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第9話 お茶会と悪評:悪役令嬢エリザの真実

いつも応援ありがとうございます!


牙がもたらした次なる部下の情報は、なんと「悪役令嬢」として有名な第一王女。

かつて魔王軍の「爪」として暴れまわった彼女が、なぜ現代では「無能」と呼ばれているのか?


一方で、ロミナ様の膝の上を占拠する牙に、アステルの殺意が絶賛爆発中です。

そんな賑やかすぎる「再会への旅路」の始まりをお楽しみください!

 カステル家の庭園、その一角にある薔薇のガゼボ。


 牙が展開した「人払いの結界」によって、そこは世界から切り離された密室となっていた。


 午後の日差しは柔らかく降り注ぐが、結界の外の喧騒は一切届かない。

 ただ、風が葉を揺らす音と、茶器が触れ合う軽やかな音だけが支配する空間。


 私たちは、奇妙で懐かしい「お茶会」を開いていた。


 主賓席である私の膝の上には、漆黒の毛並みを持つ一匹の猫――牙が、当然の権利とばかりに鎮座している。


 その温かく重みのある体を私が撫でるたび、喉をゴロゴロと鳴らし、至福の表情で目を細める。


 その光景を、給仕役のアステルが背後から凝視していた。


 彼は優雅な手つきで紅茶を注いでいるが、その背中からはドス黒い殺意のオーラが噴き出している。

 注がれる紅茶の水面が、彼の殺気で微かに波立つほどだ。


 だが、牙は我関せずと大あくびをし、私のドレスに爪を立てないよう器用に身じろぎした。


「それで、牙。『目』と『爪』の行方は?」


 私が問いかけると、膝の上の黒猫が人間の言葉で、気怠げに答えた。


「……『目』のライルの旦那は、相変わらず行方知れずです。あの人は隠れるのが趣味みたいなもんですからね。ですが、『爪』の居場所は割れましたよ」


 牙は長い尻尾をゆらりと揺らし、勿体ぶるように言葉を区切る。


「名前はエリザ・ヘクト。この国の第一王女です」


「エリザが王女? ……あの子らしい、派手な生まれ変わりね」


「それが、どうも雲行きが怪しいというか……評判が最悪でしてね」


 牙が語る情報は、耳を疑うものだった。

 「王家の恥」、「稀代の悪女」、そして「無能」。


 数々の不名誉なレッテルを貼られ、現在は王城の敷地内にある寂れた離宮に、幽閉同然で押し込められているという。


「無能、ですって?」


 私は堪えきれず、紅茶を口にする前に吹き出してしまった。


 あのプライドの塊のようなエリザが?

 戦場を鮮血で染め上げ、敵軍から「死の舞姫」と恐れられたあの殲滅の女王が、無能?


「……ふふ、あはは! 傑作だわ。よほど、退屈しているのね」


 カップをソーサーに戻し、私は愉快そうに笑った。


 想像に難くない。

 周りの人間があまりに愚かで、矮小すぎて、本気を出す気にもなれないのだろう。

 巨竜が蟻の群れの中で、わざわざ火を噴かないのと同じことだ。


「……直ちに迎えに行きましょう。邪魔する兵士がいれば、私が全て斬り捨て、道を作ります」


 アステルが即座に反応した。

 その瞳にはすでに、血なまぐさい決意が宿っている。


 だが、牙が呆れたように片耳をピクリと動かした。


「またそうやって脳筋なことを……。今は潜伏期間だって忘れたの? アステル君はこれだから、色々と苦労するんだよ」


「なんだと……? たかが猫風情が、口を慎め」


 チャキ、と微かな金属音。アステルが剣の鯉口を切る。


 いつもの、殺伐としたじゃれ合い。


 私はその光景に、胸の奥が温かくなるのを感じた。


「ええ、穏便に行きましょう。……エリザもきっと、首を長くして私を待っているはずだから」


 私は膝の上の牙を撫で、背後のアステルに視線で合図を送る。


 待っていて、私の可愛い「爪」。

 その退屈な鳥籠を、すぐに壊してあげるから。


     *


 王城の影に隠れるように佇む、北の離宮。


 豪奢な調度品で埋め尽くされたその部屋は、生活の場というよりは、美しく飾り立てられた牢獄そのものだった。


 窓辺に、一人の少女が立っている。


 夕陽よりも鮮烈な、燃え盛る炎を巻き上げたような真紅の縦ロール髪。

 宝石を嵌め込んだようなエメラルドの瞳。


 第一王女エリザ。


 この国で最も美しく、そして最も忌み嫌われている少女。


 だが今、その整った顔に張り付いているのは、悪意ですらない。

 底なしの倦怠けんたいと、肌を灼くような焦燥だけだった。


「……つまらない」


 吐息と共に零れた言葉は、部屋の空気に溶けず、重く沈殿した。


 彼女の視界の端に、東方の国から取り寄せたという最高級の白磁の花瓶が映る。


 彼女はためらうことなく、それを指先で軽く小突いた。

 重力に従い、花瓶が傾く。


 ガシャンッ――!!


 陶磁器の砕ける鋭い音が、死んだような静寂を引き裂いた。


「ひっ……!?」


「エリザ様、なにを……!」


 音に反応して、扉の外からメイドたちが転がり込んでくる。

 床に散乱した破片を見て悲鳴を上げ、青ざめた顔で震える女たち。


 エリザは、汚いものでも見るかのように彼女たちを見下ろし、扇子で口元を覆った。


「あら、手が滑ってしまったわ。……さっさと片付けなさい、この役立たずども」


 その声には、嘲笑が含まれていた。


 メイドたちは恐怖に引きつりながら、這いつくばって破片を拾い集める。


(ああ、くだらない。本当に、くだらない)


 誰も、私を見ていない。

 彼女たちが怯えているのは「悪女エリザ」というレッテルであり、私という魂の本質ではない。


 この世界はあまりにもぬるく、平和ボケしていて、実にああ、絶望的なまでに愚かだ。


 かつて戦場で味わった鉄と血の味、魂が震えるような恐怖と高揚。

 それらが欠落した毎日は、真綿で首を絞められるような苦痛でしかない。


「ああ、誰か……。この退屈で腐った世界を、壊してくれる人はいないの?」


 祈るように、呪うように呟いた、その時だった。


 背筋を、氷柱つららで撫でられたような感覚が走り抜けた。


 エリザは弾かれたように窓の外へ視線を走らせる。


 手入れされた庭木の深い陰。

 そこから、二つの金色の目が、じっとこちらを射抜いていた。


 ゾクリ。


 全身の産毛が逆立つ。


 それはか弱い少女が抱く「恐怖」ではない。

 捕食者が、自分よりも上位の存在を感知した時に覚える、魂の震え。


 エリザの乾ききった瞳に、久しぶりに生気という名の光が灯った。


「……見つけた」


 待ち焦がれていた「予感」が、そこにあった。



最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「無能」と呼ばれ、離宮に押し込められている第一王女エリザ。

退屈すぎて花瓶を小突いてしまうあたり、中身は全く「無能」ではありませんね(笑)。

彼女にとって、ロミナ様との再会は、灰色の世界が鮮やかに塗り変わる瞬間になるはずです。


次回、第10話『離宮侵入:退屈な姫君と刺激的な夜』。


アステルと牙を従え、ロミナ様が「不法侵入」という名のお迎えに上がります。

魔王軍の華やかな(そして物騒な)面々が揃っていく様子を、ぜひお見逃しなく!


――――――――――――――――

【読者の皆様へのお願い】


「エリザ様の悪女っぷりがいい!」

「アステルの脳筋な解決策に笑った」

「早く全員集合したところが見たい!」


と思ってくださった皆様。

ぜひ下の【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして応援してください!

ブックマークもいただけると、エリザ様の「退屈」が少しだけ紛れるかもしれません。


皆様の評価が、物語を王道へと突き進める力になります。

よろしくお願いいたします!

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