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第48話 悲しき再会:怪物になった師匠と剣の涙

いつもお読みいただきありがとうございます!


 帝国城内を進む一行の前に現れたのは、ルーカスにとっての恩師でした。

 変わり果てた師の姿に絶望しながらも、自ら引導を渡す道を選んだルーカス。

 

 「家族」としての絆を取り戻した兄妹が、ついに元凶である皇帝の元へと向かいます。


 玉座の間へと続く大回廊は、かつての荘厳さを失い、無惨な爪痕と瓦礫に埋め尽くされていた。


 その薄暗い回廊の奥から、一際巨大な影が音もなく滑り出てきた。

 全身を重厚な鎧で覆った、異形の巨人。人間の骨格を無視して生え出た四本の腕が、それぞれに大剣を握りしめている。


「……ッ」


 ルーカスの足が、縫い留められたように止まる。

 怪物の胸部に刻まれた、傷だらけの紋章。

 重心を低く落とし、切っ先を天へ向けるその型。


「その構え……嘘だろ。まさか、師匠……なのか?」


 その怪物は、幼い頃のルーカスに剣のイロハを叩き込み、武人の矜持を教えた帝国の剣術指南役――その成れ果てだった。


「グオオオオオオッ!」


 理性を失った獣の咆哮が響く。

 アステルが即座に反応し、主の盾となろうと踏み出す。


「下がっていてください、ルーカス様!」


「手出し無用だ、アステル!」


 振り返ったルーカスの瞳は、溢れそうになる涙を必死に堪え、赤く充血していた。


「……こいつは、俺がやる。俺がやらなきゃいけないんだ」


 かつて背中を追いかけた恩師が、今はただ殺戮を求める肉の傀儡となり果てている。

 救えなかった自責の念が、ルーカスの胸を引き裂いた。


「すまない……! こんな姿にさせて……っ、せめて、俺の手で楽にしてやる!」


 激突の瞬間、火花が散った。

 四本の大剣が風を切り、暴風のような連撃となってルーカスを襲う。


 だが、ルーカスは退かなかった。

 その動きは、彼が師匠から学び、何千何万と繰り返した修練の賜物だった。

 皮肉にも、師匠が教えた剣技だけが、師匠の猛攻を凌ぐ唯一の術となっていた。


「あああああッ!」


 四本の剣が同時に振り下ろされる絶望的な隙間――その一点を、彼は迷いなく突き抜けた。


 ズドッ。


 ルーカスの剣が怪物の胸部中央、魔力を放つコアを正確に貫いた。


「……ル…カ…ス……殿、下……」


 兜の奥から、掠れた懐かしい声が漏れた。

 巨体はゆっくりと膝をつき、砂上の楼閣のように崩れ落ちていく。


 灰となって消えゆく師を見つめながら、ルーカスはただ無言で涙を流し続けていた。


 ◇


 回廊には重苦しい静寂だけが残された。

 ルーカスは無言で剣を振り、刀身にこびりついた血糊を払う。


 振り返ったその顔貌からは、かつて享楽に溺れていた軽薄な皇子の面影は消えていた。


「……見事よ」


 私は扇子を閉じ、短く称賛を投げかけた。


「迷いを捨て、泥を啜ってでも噛みつく。そういう気概のある犬は、嫌いじゃないわ」


「ハッ、そいつは光栄だ。……魔王様からの最高の褒め言葉として、胸に刻んでおくよ」


 そこへ、マーガレットが音もなく歩み寄る。

 彼女は何も言わず、兄の左手――人を殺し、恩師を斬ったその手を、自らの両手で強く包み込んだ。


 ひどく冷たく、震えの止まらない掌。

 だが、彼女はそれを忌避せず、自らの体温を分け与えるように強く握り締める。


 ルーカスは妹の手を一度だけ強く握り返すと、視線を回廊の奥へと向けた。


「行こう」


 その声は低く、地を這うように響いた。


「……親父を、殺しに」

第48話をお読みいただき、ありがとうございました。


 ルーカス皇子、本当にかっこよくなりましたね……。かつての「放蕩皇子」の皮を脱ぎ捨て、泥にまみれながらも自らの過去に決着をつける姿は、まさに一国の主となるにふさわしい覚悟です。


 そして、そっと兄の手を握るマーガレット様。

 言葉はなくとも、二人が真の意味で「戦友」になったことが伝われば幸いです。


 次回、ついに狂気の皇帝ゲオルグとの直接対決が始まります。

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