第37話 銀の閃光:たった一人の援軍と氷の彫像
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帝国軍の圧倒的な物量と、鉄血の将軍の暴威。
もはやこれまでかと思われた瞬間、戦場に舞い降りたのは、燕尾服を纏った一人の青年でした。
アステルの規格外の力と、冷徹な「掃除」の始まり。
魔王の騎士による、美しき惨劇をお楽しみください!
臨界点を超えた緊張が弾け、世界が一瞬にして暴力の色に塗り替えられた。
合図と共に動き出したのは、帝国の重装騎兵団。
それは戦術的な突撃というよりは、質量を持った鉄の雪崩そのものだった。
衝突の瞬間、王国軍の前衛は物理法則にねじ伏せられた。
鍛え上げられた鋼の盾も、身を守るはずの鎧も、彼らの圧倒的な運動エネルギーの前では濡れた紙片ほどの意味も持たなかった。
「弱い! 脆すぎる! これが貴様らの誇る王国の守りか!」
鮮血の霧が舞う中、バルガス将軍の哄笑が轟いた。
彼の豪腕が振るう大剣は、人の胴を枯れ木のように容易く薙ぎ払っていく。
誰も止められない。
この男こそが戦場の理であり、災害そのものだった。
誰もがその暴虐を、抗えぬ運命として受け入れかけた、その刹那。
熱狂する戦場の空気が、不自然なほど唐突に凍りついた。
「――邪魔だ」
それは、怒声ですらなかった。
だが、その声に含まれた絶対的な冷徹さと純粋な不快感は、戦場という空間そのものを支配して響き渡った。
◇
崩壊寸前の前線、血と泥に塗れた混沌の中心に、あまりにも異質な一点が存在していた。
鋼鉄の鎧も、身を守る盾もない。
そこに立っていたのは、夜会にでも赴くかのような漆黒の燕尾服を完璧に着こなした、一人の青年だった。
風にさらりと流れる銀髪、戦場の埃さえ寄せ付けないその潔癖な佇まい。
殺意に沸いていた敵も、絶望していた味方も、呼吸を忘れて時を止めた。
「なんだ、あの優男は? 余興のつもりか?」
静寂を破ったのは、帝国騎兵の一人が浮かべた卑俗な嘲笑だった。
巨大な軍馬を猛らせ、全速力の槍の穂先を突き出す。
「死ねッ!」
だが、アステルは剣の柄に指一本触れようとしない。
ただ、純白の手袋を嵌めた右手をふわりと前にかざしただけだった。
ドォォォォンッ!!
重く、鈍い衝撃音。
騎兵の表情が、驚愕を超えて空白に染まる。
全速力の槍の穂先は、アステルの掌の中で、あたかも最初から静止していたかのように止まっていた。
微動だにしない細腕が、軍馬の全ての運動エネルギーをゼロに殺していた。
「……躾がなっていませんね」
アステルは嘆息し、掌を軽く返す。
次の瞬間、騎兵の視界が反転した。
アステルは手首のスナップだけで、騎乗したままの兵士を――馬ごと軽々と宙へ放り投げたのだ。
悲鳴を上げる間もなく、巨大な黒い塊は後続の部隊へと激突した。
ぐしゃり、と鉄と骨が同時に砕ける不快な音が連鎖し、十数人の兵士がボロ布のように吹き飛ぶ。
「ロミナ様がご覧になっているのです。……貴様らの薄汚い血で、これ以上視界を汚さないでいただきたい」
アステルが、ゆっくりと腰の剣を抜き放つ。
現れた刀身は、月光を閉じ込めた氷柱のように青白く透き通り、死の世界へ誘う冷気を纏っていた。
「――凍れ」
感情の抜け落ちた声と共に、一閃。
振るわれたのは剣ではなく、絶対零度の境界線だった。
蒼い斬撃の波紋が、殺到しようとしていた騎兵隊を音もなく飲み込む。
恐怖に歪む顔も、嘶こうとした馬の喉も、噴き出そうとした熱い血潮も。
刹那、その全ての時間が凍結した。
数百の命が、精巧な氷の彫像へと変わり果てる。
そして一拍の後。
パリン、と。
クリスタルグラスを床に落としたような澄んだ音が響き渡り――
氷像たちは無数の煌めく粉塵となって、さらさらと崩れ落ちた。
第37話をお読みいただき、ありがとうございました。
アステル様、期待を裏切らないチートっぷりですね。
槍を素手で止めた挙句、馬ごと放り投げる筋力と、数百人を一瞬で粉塵に変える魔剣の威力。
「泥遊びは許さない」というロミナ様の言葉通り、返り血すら許さない徹底した戦い方です。
これを見たバルガス将軍や、呆然とする王国軍の反応は……?
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