表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/52

第46話 美しき掃除:アステルの氷剣と皇子の涙

いつもお読みいただきありがとうございます!


 今回は、皇帝が生み出した「醜悪な偽物」に対する、本物の魔王軍による徹底的な掃除回です。

 返り血すら許さず、敵をダイヤモンドダストへと変えるアステルの美技。


 そして、変わり果てた部下を自らの手で葬るルーカス。

 彼が「ただの皇子」から「背負うべき王」へと脱皮する、重厚なドラマをお楽しみください。


 豪奢な馬車の扉が開き、私がその混沌の中へと降り立った、まさにその刹那だった。


 肉を貪っていた数体の怪物が、一斉に動きを止めた。

 無数の濁った眼球が、ぎょろりと私の方へ回る。


「ア……ウ……」

「チカラ……ヨコ……セ……」


 彼らの崩れた脳髄は、本能だけで理解したのだ。

 目の前に現れたこの少女こそが、自分たちの欠けた器を満たす根源――求めてやまない「魔王のオリジナル」であると。


 腐臭を帯びた涎を撒き散らし、泥人形たちが私へ向かって殺到する。


「……汚らわしい」


 私は露骨に顔を歪めた。


「私の高貴な『血』を混ぜて、練り上げたのがこんな醜い泥人形だというの? 美学の欠片も、存在意義すらも見当たらないわ」


 私が扇子を開こうとした瞬間――鋭い銀の閃光が視界を遮断した。


「……見るに堪えません、ロミナ様」


 アステルだ。彼は私と怪物の間に立ちはだかり、その身を盾にして、私の瞳がこれ以上汚れることを拒絶していた。


「万死に値するとはこのことです。貴女様の清らかな視界に、このような汚物を映すなど……!」


 アステルの全身から爆発的な殺気が噴き上がる。

 それは物理的な冷気となって周囲を侵食し、漂う腐臭すらも一瞬にして凍てつかせた。


「生理的に無理ですわ。……潰れなさい」


 エリザが指揮棒を振るうように、指先を軽く払う。


 ヒュンッ!


 不可視の「風の刃」が空間を走り抜ける。

 先頭のキメラは認識すらできぬまま、一瞬にして賽の目に解体され、肉塊となって崩れ落ちた。


「ロミナ様の御前だ。その汚い体液を撒き散らすな」


 アステルの銀光が一閃する。

 キィィン……。


 空中を跳ねていた数体の怪物が、一瞬にして白く凍てつき、不気味な氷像へと変貌した。


 パリン、シャラララ……。


 地面に触れた瞬間に粉雪のように砕け散る。

 肉も骨も、汚濁にまみれた血さえも、煌めくダイヤモンドダストとなって虚空に消えた。


 圧倒的な美技による、一方的な蹂躙。

 そこには血泥も、叫び声すらない。ただ、残酷な「美」だけがあった。


 ◇


 広場に再び重苦しい静寂が舞い戻った。

 ルーカスは呆然と立ち尽くし、足元に転がる肉塊を見下ろしていた。


 それは、切断されたキメラの頭部だった。


「……カイル、なのか……?」


 何度も酒を酌み交わした、忠実な部下の面影。

 認識した瞬間、ルーカスは耐えきれず、汚れた石畳に膝をついて激しく嘔吐した。


「親父殿……! あんた、国民を……俺の大事な部下たちを、こんな姿にしてまで……!」


 絶望と怒りが、熱い涙となって眼窩から溢れ出す。

 彼の目の前に、ふわりと白亜の布が差し出された。


「……ロミナ」


「使いなさい。アステルが『私の物をお使いください』と煩いから、新しいのをあげるわ」


 ロミナが氷のような瞳でルーカスを見下ろしていた。


「泣いている暇はないわよ、ルーカス。貴方が引導を渡してあげなさい。それが『新しい皇帝』としての、最初の務めよ」


 ルーカスは受け取ったハンカチで乱暴に顔を拭った。高級な生地が吸い取ったのは、涙か、それとも決別の痛みか。


 彼は震える膝に力を込め、立ち上がった。

 かつて部下だったモノへ歩み寄り、切っ先を心臓の位置に添える。


「……すまない。楽にしてやる」


 ズブリ。


 怪物は安らかな、声にならない吐息を漏らして永遠の眠りについた。

 ルーカスが再び顔を上げたとき、その瞳から迷いは消え失せていた。


 そこにあるのは、背負うべき罪を直視する、王の瞳だった。

第46話をお読みいただき、ありがとうございました。


 アステル様、ロミナ様の前ではどこまでも「潔癖」ですね。

 敵を倒すだけでなく、その存在自体を「視界から消す(粉砕する)」という徹底ぶりが彼らしいです。


 そしてルーカス皇子。

 地獄のような光景を前に、逃げるのではなく「引導を渡す」ことを選んだ彼は、もうかつての放蕩皇子ではありません。ロミナ様からのハンカチ(アステルの嫉妬付き)が、彼の決意の証となりました。


 次回、いよいよ帝都への進軍が加速します。

 面白いと感じていただけたら、ぜひブックマークや評価での応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ