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朝凪高校・恋路工作室 ── 恋愛操作団が愛と願いを叶えます ──  作者: Song1
朝凪高校・恋路工作室 ──最後の翻訳──
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第2話 データは嘘をつかない

 第2話 最適化と翻訳


 星野蒼のデータ分析は、正直言って俺より精度が高かった。 ただし、精度が高いことと正しいことは、別の話だ。


 翌日の放課後。工作室。


 蒼が約束通りに来た。四時きっかり。 メトロノームみたいに正確だ。昨日より少しだけ制服が体に馴染んでいた。ボタンは相変わらず一番上まで留まっている。


「デモンストレーションの準備ができています」


 挨拶もなかった。 座る前にノートPCを開いている。鞄から出したのではなく、廊下で既に起動していたらしい。画面にはグラフと数字が並んでいた。


「おはようくらい言え」


「おはようございます。 デモの準備ができています」


「おはようが先だ。 座れ」


 陽太がメロンパンを差し出した。


「食うか? メロンパン」


「結構です。 糖質と脂質のバランスが 」


「食え。工作室の入場料だ」


「入場料 ? そういうルールはポスターに書いてなかったですが」


「暗黙知だ。 暗黙知はデータに乗らない」


 蒼は メロンパンを受け取った。齧らずに、膝の上に置いた。


 凛花がいつもの席でノートを開いていた。ペンを構えている。 記録の準備は完了。参謀の目が蒼に向いていた。昨日の「その自信が怖い」の続き。凛花は 一晩経っても、蒼への警戒を緩めていない。


 俺はデスクの前に座った。 団長の席。桐生先輩が座っていた場所。


「じゃあ 見せてくれ。最適化とやらを」



 蒼がノートPCの画面を全員に見えるように回した。


「サンプルとして 掲示板に匿名で恋愛相談を投稿していたアカウントを一つ、分析しました。メンバーのアカウントは使っていません。 昨日の指示通り」


 昨日、凛花経由で止めておいてよかった。 蒼は素直に従ったらしい。指示には従う。指示の理由を理解しているかは 別問題だが。


 画面にグラフが表示された。


「対象者のSNSアカウント。投稿内容、いいね履歴、フォロー傾向、投稿時間帯、リプライの感情分析 五つの軸で解析しました」


 蒼の指が画面をスクロールする。グラフが切り替わる。棒グラフ。折れ線グラフ。ヒートマップ。 色鮮やかなデータの海。


「まず、いいね履歴から好みの傾向。この人はアウトドア系の投稿に反応率が高い。特に海と夕日の写真。犬より猫派。甘い食べ物の投稿にいいね率が高いが 本人は投稿していない。好きだけど言えない性格です。推定精度89%」


「待て。 好きだけど言えない って、いいね履歴だけでそこまで分かるのか」


「いいねの頻度と対象のカテゴリを時系列で追うと 人が何に惹かれているかが見えます。いいねは無意識の行動です。投稿は意識的にフィルタリングしますが いいねはしない。だから本音に近い」


 陽太が メロンパンを持ったまま画面に顔を近づけた。


「これ こわくね?」


「次。フォロー傾向から行動半径。この人がフォローしているアカウントの位置情報タグを集計すると 行動範囲は学校を中心に半径三キロ。よく行く場所は駅前のカフェと、海沿いの堤防。精度91%」


 堤防。 俺がいつも歩く道だ。朝凪高校の生徒はだいたいあの堤防を通る。データ的には当然の結果だ。


「次。投稿時間帯から感情のサイクル。この人の投稿は夜の十時台にピークがある。内容は 独り言的なつぶやきが多い。感情分析をかけると 寂しさの指標が高い。特に金曜の夜に顕著。精度78%」


 金曜の夜に寂しい。 週末が始まるのに一人だから。誰かと一緒にいたい。だが言えない。 データは、そこまで語っていた。


「以上を統合すると。この人物は 海と夕日が好きで、甘いものが好きだけど言い出せなくて、金曜の夜に寂しくなる。堤防沿いのカフェでデートすれば、成功確率が最も高い。最適な告白タイミングは 金曜の夕方、堤防の上。推定成功率は、条件が揃えば74%」


 蒼がPCの画面を閉じた。静かに。 デモ終了、という意味だろう。


 工作室が静まっていた。


 陽太が メロンパンを口に入れるのを忘れて、開いたままの口で固まっていた。


「......こわ」


 二回目の「こわ」だった。


 凛花は ペンが止まっていた。ノートに何も書いていない。記録者が記録を止めるのは 処理が追いついていないときだ。


 俺は 正直に認めなければならなかった。


 蒼のデータ分析は 精度が高い。翻訳者の感覚読みでも 同じ人物と対面すれば、似たような結論に辿り着くだろう。海が好き。甘いものが好き。寂しがりや。 翻訳者なら声のトーンと表情から読む。蒼はデータから読む。到達点が同じだ。


 ただし 。


「すごいな」


 認めた。素直に。


「技術は本物だ。 到達点はほぼ同じだ。俺が翻訳で読むものを、お前はデータで読んでいる」


 蒼の目が ほんの僅かだけ緩んだ。褒められたのが嬉しい のではなく、自分の技術が認められたことに対する 合理的な満足。感情というより、正当な評価への反応。


「これが最適化です。人間の感覚に頼るより データのほうが再現性がある。翻訳者が体調不良で精度が落ちても、データは落ちません。僕は データを信じます」


「体調不良 」


 図星だった。去年の秋。志帆の件で壊れて、相談者の言葉を翻訳ではなく投影していたとき。 桐生先輩に「止まれ。今のは翻訳じゃない。捏造だ」と言われたとき。あのとき俺は 体調不良どころか機能不全だった。翻訳者が壊れたら翻訳ができない。


 データなら 翻訳者が壊れても動く。


 蒼の指摘は 痛いところを突いている。


「ただし」


 俺は 言った。


「精度が高いことと、正しいことは、別だ」


 蒼が 首を傾げた。


「具体的には」


「お前の分析で 『金曜の夕方、堤防の上で告白すれば成功率74%』と出た。データ的には正しいかもしれない。 だが、それをそのまま相談者に伝えたら どうなる」


「相談者が最適なタイミングと場所を知ることで 成功確率が上がります」


「データが言っている。だから金曜にここで告白しろ。 それは、設計か? 翻訳か? それとも指示か?」


 蒼の目が 止まった。


「データに基づく 提案です」


「提案 と指示の間は何だ」


「......意図です。 提案は相手の選択を前提にしている。指示は前提にしていない」


「そうだ。 じゃあ聞く。お前がデータで最適解を出して、相談者に提案した。相談者は お前のデータを見て、自分で考えて選んだと思うか。それとも データが正しいから従っただけか」


 蒼が 黙った。五秒。十秒。 長い沈黙。


「......分かりません」


 初めてだった。蒼が「分かりません」と言ったのは。昨日の入部面談では 全ての質問に即答していた。今 初めて答えが出なかった。


 凛花が 口を開いた。


「そこが 境界線です。星野くん」


 声は昨日と同じ静かさだった。だが 刃のほうが磨かれていた。一晩で。


「データが正確であればあるほど 相談者は従いやすくなる。74%の成功率。 数字を見せられたら、断る理由がない。でも 断る理由がないことと、自分で選んだことは、違います」


「柊先輩。 では翻訳は違うんですか。翻訳者が『お前の感情はこうだ』と言語化する。 それも、解釈を押しつけていることになりませんか」


 凛花が 一瞬、言葉を止めた。


 蒼の反論は 鋭かった。翻訳者のバイアスを指摘している。データの押しつけと、翻訳の押しつけ。 形が違うだけで、本質は同じではないか。


「違う」


 俺が答えた。


「翻訳と最適化の違いは 辞書を見せるか、答えを見せるかだ」


 蒼が俺を見た。


「翻訳者は 感情に名前をつける。辞書のページを開いて見せる。『お前の感情はここに書いてあるかもしれない。読むか読まないかはお前が決めろ』。 辞書を見せているだけだ。答えは渡していない」


「最適化は 答えを見せている。『金曜の夕方、堤防の上。成功率74%』。 データが答えを出している。相談者は答えを受け取るだけだ。選んでいるように見えて データの出力に従っている」


 蒼の眼鏡の奥の目が 動いた。処理している。 翻訳者の言葉をデータに変換しようとして、変換しきれない部分がある。


「辞書と答え ですか」


「そうだ。 辞書を渡すのが工作室。答えを渡すのは 違う何かだ」


「......その『違う何か』は 具体的に何ですか」


「操作だ」


 凛花が言った。 短く。はっきりと。


 蒼が 凛花を見た。


「操作 と、またその話ですか」


「何度でもします。 工作室にいる限り」


 蒼は メロンパンに目を落とした。膝の上の、まだ齧っていないメロンパン。


「......食べていいですか。これ」


「え?」


「メロンパン。 食べていいですか」


 凛花が 一瞬、面食らった。蒼が哲学の議論の真っ最中にメロンパンの許可を求めている。


「食べてください。 工作室の入場料ですから」


「入場料というルールは 」


「暗黙知です」


 蒼がメロンパンを齧った。 一口。咀嚼。飲み込む。


「......甘いですね」


「メロンパンは甘い。 データで予測しなくても分かるだろ」


 陽太が にやっと笑った。蒼が初めて データではないことを言った。「甘い」。感覚の言葉だ。数字ではない。


「メロンパンの糖質は約47グラムで 」


「数字に戻るな」


 工作室に 笑い声が起きた。陽太の笑い。凛花の 堪えきれない小さな笑い。俺も 口の端が上がった。


 蒼だけが 真顔だった。なぜ笑われたのか分かっていない。 だが、不快そうではなかった。困惑。 データにない反応を処理しようとしている顔。



 蒼が帰った後 工作室に三人が残った。


 凛花がノートを広げた。 デモの記録を書き始めている。手が速い。


「恒一」


 陽太が椅子にもたれて、天井を見ていた。


「蒼 どう思う」


「技術は本物だ」


「それは分かった。 問題は」


「原則を理解するのに時間がかかる」


「かかるだろうな。 あいつにとって原則は『ルール』であって『哲学』じゃない。暗記はできる。でも腹には落ちてない」


 陽太の分析は正確だ。 蒼は五原則を暗記している。だが暗記と理解は違う。①心は操作しない という文字列を記憶することと、なぜそのルールが必要なのかを骨身に刻むことは 別の行為だ。


「俺たちも 最初は分かってなかっただろ」


「ああ。 去年の俺も似たようなものだった」


 翻訳できることが武器だと思っていた。感情を読めることが全てだと。 桐生先輩の下で依頼をこなして、志帆の件で壊れて、自分の言葉を見つけるまでに 一年かかった。


 蒼がそこに辿り着くまで どれくらいかかるか。半年か。一年か。 あるいは、辿り着かないかもしれない。影山は 辿り着かなかった。翻訳の腕は一流だったが、原則の穴に落ちて、壊れた。


「でも影山先輩とは違う」


「違う?」


「影山先輩は 翻訳者だった。同じ言語を使っていた。だから原則との齟齬が見えにくかった。蒼は 言語が違う。数字の世界の人間だ。齟齬が最初から見える。 見えるから、修正もしやすい。たぶん」


「たぶん か」


「たぶんだ。 保証はできない」


 凛花がペンを止めた。


「高瀬先輩。 一つ気づいたことがあります」


「何だ」


「蒼くんのデモ。 あの分析結果。『海と夕日が好き。甘いものが好き。金曜の夜に寂しい』。 あれ、データとしては正確かもしれません。でも あのデータを見て、先輩はどう思いましたか」


「どう 」


「翻訳者として」


 翻訳者として どう読んだか。


「......同じ結論に辿り着いた。対面で話せば 俺も同じことを読み取ると思った」


「はい。 到達点は同じです。でもプロセスが違う。先輩はその人の声を聞いて、表情を見て、沈黙を感じて 辿り着く。蒼くんはデータを集計して辿り着く。到達点は同じでも その途中で起きることが違います」


「途中で起きること?」


「翻訳者が翻訳する過程で 相談者は『聞いてもらっている』と感じる。データ分析では 相談者は何も感じない。分析されていることすら知らない。 結果が同じでも、過程に人がいるかいないかで 意味が変わります」


 凛花の分析は 鋭かった。記録者がノートに書き続けてきた三冊ぶんの蓄積が、こういう瞬間に効く。凛花は データと翻訳の違いを、「過程の有人・無人」で切り分けた。工作室が場を作る。人が隣にいる。 それがデータにはない。


「凛花。 お前、本当に参謀だな」


「参謀 ですから」


「桐生先輩は一人目の参謀だった。お前は二人目だ。 二人目のほうが、切り口が新しい」


 凛花が 少しだけ頬を赤くした。すぐにノートに目を落として ペンを走らせ始めた。照れ隠しの記録。 凛花らしい。


 陽太が にやにやしていた。


「何だ。その顔は」


「いや 恒一が人を褒めるの久しぶりだなと思って。去年は桐生先輩にしか言わなかったのに」


「うるさい」



 教室棟に戻る廊下。


 陽太と並んで歩いた。蛍光灯の切れた暗い廊下ではなく 本校舎の明るい廊下。放課後の光が窓から入っている。帰宅部の生徒が通り過ぎていく。


「恒一。 蒼のこと、泳がせるか? 締めるか?」


「泳がせる とは」


「原則を理解する前に依頼に関わらせるかどうか。 締めるなら、理解するまで座学だけ。泳がせるなら 実戦で学ばせる」


「......泳がせたほうが早い。座学で原則を教えても、暗記して終わる。蒼は暗記が得意だから 暗記だけで分かった気になる。実戦で壁にぶつからないと 腹には落ちない」


「壁にぶつかったとき フォローは誰がする」


「凛花だ」


「凛花 か」


「蒼と一番近い位置にいるのは凛花だ。哲学的な対話ができる相手は 俺よりも凛花のほうが適任だ。俺は翻訳者だから 感覚で語る。蒼は感覚が通じない。凛花なら 論理で語れる」


「凛花に 蒼の教育係をやらせるってことか」


「教育 ってほど偉そうなものじゃない。隣にいて、ルールを逸脱しそうになったら止める。 桐生先輩が俺にやってくれたことを、凛花が蒼にやる」


「世代が回るな」


「回る。 桐生先輩から俺へ。俺から凛花へ。凛花から蒼へ。 歯車が一つずつ、回っていく」


 陽太は メロンパンの袋をポケットに入れながら、首を傾げた。


「恒一。 お前さ。去年と口調が変わったな」


「変わった?」


「うん。 去年は『分からない。でもやるしかない』って感じだった。今年は 『分かっている。だから任せる』になってる。 団長っぽくなったよ、お前」


「団長 じゃない。運営責任者 」


「それを団長と呼ぶ。 桐生先輩が言ってただろ」


「......お前まで使うな」


 陽太が笑った。 廊下に響く笑い声。いつもの声量。 一年前と変わらない。


 廊下の角を曲がったとき ふと、昨日すれ違った転入生のことを思い出した。制服が体に馴染んでいなかった女子。顔は見えなかった。 翻訳者の直感が、何かを拾った。まだ翻訳できていない。


 凛花が言っていた。前の学校で生徒カウンセラー。 噂レベルの情報だ。確証はない。


 だが 何かが動いている。蒼のデータが読めない領域で。翻訳者の直感すら捉えきれない場所で。


「陽太。 明日、時間あるか」


「あるけど。何だ」


「新しい依頼が来るかもしれない。 来なくても、工作室は開けておきたい」


「了解。 メロンパン持っていく」


「メロンパンが先か」


「メロンパンは常に先だ」



 帰り道。堤防沿い。


 海が夕日に染まっていた。四月の海。 昨日と同じ色。だが昨日より 少しだけ波がある。凪が崩れ始めている。


 スマホが振動した。凛花からだった。


『高瀬先輩。 蒼くんからまたメッセージです。「工作室の掲示板に相談を寄せた生徒のアカウントを特定しました。僕の分析結果を明日共有します」 止めますか?』


  止め、と打ちかけて。


 指が止まった。


 相談を寄せた生徒のアカウントを 蒼が独自に特定した。匿名で掲示板に書いたはずの相談を SNSデータから本人を割り出した。


 原則② 匿名依頼は受けない。だが蒼がやったのは 匿名の相談者を、データで特定したということだ。本人が名乗っていないのに。


 これは 原則の穴か。それとも 原則の外か。


 止めるべきだ。 普通なら。相談者が匿名でいたいのなら、その意思を尊重する。データで身元を割るのは 本人の意思に反している。


 だが 蒼はこれを「善意」でやっている。相談者を助けるために。困っている人を見つけるために。 動機は純粋だ。方法が 問題なのだ。


 影山もそうだった。忘却屋のメソッドは間違っていたが 動機は本物だった。


 蒼の方法は間違っている。 だが、止めたら学ばない。泳がせたら どこまで行くか見える。見えたところで止める。そのほうが 蒼の腹に落ちる。


 返信を打った。


『少しだけ 泳がせろ』


 凛花から。


『......了解です。ただし 私が監視します。逸脱しそうになったら止めます。参謀として』


『頼む』


『先輩。 これ、桐生先輩が影山先輩にやった判断と 似てませんか。泳がせて、見守って、壊れたら止める。 大丈夫ですか?』


 凛花の指摘は 正確だった。桐生先輩は 影山の忘却屋を止めきれなかった。泳がせすぎた。結果 利用者に被害が出た。


 同じ失敗を 繰り返すのか。


『違う。 桐生先輩のときは監視する人間がいなかった。今は凛花がいる。 俺と凛花が見ている。二人の目で見る。一人の目では見落とすことも 二人なら拾える』


 凛花から。しばらく間があった。 五秒。十秒。


『......分かりました。信じます。 でも先輩。本当にまずいと思ったら 私の判断で止めます。事後報告でも許してください』


『許す。 お前の判断を信じる。参謀の権限で止めていい』


『了解です。 記録しておきます。「運営責任者の許可により、蒼くんの独自行動を限定的に容認。参謀に監視・停止の裁量を付与」』


 パタン。 スマホの画面越しに、凛花のノートが閉じる音が聞こえた気がした。


 堤防の上。夕日が沈みかけている。海がオレンジから紫に変わっていく。風が 少しだけ冷たい。春の風に混じって 別の温度の風。


 蒼を泳がせる。凛花が監視する。俺が判断する。 三人で回す。去年とは違う歯車で。


 そして 転入生がいる。まだ姿もはっきり見ていない。名前も知らない。前の学校で生徒カウンセラーをやっていたかもしれない。 まだ噂だ。


 だが 翻訳者の直感が告げている。


 明日 何かが来る。


 蒼のデータが読めないもの。俺の翻訳でも捉えきれないもの。 向こうから。


 陽太が言った通りだ。刺激は 探さなくても、向こうから来る。


 歩き始めた。海を背に。 四月の夕暮れ。まだ明るい。まだ春だ。


 だが 風が変わり始めている。


 明日 工作室のドアが開く。


 誰が立っているか まだ知らない。

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