第51話 親殺しの夜明け:決別の一撃と崩壊する城
いつもお読みいただきありがとうございます!
ついに帝国編、完結です。
肉親としての情愛を捨てきれなかった兄妹が、自らの手で過去を葬り去る決着の瞬間。
そして崩れ去る帝城を背に、ロミナ様一行は「大陸の覇者」として新たな夜明けを迎えます。
ひとつの大きな時代の終わりと、さらなる支配の始まりをご覧ください。
四肢を無惨に千切り取られ、自らが放った闇の劫火に焼かれたゲオルグは、もはや人の形を留めていなかった。
床を這いずり回るその姿は、醜悪な肉の汚泥に過ぎない。
「ま、待て……! 待ってくれぇ! は、話せば分かる!」
焼けた喉から、泡立つような血と共に悲鳴がほとばしる。
「国を半分やろう! 金も、地位も! だから、だからぁ!」
命乞いと呼ぶにはあまりに浅ましく、聞くに堪えない欲望の残滓。
アステルが極寒の瞳で、肉塊の喉元へ剣を突きつけた。
「ロミナ様、とどめを。……これ以上、この汚物を生かしておくのは大気の汚染です」
「いいえ」
パチン、と。扇子を閉じる乾いた音が、ゲオルグの嘆願を断ち切った。
「私が手を下す価値もないわ。……靴が汚れるもの」
私はゆっくりと踵を返し、背後で立ち尽くしている二人――ルーカスとマーガレットの方を向いた。
「貴方たちが終わらせなさい。過去の遺物を葬り、新しい時代を始めるために。……それが、これからを生きていく者の義務よ」
◇
二人の靴音が、静まり返った玉座の間に重く響く。
「おお、おお! ルーカス! マーガレット! 父を助けてくれ! 血の繋がりを、親への恩を忘れたわけではあるまい!?」
血縁という呪縛を鎖にして、なおも子供たちを縛ろうとする卑劣な男。
ルーカスは剣の柄を強く握り込み、確固たる意志を込めて口の端を吊り上げた。
「ああ……アンタの子だよ。俺たちの体には、その腐った血が流れてる。だからこそ、俺たちが幕を引かなきゃいけないんだ。この血の汚れを……俺たちの手で雪ぐために」
隣に立つマーガレットの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
だが、その双眸に宿るのは氷のような冷徹さだった。
「さようなら、お父様。……地獄で、お母様に膝をついて詫びてください」
二つの刃が同時に閃く。
銀色の軌跡が空中で交差し、皇帝の心臓――魔力の核へと突き刺さった。
「があああああッ!! ……バ、バカな、神である私がぁぁ……!」
断末魔の絶叫。
しかし、それも瞬く間に掠れて消えた。
核を砕かれた肉体は、黒い灰となってサラサラと崩れ落ちていく。
◇
ゴゴゴゴ……ッ。
主の死と共に、帝城が崩壊を始めた。
地殻の底から響くような咆哮。天井の大理石に亀裂が走り、白い粉塵が降り注ぐ。
『おーい! こっちは片付いたよ! そろそろ脱出して!』
牙の通信が届く。
アステルは恭しく跪くと、私の体を軽々と抱き上げた。
「参りましょう、私の女王。凱旋の時間です」
背後で凄まじい轟音が炸裂し、忌まわしい実験場が瓦礫の雪崩の下へと埋もれていく。
◇
帝都を眼下に見下ろす丘。
地平線を切り裂くように、朝日が黄金の矢となって大地に降り注ぐ。
「あらあら。随分と派手にやりましたわね」
待ち構えていたエリザが、クスクスと笑う。
その隣で、ライルが眼鏡を押し上げた。
「これで帝国は実質消滅。……更地になったこの国を、さあ、どう料理しましょうか」
ルーカスは廃墟となった故郷を見つめ、深く、長い息を吐いた。
「……俺が立て直すさ。途方もない時間はかかるだろうけどな」
「手伝います、お兄様。……私たちが、本当の国を作るんです」
私はそのすべてを朝日と共に浴びて、満足げに微笑んだ。
最強の騎士、有能な参謀、毒の花の令嬢、人智を超えた猫。
そして、新たな手駒となった兄妹。
「美しい朝ね。……これで、視界を遮る邪魔者は全て消えたわ」
朝焼けの朱が、私たちの影を長く大地に焼き付ける。
それは、世界征服という野望の第一歩――「大陸統一」が、事実上の完了を迎えた瞬間だった。
第51話をお読みいただき、ありがとうございました。
皇帝ゲオルグ、最後まで「醜悪な小悪党」としての役目を全うしてくれました。
ルーカスの「俺たちの手で雪ぐ」という言葉、そしてマーガレットの「お母様に詫びて」という決別の台詞は、彼らが歩んできた苦難の集大成です。
ロミナ様の「靴が汚れる」という台詞も、彼女らしい徹底した美学を感じさせますね。
大陸統一を果たしたロミナ様。
物語はいよいよ、平和になった世界(彼女にとっては支配下にある庭)での、新たなステージへと移ります!
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