第28話 黒猫の嘲笑:格の違いと賢者の末路
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味方を巻き込み暴走するスーラの禁呪。 絶体絶命の戦場に現れたのは、ロミナ様の使い魔『牙』でした。
猫から少年へと姿を変えた彼の、圧倒的な「格の違い」を見せつけるシーン。 そして、全てを失い泥にまみれる賢者の末路……。 魔王軍の底知れぬ実力の一端を、どうぞお楽しみください!
スーラが泥に足を取られながら、無様に背を向けた、その時だ。
「やれやれ。……あまりに酷すぎて、見ていられないなぁ」
暴風と豪雨が支配する轟音の中で、その気怠げな声は、奇妙なほどクリアに鼓膜へと届いた。
心臓を鷲掴みにされたような悪寒。 スーラが引きつった顔で振り返ると、そこには雨に濡れることもなく佇む、一人の少年の姿があった。
漆黒のフードを目深に被り、首元には革のチョーカー。 その隙間から覗くのは、夜の闇を煮詰めたような黒い瞳と、常に眠たげな、しかし底知れぬ捕食者の気配。
我が物顔で離宮を歩いていた黒猫――『牙』の、人化した姿だ。
「き、貴様は……あの時の猫……!?」
「君さぁ。人間ってのは、教科書通りの魔法も満足に使えないわけ? ……見てて恥ずかしいんだけど」
牙は、目前に迫りくる巨大な竜巻を前にしても、散歩の途中かのようにズボンのポケットに手を突っ込んだままだ。
彼はあくびを噛み殺し、呆れ果てた視線を暴走する魔力へと向ける。
「魔力の構成が雑すぎるんだよ。編み込みも甘いし、制御術式なんて穴だらけ。……基礎からやり直したら?」
牙はスーラを鼻で笑うと、咆哮を上げる黒い風の怪物に向かって、無造作に右手をかざした。
そして、親指と中指を重ねる。 ――パチン。
乾いた、しかし世界を書き換えるような硬質な音が、戦場に響いた。
その瞬間。 物理法則が無視された。
天を突き刺す勢いで暴れ狂っていた巨大な竜巻が、まるで最初から存在しなかった幻影であったかのように、音もなく霧散したのだ。
後に残ったのは、ただ降り注ぐ雨音と、凪いだ風だけ。
「な……あ……ッ!?」
スーラは目を見開き、呼吸すら忘れて硬直した。
宮廷魔導師団が束になっても制御不能な災害級の魔力暴走を、たった一人の少年が、指パッチン一つで「無かったこと」にした。
それは魔法技術の差などという生易しいものではない。 生物としての格の絶対的な違い。
「ほら、ロミナ様に頼まれた『尻拭い』はしてあげたから。……後はさっさと、無様に負けてきなよ、賢者様?」
牙は冷たく嘲笑うと、輪郭を黒い霧へと変え、雨の中に溶けるようにしてその場から消え失せた。
残されたスーラは、ガチガチと歯を鳴らし、腰から崩れ落ちた。
泥の中にへたり込んだ彼の下半身から、じわりと温かい液体が広がり、冷たい雨水と混じり合っていく。
恐怖と屈辱。 賢者のプライドは、泥水と汚物にまみれて完全に死滅した。
第28話をお読みいただき、ありがとうございました。
牙君、人型になっても口の悪さと有能さは健在です。 スーラが一生懸命放った禁呪を、指先一つで消してしまう無慈悲さ。これこそ「魔王の使い魔」といったところでしょうか。
賢者としての誇りも、人間としての尊厳も汚してしまったスーラ様。 これで王国側の「駒」は一つ、完全に使い物にならなくなりました。
次回の更新もどうぞお楽しみに! 面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると幸いです。




