表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/52

第40話 忠犬の殺意:平和な時間と皇子の襲来

いつもお読みいただきありがとうございます!


 今回は、魔王軍が誇る最強の騎士アステルが「自分よりいい男」の存在に怯えて全力で取り乱す、平和(?)な離宮のワンシーンから。

 そして後半、帝国の放蕩皇子ルーカスが王宮に乗り込んできます。


 「毒蛇」と称される彼が、一瞬で見抜いた王国の「真の支配者」。

 ロミナ様に向けられた無遠慮な指に対し、忠犬と参謀が同時に牙を剥きます!


 王国の離宮、その南向きに設えられたサンルームは、午後の柔らかな陽光を閉じ込めたガラスの揺りかごのようだった。


「……ん、そこです……。あぁ、ロミナ様……」


 ソファに深く腰掛けた私の膝の上で、甘美な吐息が漏れる。

 無防備に頭を預けているのは、戦場では氷の死神と恐れられるアステルだ。

 私がブラシを通すたび、彼の滑らかな銀髪が指の間をさらさらと流れ落ちる。


 窓辺では、黒猫の姿をしたキバが液状化したように伸びて日向ぼっこを貪り、少し離れたテーブルではエリザとマーガレットが、静かに針を動かしている。


「平和ね。……硝子細工のように脆いけれど」


 私はブラシの手を止めず、窓の外へ視線を投げた。


「失礼します」


 ライルが静かに、しかし硬い足取りで入室してきた。

 彼は一通の書状を差し出した。


「報告です。帝国より早馬が。……『和平使節団』の派遣を申し入れてきました。代表は第3皇子ルーカス」


「あら、随分と大物が動くのね」


「ええ。厄介な男です。女性を籠絡することに関しては天性の才を持つ『毒蛇』と聞き及んでおります」


 私は書状を受け取り、悪戯な笑みを浮かべて、膝の上でとろけている従僕を見下ろした。


「へぇ、女たらしの皇子様、か。……ねえアステル。貴方よりいい男かしら?」


 その言葉は、爆薬のスイッチだった。


 ガバッ!!


 アステルがバネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。


「あ、あ、あり得ませんッ!! 断じて!!」


 彼は私の手を取り、縋り付くように声を張り上げた。


「私の美貌! この絶対的な忠誠心! そしてロミナ様のために磨き上げた剣技! すべてにおいて、あの薄汚い帝国の猿ごときが私に勝る要素など塵ほどもありません! ……そ、そうですよね!? ロミナ様!」


「ふふ。……冗談よ、愛らしいアステル」


 私はクスクスと喉を鳴らし、取り乱す彼の頭を撫でてやった。


 ◇


 数日後。王城、謁見の間。


 重厚な扉が、大仰な音を立てて開かれる。

 現れたのは、第3皇子ルーカス。


 彼は赤い絨毯の上を、自分の寝室であるかのように不遜な足取りで歩いてくる。

 あろうことか玉座の目の前まで土足で踏み込んだ。


「やあ、噂に違わぬ美しき女王陛下。……随分と妖艶に咲き誇ったものだね?」


 ルーカスはエリザの手を強引に引き寄せ、ねっとりとした唇を押し付ける。


「……無礼な方ね。その汚らわしい手首、この場で切り落とされたいのですか?」


 エリザの声は氷点下だった。

 ルーカスは喉の奥で楽しげにクツクツと笑う。


 軽薄な笑み。しかし次の瞬間、彼の琥珀色の瞳孔が鋭く収縮した。


(……なんだ、あのメイドは?)


 彼の脳内で、野生の警鐘が鳴り響く。

 女王の背後に控える一介の侍女から漂う、底知れぬ重圧。

 この場の空気の密度を決定づけているのは、女王ではなく、あのメイドだと本能が叫んでいた。


「……へぇ」


 ルーカスはニヤリと唇を歪めた。

 彼はエリザの手を放すと、迷いなく私の方へと歩み寄ってきた。


「ねえ君、可愛いね。名前は? ……こんな所でくすぶってないで、俺の側室にならない?」


 彼の無遠慮な指先が、私の銀糸に触れようとした――その刹那。


 カチリ。

 ドンッ。


 二つの音が、完璧なユニゾンで空気を断ち切った。

 一瞬で視界が塞がれる。

 私の前には、二人の男が巨大な城壁となって立ちはだかっていた。


「……下郎。その薄汚い指を、今すぐ切り落とされたいか?」


 アステルの声は、地獄の底から響くような低音だった。

 全身から噴き出す殺気は物理的な圧力を伴い、ルーカスの肌を刺す。


「お下がりください、皇子殿下」


 対照的に、ライルは穏やかな笑みを浮かべていた。

 だが、その眼鏡の奥にある瞳は、一切笑っていない。


「うちのメイドに気安く触れられると……直ちに『ハータ帝国の地図からの消滅』に繋がりますよ?」


 ルーカスの動きが、ピタリと止まる。


(おいおい……冗談だろ? こいつら、女王には目もくれず、真っ先に『メイド』を守ったのか?)


 この国の核は、このメイドにある。

 彼の野生の勘が、その事実を確信へと変えた。


「……ハハッ、冗談だよ」


 ルーカスは強張った頬を無理やり緩め、両手を挙げた。

 慎重に、後ずさる。


「怖い番犬だねえ。……噛み殺されちゃたまらない」

第40話をお読みいただき、ありがとうございました。


 アステル様、ロミナ様の膝上でとろけていたと思ったら、「女たらし」の話題で一瞬にして戦闘モード(焦燥モード)に。

 彼にとってロミナ様の関心が自分から逸れることは、世界の滅亡より恐ろしいことなのでしょう。


 そしてルーカス皇子。

 これまでの小物たちとは違い、本能でロミナ様が「一番やばい」ことに気づいてしまいました。

 わざとメイドにちょっかいを出して周囲の反応を見るあたり、さすがは策士といったところ。


 魔王軍と毒蛇皇子、スリリングな心理戦の始まりです。

 面白いと感じていただけたら、ぜひブックマークや評価での応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ