第49話 玉座の肉塊:お父様、さようなら
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ついに玉座の間へ到達。そこにいたのは、父としての情愛も王としての誇りも失った、醜悪な肉の塊でした。
自分を「養分」と言い放つ父に、決別の言葉を突きつけるマーガレット。
そして「偽物の魔王」を自称する不届き者に、ロミナ様が本物の絶望を教えます。
最上階、玉座の間。
重厚な扉が左右に開かれた瞬間、腐臭と熱気が奔流となって押し寄せた。
その先に広がっていたのは、異界の胎内だった。
帝国の威信を象徴していた黄金の玉座は、見る影もない。
代わりに鎮座していたのは、ドクン、ドクンと不快なリズムで脈打つ、巨大な「肉の塔」だった。
中央――かつて玉座があった場所から、歪んだ歓喜の声が轟いた。
「遅かったな、我が愚息どもよ!」
皇帝ゲオルグの上半身が露見している。だが、その肌は紫色に変色し、過剰な魔力に耐えきれずに人の輪郭を無惨に崩していた。
「見ろ、この溢れんばかりの力を! 私はついに、魔王さえも超越した『神』となったのだ!」
醜悪。
その光景を表す言葉は、その二文字に尽きた。
対して、扉の前に佇む私たちは、ドレスの裾ひとつ汚さず、優雅に、そして冷ややかにその怪異を見据えていた。
膨張した醜い肉塊と、研ぎ澄まされた美貌の群れ。
その対比は、残酷なほどに鮮明だった。
「マーガレットか。……相変わらず、影の薄い役立たずの娘め」
濁った眼球がギョロリとマーガレットを捉えた。
「光栄に思え、お前も私の『養分』にしてやる。来い!」
ズリュッ、と湿った音が響く。
肉の壁から、血管の浮いた触手が数本、飢えた蛇のように伸びてきた。
だが、マーガレットは一歩も引かなかった。
彼女は、腕の中に抱いた黒猫――牙を強く抱きしめる。
「……お断りします」
落とされた言葉は、氷の雫のように静かで、鋭かった。
「貴方はもう、私の父ではありません。貴方が捨てたのは人間性だけではない。家族としての絆も、王としての誇りも、すべてドブに捨てた……ただの『醜い怪物』です」
その声は凛として透き通り、腐臭漂う玉座の空気を切り裂いた。
「エリザ様の爪の垢でも煎じてお飲みになればよろしいのに。……実の娘すら喰らおうとするその浅ましさ、生理的に不愉快です」
「き、貴様ァァァッ……!」
屈辱は瞬時に沸点を超え、その矛先は、私へと向けられた。
「貴様だな! 貴様が、伝説に謳われる『魔王の器』か!」
卑しい欲望。
「素晴らしい……なんて芳醇な魔力だ! 寄越せ! その極上の力を私が取り込み、真の永遠を手に入れてやる!」
ヒュンッ!
無数の触手が弾丸のように射出された。
だが、その切っ先が私の領分を侵すことは、未来永劫あり得ない。
「……下郎が」
アステルが音もなく一歩、前へと踏み出す。
彼が剣の柄に手をかけた刹那、玉座の間の湿気が一瞬で凍結した。
「その汚らわしい触手で、あの方を指差すな」
銀の一閃。
私の鼻先まで迫っていた数十本の触手が、瞬時にして硬質な音を立てて静止する。
カシャン、カシャン……。
氷の結晶となり、砕け散って床に降り注いだ。
「神? 魔王を超えた? ……笑わせないで」
私はゆっくりと扇子を開いた。
路傍の石ころを見る目ですらない、冷徹な光を宿して。
「分を弁えなさい、哀れな紛い物」
言葉と共に、私の背後から闇が噴き上がった。
漆黒のオーラは、巨大な「翼」の形を成して天井を覆い尽くし、ゲオルグの肉塊を影で飲み込んでいく。
「ひ、ひぃ……っ!?」
「本物の『魔王』というものがどういう存在か――その身に刻んで、教育してあげるわ」
第49話をお読みいただき、ありがとうございました。
マーガレット様、本当にかっこいいです!
「生理的に不愉快」という一言は、かつての彼女からは想像もできないほどの強さと、ロミナ様譲りの気品を感じさせますね。
そしてロミナ様、ついに「魔王」としての真の威圧感を解放しました。
偽物の力が、本物の深淵を前にどれほど無力なのか……。
次回、帝国編の最終決戦。
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