いた な」


「お前 も同じ だ。翻訳者 の綺麗な言葉 じゃなく。高瀬恒一 のぐちゃぐちゃの声 で。 彩音ちゃん に。渡せ」


渡す。 翻訳不能 の。加工なし の。生 の。


「恒一」


「何だ」


「泣きそうな顔 してるぞ」


「泣いて ない」


「泣きそう だ。 目 が赤い」


「赤く ない。 カフェ の照明 が 」


「嘘 つくな。翻訳者 は嘘 が下手 だって。彩音ちゃん にも言われてたろ」


「……うるさい」


泣いて ない。 だが。目 が熱い。 陽太 の言葉 が。三回分 の「本文書け」 が。全部 胸 に入ってきている。


凛花 が種 を蒔いた。「設計図じゃなく本文を書いている感じです」。 陽太 が水 をやった。三回。 今日 芽 が出ようとしている。


「陽太 」


「何だ」


「ありがとう。 三回 分の。 本文書け の」


「だから礼 は 」


「先 に言う。 うまくいっても いかなくても」


「……しつこい な。前 も先に言ったろ」


「先に言う タイプなんだ。 翻訳者 は後 から言葉 を磨くけど。 感謝 は先 に言う」


「感謝 は翻訳不要 か」


「翻訳不要 だ。 ありがとう。陽太。 工作室 が半分も回らなかった のはお前 がいなかったら じゃなくて。お前 がいたから 全部が回った」


陽太 は。三秒 ほど黙った。 カフェラテ のカップ を回していた。


「恒一 」


「何だ」


「お前 のせいで。俺 真白 に告白できた んだぞ」


「俺 のせい?」


「お前 が工作室 で。依頼者 の恋 を翻訳してるのを見て。あいつらが自分 の声 で告白していくのを見て。 俺 も。できるかもしれない って。思えた」


「俺 が」


「お前 の翻訳 が。俺 の勇気 になった。 恩返し だよ。今日 のこれは。 お前 が俺の恋 の背中を押してくれた。去年。 だから俺 が お前の恋 の背中 を押す」


恩返し。 対等 の。


「天野 陽太」


「フルネーム で呼ぶな」


「天野陽太。 戦友 だ。お前 は」


「戦友 か。 工作室 の」


「ああ。 こいつがいなかったら 工作室 は半分 も機能しなかった。 感謝 の言葉 は翻訳不要 だ。 ありがとう。陽太」


陽太 が。鼻 をこすった。


「目 にカフェラテ の湯気 が入った」


「カフェラテ の湯気 で目 が赤くなるか?」


「なる。 俺 のカフェラテ は特別 だ」


笑った。 二人で。カフェ で。年末 の午後。海 が見える窓際 で。 工作室 のパイプ椅子 ではなく。カフェ の椅子 で。場所 が変わっても。笑い方 は変わらない。


「じゃあ 俺 行くわ。真白 が三時 にバイト終わるから」


「迎え に行くのか」


「迎え に行く。 彼氏 だからな」


「偉い な」


「偉くない。 好き だから行く だけだ。 シンプル だろ」


好きだから行く。 シンプル。 翻訳 不要。


陽太 が立ち上がった。


「恒一。 最後 の最後」


「何だ」


「年末 に彩音ちゃん と会うんだろ」


「会う。 まだ日 は決めてない けど」


「決めなくていい。 会ったとき に。言いたくなったら 言え。言いたくならなかったら 次 でいい。 設計 するな。 心臓 に任せろ」


「心臓 に」


「お前 の心臓 は。翻訳者 の頭 より。正確 だ。 十一回 堤防 で証明 しただろ」


十一回。 堤防 で声に出した。翻訳者 の頭 が止まっているとき に。心臓 が勝手 に声 を作った。


「心臓 に任せる」


「そうしろ。 じゃあな」


陽太 が出ていった。カフェ の扉 が閉まった。


一人 になった。コーヒー が冷めている。 砂糖二つ の。


「設計図 じゃなく。本文 を」


声 に出して 呟いた。三回目 の言葉 を。カフェ の中 で。一人 で。



帰宅。 自室。午後四時。


暗くなり始めている。 冬至 を過ぎた。日 が少しだけ 長くなっている。 だがまだ 四時 で暗い。


デスク に座った。 教科書 やノート が散らかっている。受験勉強 のため に。 だが今日 は勉強 しない。


引き出し を開けた。 新しいノート があった。大学ノート。A5。 まだ使っていない。白紙。


開いた。 白い ページ。


園田 に白紙 のノートを渡した。「ここに お前自身の言葉を書け」 と。消せるように 鉛筆で。


凛花 の三冊 のノート。工作室 の全記録。記録者 の手で 一年分 が書かれている。


今 俺 が。白いページ の前 に座っている。


ペン を取った。ボールペン。 鉛筆 ではなく。消せない。 消す必要 がない。


何 を書く。


陽太 が言った。「本文を書け」。 設計図 ではなく。台本 ではなく。 俺 の本文。


翻訳者 が翻訳 しない言葉 を。初めて 書く。



ペン が。動いた。


考える前 に。翻訳者 のプロセッサ が起動する前 に。 手 が。勝手 に。



「彩音 へ。


好きだ。


いつから って聞かれたら。たぶん 屋上から。お前が 風のために来ました って嘘をついた日から。あの嘘 が好きだった。


なぜ好き か。分からない。翻訳者 なのに。お前 の前 だと辞書 が白紙 になる。パターンマッチング が止まる。分析 ができない。 お前 だけだ。翻訳 できないのは。


恋 なのか。友情 なのか。尊敬 なのか。 全部 混ざってる。分離 できない。名前 がつけられない。 翻訳 不能。


でも好きだ。 翻訳不能 の。ぐちゃぐちゃの。名前 のない。 好き。


お前 が泣いたとき。翻訳 しなかった。ただ隣 にいた。 あのとき分かった。翻訳 しないほうが 伝わることがある と。


この手紙 も。翻訳 してない。設計 もしてない。台本 でもない。 ただの。高瀬恒一 の。ぐちゃぐちゃの原文。


きれいに訳 された気持ち より。ぐちゃぐちゃ のほうが伝わる って。陽太 が言った。 だからぐちゃぐちゃ のまま書く。


好きだ。 三回目 書いた。 もう一回。好きだ。四回目。


何回書いても 翻訳 はできない。名前 もつかない。 でも書く。心臓 が書け って言ってるから。


お前 に会いたい。 おでんの具 の話 がしたい。堤防 に座りたい。冬の屋上 で。 それだけ のことが。こんなに 大事 だ。


好きだ。


以上。 これ以上 は。翻訳者 にも書けない。


高瀬恒一」



ペン を置いた。


読み返した。 字 が汚い。走り書き。翻訳者 の綺麗 な字 ではない。 だが嘘 がない。設計 がない。翻訳 がない。


「好きだ」 が四回。「翻訳不能」 が。「ぐちゃぐちゃ」 が。 語彙 が少ない。翻訳者 なのに。


だが 陽太 が言った。「ぐちゃぐちゃの原文のほうが伝わる」。


これ が。俺 の原文。本文。 設計図 じゃない。台本 じゃない。 翻訳者 が翻訳 しなかった 言葉。


ノート を閉じた。


これ を彩音 に見せる のか?


いや。 見せない。見せるかもしれない。 分からない。


見せるかどうか は。会ったとき に決める。設計 しない。 心臓 に任せる。


ノート に書いたこと で。一つ 確認 できた。


俺 の本文 は。「好きだ」 で全部 だ。理由 は分からない。成分 は分離 できない。翻訳 は不能。 でも「好きだ」 は確定 している。


あとは 声 にするだけ。


いつ ?


設計 しない。 「言いたくなったときに言え」。


次 に彩音 に会ったとき。目 を見たとき。心臓 が「今だ」 と言ったとき。 そのとき に。


声 が出る。 勝手に。堤防 で海 に向かって 言ったように。カフェ で陽太 の目 を見て 言ったように。 勝手に。


心臓 が。翻訳者 の代わりに。声 を作る。


スマホ を取った。 彩音 にLINEを送った。


『彩音。 年末 どこかで 会えるか。堤防 で。 会いたい』


「会いたい」 また書いた。二回目。 五日前 にも書いた。 設計 していない。本音 が また勝手 に出た。


三十秒後。


『会いたい です。 大晦日 は? 午後なら。 冬の屋上 で。 楽しみにしています』


十一度目 の「楽しみにしています」。


大晦日。 十二月三十一日。 あと三日。


大晦日 に。堤防 で。 一年の最後 の日 に。


言える だろうか。 分からない。設計 しない。 会って。目 を見て。心臓 に任せる。


陽太 にLINE。


『大晦日 に彩音 と会う。堤防 で。 設計 はしない。心臓 に任せる』


五秒後。


『よし。 心臓 を信じろ。 お前 の心臓 は。翻訳者 の頭 より正確 だ。 行ってこい。 おやすみ。今年 残り三日。良い年末 を。 来年 は。お前 の年 になる。メロンパンにかけて』


来年 は。お前 の年 になる。


メロンパン にかけて。 メロンパン教 の予言。根拠 はない。 だが。陽太 の予言 は。なぜか当たる。


スマホ を置いた。天井 を見た。


大晦日 まであと三日。


三日 の間 に。何 もしない。設計 しない。準備 しない。 ただ。普通 に過ごす。受験勉強 をする。年末 の大掃除 を手伝う。 普通 の冬休み を。


大晦日 に。堤防 に行く。彩音 に会う。 目 を見る。


そのとき 心臓 が何を言うか。


翻訳者 は知らない。 心臓 だけが知っている。


ノート を引き出し にしまった。 白紙 のページ に書いた 本文。四回 の「好きだ」。ぐちゃぐちゃの原文。


あのノート を。彩音 に見せるのか。見せないのか。 分からない。


分からなくていい。 設計 しない。


心臓 に。任せる。


「おやすみ」


声に出して 呟いた。十二月 の夜。年末 の。


あと三日。 今年 が終わる。


来年 が始まる。


陽太 が言った。「来年はお前の年になる」。


翻訳者 の年。 ではなく。


高瀬恒一 の年。


目を閉じた。 眠れるだろう。覚悟 が定まっている から。


大晦日 に。冬の屋上 で。彩音 に。


心臓 が「今だ」 と言ったら。


声 が出る。


出る。


おやすみ。

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