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第6話 夜襲:真紅の口づけと忠犬の跪き

いつも応援いただきありがとうございます!


お待たせいたしました。

今夜、ついに氷の騎士アステルの「再会」が完結します。


眠れない夜を過ごす騎士のもとへ、魔王様が忍び寄ります。

800年の呪縛を解くのは、彼女の鮮血と甘美な命令。


アステルがどのように「分からされる」のか、その劇的な瞬間をぜひ見届けてください。

 月が雲に隠れ、世界が闇に沈むのを待っていた。


 屋敷が寝静まった深夜。

 私は影そのものとなって廊下を滑り、最上階にある主寝室の前で足を止める。


 重厚な樫の扉。

 そこに施された幾重もの鍵など、魔王である私にとっては紙切れ同然だ。


 指先で虚空をなぞると、鍵穴がカチャリと甘い音を立てて開いた。

 それはまるで、主人の帰還を待ちわびていたかのようだった。


 部屋の中は、冷え冷えとした空気に満ちていた。


 蒼白い月光が、部屋の中央にある広いベッドを切り取っている。


 そこに、彼はいた。


 乱れたシーツの中、アステルは悪夢にうなされていた。

 額には脂汗が滲み、苦悶に歪んだ唇が、熱に浮かされたように動く。


「……う、あ……ロミナ、様……逝かない、で……」


 漏れ聞こえるのは、祈りにも似た悲痛な寝言。


 やはり、彼は囚われている。

 八百年前、崩れ落ちる城で私と別れたあの瞬間の絶望を、毎晩繰り返し反芻しているのだ。


 愛おしさと支配欲が、胸の奥でドロリと混ざり合う。


 私が音もなく枕元に立った、その時だった。


「ッ……!?」


 カッ、とアステルの瞼が見開かれる。


 刹那、枕の下から銀色の閃光が走った。


 思考よりも速い、戦士の本能による迎撃。

 瞬きする間もなく、冷たい金属の感触が私の喉元に押し当てられていた。


「誰だ。……死にたいのか」


 喉仏が動けば皮膚が裂けるほどの距離。


 アステルの瞳は完全に覚醒し、凍てつくような殺意を宿している。


 月を背負い、逆光の中に立つ私。

 その姿は彼にとって、ただの不審なメイドにしか見えていないはずだ。


 けれど、私はやいばに臆することなく、口元を優雅に歪めた。


「相変わらず、寝覚めが悪いのね。『翼』」


「……何?」


 アステルの眉間に深い皺が刻まれる。


 ただの使用人が口にするはずのない呼び名。

 そして、喉元に刃を突きつけられてなお揺らがぬ態度に、彼の理性が混乱をきたしている。


 その隙を見逃す私ではない。


 私は短剣の切っ先が肌に触れたまま、さらに一歩、彼へと踏み出した。


「思い出させてあげる。お前が誰の剣で、誰に飼われていたのか」


 碧眼アクアマリンが妖しく発光する。


 『金縛り(ホールド)』。


 魔王の威圧を込めた視線が、見えない鎖となってアステルの全身を絡め取った。

 彼の筋肉が硬直し、指先から力が抜ける。短剣がカランと乾いた音を立てて床に落ちた。


「き、貴様、なにを……!」


 動けない体で、瞳だけで抵抗しようとする彼。

 私はベッドへ上がり込み、混乱する彼の上にまたがった。


 膝立ちになり、彼の腰を太腿で挟み込む。

 薄い寝間着越しに伝わる体温と、強張った筋肉の感触。


 私を見上げるその瞳が、恐怖と、そして抗えない何かへの予感に揺れている。


「静かになさい」


 私はアステルの視線の前で、自らの親指を犬歯に当てた。


 プチリ。皮膚を食い破る微かな音。


 指先に、鮮血のたまがぷくりと膨れ上がる。


 魔王の原血。

 濃厚な魔力を含んだ、鉄と甘露の匂い。


「私のために生きなさい、アステル」


 それは命令であり、愛の囁きだった。


 私は血の滲む親指を、アステルの形の良い唇に押し付け、強引にねじ込む。


 赤が、蒼白な唇を汚していく。


 口腔に広がる鉄の味。

 それが鍵となり、彼の脳裏に封印されていた記憶の扉を、暴力的なまでにこじ開けていく。


「ぐ、ぁ……がぁッ……!?」


 アステルは喉を大きく反らし、声帯が裂けんばかりの無音の絶叫を上げた。


 私の血が呼び水となり、脳髄の奥にあるせきが決壊する。


 奔流となって溢れ出したのは、八百年分の記憶と感情の濁流だ。


 城が崩れ落ちたあの日、引き裂かれた絶望。

 光のない世界で繰り返した孤独な転生。

 そして今、魂の主と巡り合えた、脳が焼き切れるほどの歓喜。


 彼の瞳の色が、劇的に変貌していく。


 何も映さない無機質な氷の色彩が砕け散り、その奥からドロリとした熱を孕んだ、狂気的なまでの**「狂信の炎」**が燃え上がった。


 私が『金縛り』の術を解いた、その瞬間だった。


 アステルは受け身も取らず、ベッドから転がり落ちるようにして床へ崩れ落ちた。


 そして、床板に額をガンと打ち付ける勢いで、深々と平伏した。


「……ああ……ああ、ロミナ様……! 我が主、魔王様……!」


 嗚咽混じりの震える声。

 美しい顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡れている。


 先ほどまでの鋭利な殺意は霧散し、そこに残っているのは、神を前にした信徒の絶対的な服従と、焦がれ続けた恋人の崇拝のみ。


「お待たせして、申し訳ありません……! 貴女様のお顔を見誤るなど、この目は腐っていたに違いありません……! どうか、どうか罰を……!」


 アステルは震える指先で、私のスカートの裾をすがるように掴んだ。


 そして、布越しに私の足の甲へ、何度も、何度も敬虔な口づけを落とす。

 まるで、その行為でしか自身の存在を証明できないかのように、必死に、熱っぽく。


「このアステル、ただ今より、再び貴女様の剣となりましょう。……貴女の敵をすべて惨殺し、この薄汚い世界をその足元に捧げます」


 それは、世界への宣戦布告であり、愛の告白だった。


 私はベッドの上から、足元にうずくまる彼を見下ろす。

 優越感と愛おしさを込めて、汗ばんだ彼の銀髪を優しくくように撫でた。


「ええ、いい子ね。……寂しかったでしょう?」


「はい……貴女のいない世界は、光のない地獄でした……」


 かつて最強と謳われた氷の騎士が、私の前でだけは、親の愛を乞う幼子のように頬を擦り寄せてくる。


 掌に伝わるその湿った熱と重み。


 私は満足げに目を細め、サディスティックな喜びに浸った。


 まずは一人。私の可愛い「翼」が、本来あるべき場所あしもとに戻ってきたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


……アステル、完っ全に落ちましたね(笑)。

先ほどまで喉元に刃を突きつけていた男が、今や足元で涙を流して縋り付いている。

この「狂信的なまでの忠誠心」こそが、アステルの真骨頂です。


ロミナ様の「私のために生きなさい」という言葉。

彼にとっては、何よりも甘美な救いの福音だったのでしょう。

さて、最強の剣を手に入れたロミナ様、これからこの屋敷を、そして王都をどうひっくり返していくのでしょうか。


――――――――――――――――

【読者の皆様へのお願い】


「アステルの豹変ぶりが最高すぎる!」

「ロミナ様の支配欲に痺れた!」

「二人の主従関係がもっと見たい!」


と思ってくださった皆様。

物語の第一の山場を越えたこのタイミングで、

ぜひ【ブックマーク】と【下の☆☆☆☆☆評価】での応援をよろしくお願いいたします!

(星5ついただけると、アステルの尻尾の振りがより激しくなります……!)


皆様の反応が執筆のエネルギーです。ぜひよろしくお願いいたします!

――――――――――――――――

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