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第43話 狂気の玉座と逆侵攻:害虫駆除の時間

いつもお読みいただきありがとうございます!


 帝国の地下で繰り広げられる、生贄を用いた「偽りの魔王」創出の儀式。

 自分の力を模倣しようとする不届きな皇帝に、ロミナ様が下した決断は「逆侵攻」でした。


 もはや戦争ではなく「害虫駆除」。

 魔王軍の幹部たちが総出で帝国を蹂躙しに行く準備が整いました!


 ハータ帝国、その心臓部たる帝城の遥か地下深く。

 「玉座の間」と呼ばれながらも、そこは王威の厳粛さとは無縁の、冒涜的な実験場と化していた。


 鼻孔を突き刺すのは、薬品の刺激臭と、古びた鉄錆――いや、乾いた血の腐臭だ。


 巨大な円筒形のガラス柱の内側では、不気味な緑色の溶液が、ポコポコと気泡を吐き出している。

 溶液の中を浮遊するのは、人間と魔物の部位を無造作に縫い合わせ、強制的に癒着させたような醜悪な「肉塊」たちだった。


「ククク……愚かな息子よ。まあいい、所詮は時間稼ぎの駒に過ぎん」


 玉座に深く沈み込んだ皇帝ゲオルグの喉から、湿った笑い声が漏れ出した。


 玉座の上の怪物は、還暦を過ぎた老人とは思えぬ異常な肉体を晒している。

 皮膚の下を、何匹もの蛇が這い回っているかのように、毒々しい紫色の血管が脈打ち、蠢いている。


「八百年前の禁忌文書に記された『魔王の力』……その再現は、もう目前だ。この超越的な力さえあれば、周辺の王国など指先一つで塵に還せる!」


 ゲオルグの瞳孔は極限まで散大し、狂気の光だけがぎらついている。

 彼は恍惚とした表情で、最も大きく脈打つ培養槽の一つを指差した。


「おい、魔力が枯渇しているぞ。……エサをやれ」


 兵士の手によって引きずり出されたのは、街から拉致されたばかりの若い男だった。


 ドボンッ!


 重たい水音が響き、溶液の中へと沈んでいく。

 直後、肉塊が反応した。何本もの触手が瞬時に男を絡め取り、皮膚を溶かし、肉を喰らい、骨ごと取り込もうと収縮を始める。


 その残酷な光景を眺めるゲオルグの顔には、至高の交響曲を聴いているかのような、うっとりとした愉悦が浮かんでいた。


「素晴らしい! 食らえ! 我が糧となれ! 私が真の神へと至るための礎となるのだ!」


 ◇


 王国の離宮、張り詰めた空気が漂う作戦会議室。

 新たな「下僕」として末席に座るルーカスは、帝国で行われている狂気の所業を報告していた。


「親父殿は……いや、あの男はもう正気じゃない。自国の民を実験台にして、継ぎ接ぎだらけの化け物を量産している。『魔王の力』を人工的に再現する、とかほざいてな」


 その単語が落ちた瞬間、部屋の気温が急速に奪われたような錯覚を覚えた。


 パチリ。


 私が手にしていた扇子を閉じる、硬質で乾いた音が響く。


「……魔王の力、ですって?」


 私の声は低く、そして恐ろしく冷えていた。


「私の……いえ、あんな崇高な力を、あのような汚らわしい泥人形ごときで再現しようだなんて。……不愉快極まりないわね」


 主人の機嫌が損なわれた。

 その事実を感知した刹那、私の左右に控えていた二つの影が、即座に牙を剥いた。


「貴様の父親のせいで、ロミナ様が不快になられた」


 アステルが音もなく歩み寄り、ルーカスの喉元へと殺気を突き刺す。


「……死んで詫びるか? 新入り」


「情報が遅いですねえ。これだから『二流』の皇子は困る」


 反対側からはライルが、凍りつくような笑顔で毒を吐く。


「無能な駒は、盤上から除外しましょうか?」


 二方向から同時に絞め上げられ、ルーカスの顔から血の気が引いていく。


「おいおい、手厳しいな先輩方は。俺は一番新しい『犬』なんだから、少しは優しくしてくれよ」


 (……洒落になってねえ。こいつら、マジで化け物揃いだ)


 卓上に広げられた地図の上で、私の持つ扇子が一点で止まった。


「決めたわ」


 私は唇の端を吊り上げる。


「こちらから攻め込みましょう。……城に籠もって敵を待つ防衛戦なんて、私の性には合わないわ」


「インベージョン(逆侵攻)、ですね。……ふふ、そう仰ると思っておりました」


 ライルが深く頷いた。


「エリザには、全軍の象徴となってもらいます。『悪の帝国を討つ正義の女王』……彼女という太陽が輝けば、兵士たちの士気は勝手に上がるわ」


「ええ。その裏で、私が教会を総動員しましょう。この戦いを尊い『聖戦』へと仕立て上げ、国民の熱狂を扇動します」


「そしてルーカス、貴方の役目は分かっているわね? 生まれ育った国への裏切り、その仕上げよ」


「……ああ。抜け道でも、隠し通路でも、全部案内してやるよ」


 そして、最後。私の背後に控える、最強の狂犬へと意識を向ける。


「私とアステルは遊撃に回るわ。皇帝がすがる『偽りの力』……それを真正面から叩き潰して、絶望を教えてあげる」


 高揚と緊張、そして血の匂いが混じり合う空気の中で、私は宣言した。


「いいこと? 勘違いしないでね。これは戦争ではないわ」


 私は艶然と微笑んだ。


「私の庭に湧いた、汚らわしい『害虫の駆除』よ。……一匹残らず、徹底的にやりなさい」

第43話をお読みいただき、ありがとうございました。


 皇帝ゲオルグ、いかにもな悪役街道を突き進んでいます。

 しかし、本物の魔王であるロミナ様の前で「魔王の力」を自称してしまったのが運の尽き。ロミナ様の怒りの温度、最高に冷えてます。


 そして新入りルーカスの苦労人(?)ポジション。

 アステルとライルという、ロミナ様過保護勢に挟まれての作戦会議は生きた心地がしないでしょうね(笑)。


 次回、いよいよ帝国への進軍が始まります。

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