第41話 決別の庭園:マーガレットの反逆と燃える薔薇
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今回は、ルーカス皇子の「物量作戦(貢ぎ物)」をアステルが蒼炎で一蹴する爽快なシーンから始まります。
「ロミナ様に向けられたもの以外は全てゴミ」というアステルの潔癖な独占欲が炸裂。
さらに後半、ルーカスは弱みであるはずの妹・マーガレットを揺さぶります。
しかし、そこで彼が目にしたのは、かつての臆病な少女ではなく、魔王の毒に染まりきった「狂信的な騎士」の姿でした。
翌朝、離宮のホールへと足を踏み入れた瞬間、私の嗅覚は暴力的なまでの甘さに襲われた。
視界を埋め尽くしていたのは、帝国から送りつけられたという貢ぎ物の山だ。
朝の光を吸って艶めくシルクドレスや、眩い宝石の数々。
そして何より、部屋の空気を窒息させるほどに敷き詰められた、真紅の薔薇。
カードの全てに、「愛しき侍女、ロミナ嬢へ」という文字が踊っている。
「まあ、何事ですの? ただのメイド風情に」
「身の程知らずもいいところね」
使用人たちの嫉妬と嘲笑が入り混じったヒソヒソ声が、鼓膜へへばりつく。
その不快なざわめきを、冷徹な静寂が切り裂いた。
「……邪魔だ」
アステルが私の視界に滑り込んでくる。
彼は無表情のまま、巨大な花束の一つに手を伸ばした。
ボッ、と低い音が響く。
刹那、彼の手のひらから揺らめくような蒼い炎が噴き上がった。
真紅の薔薇は悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして灰色の残骸へと崩れ落ちる。
「おや。帝国の花というのは、随分と燃えやすいようですね」
彼が指先で撫でるたび、高価な品々は価値を失い、煤けたゴミへと変わり果てていく。
「ロミナ様。……目障りなゴミは、全て処分しておきました」
◇
午後の日差しが木々の葉を透かし、ティータイムの庭園を照らしている。
だが、その穏やかな空気は、ルーカス皇子の強引な割り込みによって一変した。
「ねえ、ロミナ。あんな堅苦しい国は捨てて、俺のところへおいでよ」
彼は甘い毒を盛るように囁く。
ルーカスがゆっくりと手を伸ばし、私の指先に触れようとした――その刹那。
カチャリ、と硬質な音が響く。
アステルが、湯気を立てる銀のティーポットを携え、私とルーカスの間に割り込んでいた。
「お茶のおかわりはいかがですか、殿下」
アステルはポットを傾ける。
注ぎ口からこぼれ落ちる熱湯が、ルーカスの指先すれすれを叩いた。
「……淹れたての、格別に熱いものをご用意いたしましたので」
「おっと、危ないねえ!」
火傷しかけた肌をさすりながら、ルーカスは余裕の笑みを刻む。
「その異常なまでの執着……なるほど。やはり、お飾りの聖女ではなく『この女』こそが本体か」
◇
ルーカスが席を外し、視線が途切れた一瞬の隙間。
彼は木陰に佇んでいた実の妹、マーガレットを逃さなかった。
「おい、マーガレット。……いい加減に夢から覚めたらどうだ」
ルーカスは吐息がかかる距離まで顔を寄せる。
「さあ、帝国へ帰ろうか。父上もお呼びだぞ。『あの役立たずにも、政治の駒としての使い道くらいはあるかもしれん』とな」
以前の彼女なら、その響きだけで小鳥のように震えていただろう。
だが、今のマーガレットは、不気味な静けさで振り返った。
「……お断り、します」
芯のある声が、沈黙を破った。
マーガレットの指が、懐から漆黒の魔石を取り出す。
「私はもう、帝国の皇女ではありません。……あの方の、魔王軍の『飼い猫』です」
自らを蔑むような言葉を、彼女は至上の称号であるかのように口にした。
その瞳に宿るのは、実の兄への恐怖ではない。
エリザという絶対者への崇拝と、その聖域を侵す者への殺意。
「これ以上、エリザ様を煩わせるつもりなら……この私が、貴方を刺します」
「……ほう。あの泣き虫の臆病者が、ここまで変わるか」
ルーカスは鼻で笑って見せたが、背筋を伝う汗までは誤魔化せない。
本能的な不快感を覚え、彼は半歩後ろへと下がった。
(この国は、マジでヤバいな)
どいつもこいつも、何かに憑かれたように『狂って』やがる。
第41話をお読みいただき、ありがとうございました。
アステル様、ポットでの「熱湯回避」は流石に高度な嫌がらせですね(笑)。
ロミナ様の周囲から不純物を排除しようとする執念がすごいです。
そして、覚醒したマーガレット様。
「魔王軍の飼い猫」と自称し、実の兄に殺意を向けるその瞳。
ルーカスも思わず「ヤバい」と感じるほどの変貌ぶり……。
帝国皇子ルーカスを包囲する「魔王軍の狂気」。
次回の更新もどうぞお楽しみに!
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