表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/52

第35話 冷酷な拒絶:聖女の末路と次なる戦場へ

いつもお読みいただきありがとうございます!


 ついに、偽聖女キャスリーンの断罪が完了しました。

 ライルの耳元での囁き、そして圧倒的な民衆の熱狂による「絶望の封印」。

 魔王軍の参謀らしい、徹底的な幕引きをお楽しみください。


 そして物語は、国内の掃除を終え、次なるステージへ。

 標的は「ハータ帝国」。本格的な戦争の幕が上がります!


 キャスリーンの膝は、冷たい石畳の上で既に感覚を失っていた。

 乱れた髪、土に塗れたドレス。


 彼女は這うようにして前へ進み、目の前に立つ革靴の爪先に、震える指を食い込ませた。


「助けて、ライル様……! 貴方は、知っているでしょう!?」


 喉の奥から絞り出した声は、嗚咽で引き攣り、無様に裏返った。


「全部、貴方が……貴方が仕組んだことじゃない!」


 彼女の必死の訴えを、ライルは見下ろしていた。

 その眼差しには、慈悲など欠片もない。氷点下の侮蔑だけがそこにあった。


 ふ、とライルの膝が折られた。

 彼は優雅な動作でゆっくりと屈み込み、キャスリーンの耳元へとその唇を寄せる。


 周囲の熱狂的な群衆には、それが慈愛に満ちた聖人の抱擁に見えたことだろう。

 だが、彼女の鼓膜を震わせたのは、甘美な毒を含んだ囁きだった。


「ええ。知っていますよ」


 吐息が掛かるほどの距離で、ライルの口角が三日月のように吊り上がる。


「……ですが、誰がそれを信じるんです?」


 キャスリーンの全身が硬直した。


「すべてを救済する高潔な『聖人』である私と、金に目が眩んだ卑しい『泥棒猫』である貴女。……さあ、愚かな民衆は、どちらの言葉に涙すると思いますか?」


「ひっ……あ……」


「さようなら、キャスリーン。貴女は本当に、使い勝手の良い『生贄』でしたよ」


 直後、ライルは弾かれたように立ち上がった。

 彼は悲しげに眉を寄せ、しかし力強く、衛兵たちに向かって腕を振り下ろした。


「この女を地下牢へ! ……我らが神の、厳正なる裁きを待たせなさい!」


 衛兵の手がキャスリーンの細い腕を乱暴に掴み上げ、引き剥がす。


「いやぁぁぁ! 離してぇぇぇ!!」


 恐怖は瞬く間に憎悪へと変貌し、彼女は獣のように咆哮した。


「ライル、あんたなんか……あんたなんか死ねぇぇ!!」


 その血を吐くような呪詛は、しかし、誰の耳にも届きはしない。

 広場を揺るがすのは、地鳴りのような歓声だった。


「ライル様万歳!」「新たな英雄に祝福を!」。


 熱狂の渦が、一人の女の絶望を跡形もなく飲み込んでいく。


 ◇


 聖堂のドーム天井に近い、豪奢な貴賓席。


 私たちはその特等席で、磁器のカップを傾けながら、血と涙に塗れた喜劇を見下ろしていた。


「傑作ですわね。御覧になって? あの魂が砕け散る瞬間の、みっともなくも美しい泣き顔」


 エリザがレースの扇子を優雅に揺らす。


「専属の画家に描かせたいくらいだわ。タイトルはそう……『愚者の末路』かしら」


「いやぁ、小生の技術も捨てたもんじゃないでしょう? 断末魔の周波数を余さず拾う、完璧な音響設計でしたからねぇ」


 キバが得意げに髭を撫でる。

 残酷な談笑が交わされる中、ふいに私の視界が遮られた。


「……ロミナ様、これ以上は見るに堪えません」


 アステルだ。

 彼は眉間に深い皺を刻み、まるで汚物を見るような嫌悪の眼差しを眼下に向けていた。


「あのような醜悪なものを見続ければ、貴女様の清らかな瞳が腐ってしまいます。さあ、もう十分でしょう。お戻りになりましょう」


「ふふ。そうね。……相変わらず、過保護な騎士ナイトだこと」


 私はその最後のひと幕を、冷徹な観察者の目として網膜に焼き付ける。

 これでいい。国内に巣食っていたおりは取り除かれた。


 ◇


 離宮へと続く馬車の中。夜風と共にライルが滑り込んできた。


「お待たせしました。……キャスリーンは、もはや心壊れた人形です。二度と、言葉を紡ぐこともないでしょう」


「ご苦労様。……これで、足元の憂いは消え去ったわ」


 私は深く長椅子に身を預け、流れる車窓の景色に視線を投げた。

 膝の上で、羊皮紙の地図を広げる。


 私の指先が、東の国境線をなぞり、不吉な赤色で塗られた領域の上で止まる。


「次は外よ。……『ハータ帝国』」


「ノースの死を知れば、奴らは雪崩のように押し寄せてくるでしょう」


 対面に座るアステルが、剣の柄に手を添えた。


「誰が来ようと、関係ありません。貴女様の御前に立つ者は、ことごとく斬り捨てるのみです」


「ええ。遊びは終わり。次は『戦争』よ」


 私は地図を握り潰すようにして閉じ、不敵に笑った。


「私の美しい庭(世界)を荒らす害虫どもを、一匹残らず駆除しに行くわよ」


 車輪が回る重たい音は、国内での幕引きを告げる鐘の音であり、同時に、次なる血塗られた覇道へのカウントダウンでもあった。

第35話をお読みいただき、ありがとうございました。


 キャスリーン様、救いを求めた相手が「地獄の案内人」だったという皮肉な結末。

 「誰がそれを信じるんです?」というライルのセリフ、ゾクゾクしましたね。


 そして安定の過保護アステル。ロミナ様の目が腐ると心配するあたりが彼らしいです。


 これにて「王国国内編」は完結。

 次回からは、よりスケールの大きな「ハータ帝国編」がスタートします。

 魔王ロミナ様とエリザ様の快進撃は止まりません!


 面白いと感じていただけたら、ぜひブックマークや評価での応援をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ