第38話 格の違い:将軍の敗北と影の仕事
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今回は、帝国軍が誇る最強の「鉄血」バルガス将軍とアステルの直接対決。
……と言いつつも、アステルにとっては、あくびが出るほどの「お掃除」に過ぎませんでした。
そして戦場の影では、もう一人の魔王軍幹部・牙が、帝国軍の逃げ道を完璧に封鎖します。
表と裏、二方向からの徹底的な蹂躙をお楽しみください!
「き、貴様……何者だ!? その力、ただの魔法剣士ではないな!?」
バルガス将軍が、恐怖で足のすくむ愛馬を無理やり進め、アステルの前へと立ちはだかる。
歴戦の猛者として鳴らした彼の顔からは、もはや余裕のかけらも消え失せていた。
こめかみから流れ落ちる脂汗が、未知の脅威に対する生物としての警鐘を激しく鳴らしている。
アステルは、埃ひとつついていない手袋を直しながら、冷ややかな視線を投げた。
「我が名はアステル。……偉大なる魔王、ロミナ様の剣にございます」
「魔王、だと……? ふざけるな! そんな戯言が通じるか!」
恐怖を怒号で塗りつぶし、バルガスは全身の筋肉を鋼のように膨張させた。
彼が振り上げた大剣は、振るうだけで風圧の鎌を生み、岩盤をも粉砕する、まさに「鉄血」の象徴たる剛剣。
「塵に還れぇぇぇッ!!」
渾身の咆哮と共に、大剣が振り下ろされた。
直撃すれば人の体など霧散する、必殺の一撃。
しかし。
カィン。
戦場にはあまりに不釣り合いな、硬貨を弾いたような軽い音が一つ、響いただけだった。
「……ふわぁ」
時が止まったかのような静寂の中、アステルは左手で口元を覆い、あくびを噛み殺していた。
バルガスの必殺の剛剣は、アステルが片手で無造作に掲げた細身の剣によって、完全に停止させられていた。
手首ひとつ、指一本さえ震えていない。
「……遅い」
「な、に……?」
「貴様が帝国の将軍ですか。……多少は退屈しのぎになるかと思いましたが、期待外れもいいところだ」
アステルのアイスブルーの瞳が、眼前で凝固する巨漢を射抜く。
「あの方の『お昼寝』の邪魔です。……消えなさい」
アステルが、虫を払うように手首を軽く返した。
ただそれだけの動作だった。
だが、その一閃はバルガスの大剣を飴細工のごとく粉砕し、そのまま強固な鎧ごと、将軍の胴体をなめらかに両断していた。
「ば、かな……人間、の……業で、は……」
ドサリ。
上半身と下半身が別々に崩れ落ちる。バルガスは信じられないものを見る目で虚空を睨み、絶命した。
「死にぞこないども、国へ帰って伝えるがいい。……この国は、魔王ロミナ様の所有物だ。二度と足を踏み入れるな、と」
帝国兵たちの心は、パキンという音を立てて砕け散った。
「あ、あああ……悪魔だ! 逃げろ! 殺される!」
我先にと背を向け、武器を捨てて逃げ惑う。
それは、蜘蛛の子を散らすような哀れな敗残の群れでしかなかった。
◇
アステルが戦場を凍てつかせていたその裏側。
帝国軍の陣地を遥か眼下に望む断崖の上に、一つの影が落ちていた。
黒いフードを目深に被った少年、牙。
彼は断崖の縁に屈み込み、遥か彼方で煌めく蒼い閃光を、退屈そうに見下ろしていた。
「派手だねぇ、アステル君は。……あんなに目立っちゃってさ」
少年はくすりと喉を鳴らし、自身の足元――大地に張り巡らせた見えない糸の感触を確かめる。
「ま、『裏方』には裏方のやり方があるってね。……小生は地味に、確実に、内臓から腐らせてあげますか」
牙は細い指を高く掲げた。
パチン。
刹那、地面に刻まれていた幾重もの術式が、どす黒い赤光を放って起動した。
ドォォォォォォォンッ!!
地響きと共に、帝国軍の後方が紅蓮の炎に飲み込まれた。
食料庫、武器庫、そして退路となる唯一の石橋。
それらが同時に爆ぜ、ガラガラと音を立てて崩落していく。
「あーあ、燃えちゃった。今日の晩ご飯はお預けだね」
兵站の喪失と退路の断絶。
それは軍隊という生き物の「血管」と「アキレス腱」を同時に切断したことを意味する。
「はい、これで長期戦は無理。逃げ道もなし。……チェックメイトだ」
燃え盛る炎の赤が、フードの奥にある牙の瞳を照らし出す。
彼は唇の端を吊り上げ、残酷な笑みを夜空に浮かべた。
第38話をお読みいただき、ありがとうございました。
将軍バルガス……「人間」としては最強クラスだったのでしょうが、アステル相手では「遅すぎる」の一言で終わってしまいました。
一方の牙君も、少年姿でさらりとえげつない「兵糧攻め」を完遂。
これで帝国軍は、戦う力も逃げる手段も失いました。
次回の更新もどうぞお楽しみに!
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