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第31話 舞踏会前夜:アステルの拒絶とハンカチの焼却

いつもお読みいただきありがとうございます!


 今回は、懲りない聖女キャスリーンと、鉄壁の拒絶を貫くアステルの攻防(?)回です。  もはや誘惑というよりは、害虫を避けるようなアステルの反応。


 さらにロミナ様も加わって、いよいよ聖女の精神的プレッシャーは限界へ。  慈善舞踏会を前に、最高に「不快」なやり取りをお楽しみください!

 数日後。王城の大広間は、来るべき慈善舞踏会に向けた準備の熱気に包まれていた。


 装飾の花々が運び込まれ、使用人たちが慌ただしく行き交う中、視察という名目で現れたキャスリーンは、獲物を探す猛禽のような眼差しを巡らせていた。


 そして、彼女の視線が一点で止まる。


 壁際、彫像のように微動だにせず佇む、氷の美貌を持つ青年。  エリザの護衛、アステルだ。


(あら、あのイケメン護衛。……相変わらず、涎が出るほど美味しそう)


 先日の拒絶など、彼女の都合の良い脳内ではすでに「照れ隠し」へと変換されているのだろう。  彼女は懲りもせず、濃厚な香水の香りを撒き散らしながら彼に歩み寄った。


「ねえ、貴方。……エリザ様みたいな潔癖でキツイ女の護衛なんて、正直疲れるでしょ?」


 キャスリーンはアステルの視界に割り込み、上目遣いで甘えた声を出す。


「私の部屋にいらっしゃいな。今夜なら、特別に……『聖女の癒やし』をたっぷりと施してあげるわよ?」


 彼女は誘惑の仕上げとばかりに、アステルの二の腕に、その身体を押し付けようとした。


 ――サッ。


 風切音すらしない、神速の回避。


 アステルは無言のまま、汚穢おわいを避けるように半身を引いた。  キャスリーンの指先が空を切り、彼女はバランスを崩してよろめく。


 だが、アステルは彼女を見向きもしない。


 彼は懐から純白のシルクのハンカチを取り出すと、キャスリーンの指が触れそうになった自らの袖口を、親の仇でも討つかのような凄まじい形相で、ゴシゴシと拭い始めた。


「……ッ、……ッ!」


 無言の圧力。  ただ布が擦れる音だけが、アステルの抱く生理的な嫌悪感を雄弁に物語る。


「……ロミナ様。至急、業務用の強力な消毒用アルコールはありますか? あるいは、塩と聖水を」


「あら、大変」


 近くで様子を窺っていた私は、芝居がかった仕草で口元を押さえ、歩み寄った。


「腐った果実の汁でも飛んできたのかしら? ……だめよアステル。布に染み込んでしまったら、もう手遅れだわ」


「……では」


 アステルの瞳が、決然と細められる。


 彼は迷いなく軍服の上着を脱ぎ捨てると、丸め、まるで放射性廃棄物でも扱うかのように、革靴の爪先で遠くへ蹴り飛ばした。


「焼却処分いたします。灰すら残さぬように」


「ええ、それがいいわ。菌が移るといけないもの」


 目前で繰り広げられた、あまりに露骨な拒絶と侮蔑の連鎖。


 キャスリーンは、わなわなと唇を震わせた。  羞恥で真っ赤に染まった顔は、厚化粧の下でひび割れそうだ。


「キ、キィーッ!! な、なによあんたたち! 私が触れてあげようとしたのに! 覚えてなさいよ、この無礼者!」


 金切り声を上げ、ヒールの音を荒立てて去っていく聖女。


 その背中を見送りながら、私は小さく嘆息した。  学習能力がないのか、それとも自尊心が肥大化しすぎて現実が見えないのか。


 ……まあ、どちらにせよ彼女の末路は変わらないけれど。

第31話をお読みいただき、ありがとうございました。


 アステル様、上着を蹴り飛ばして「焼却処分」は流石に徹底しすぎです(笑)。  それほどまでにキャスリーン様が不浄な存在ということなのでしょう。


 ロミナ様も「菌が移る」なんて、さらっと酷いことをおっしゃる……。  魔王軍の面々からこれほど嫌われている聖女が、舞踏会でどのような恥を晒すことになるのか。


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