第24話 漆黒のマスカレード:国葬と聖女の誤算
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今回は、亡き第一王子ノースの国葬回です。 漆黒に染まった大聖堂で繰り広げられるのは、悲劇ではなく極上の喜劇。
周囲の涙を誘いながら、ベールの下で笑い転げるエリザ様。 そして、主人が死ぬなり次の「乗り換え先」を探し始める聖女キャスリーン。 それぞれの欲望が交錯する、葬礼の夜をお楽しみください。
数日後。王都の大聖堂は、重苦しい威厳と、どこか芝居がかった悲哀に包まれていた。
天井まで響き渡るパイプオルガンの重低音が、ステンドグラスを震わせ、参列者の肺腑を圧迫する。 広大な身廊を埋め尽くすのは、喪服に身を包んだ貴族たちの黒い波。
その単調な黒の海を割るように、ひときわ異彩を放つ一団が静かに歩を進めた。
深い喪のベールを被ったエリザ、侍女に変装した私、そして護衛として付き従うアステル。
黒いレース越しに透けるエリザの横顔は、愁いを帯びた聖女のように見えて、その実、夜の闇を凝縮したような退廃的な美しさを放っている。
何よりも彼らの視線を釘付けにしたのは、私の背後に控える男だった。
「……見て、あの護衛の方」 「なんて美しいのかしら。まるで、冥府から来た死神のよう……」
貴婦人たちの吐息混じりの囁きが漏れる。 漆黒の礼服に、純白の喪章。
その対比が、アステルの流れるような銀髪と、体温を感じさせない氷の美貌を極限まで引き立てていた。
祭壇の最前列。 エリザは黒扇子で顔の下半分を覆い、棺を見つめたまま、華奢な肩を小刻みに震わせていた。
嗚咽を堪えているかのようなその姿に、周囲の者たちは「兄の死を悼む哀れな妹」の姿を重ね、もらい泣きすらしている。
私は一歩踏み出し、慰めるふりをしてエリザの耳元へ唇を寄せた。
「……エリザ、肩が震えすぎよ。笑いを堪えるなら、もう少しうまくやりなさい」
私の咎めるような囁きに、エリザはベールの下で、扇子を握る手に力を込めた。
「だって、ロミナ様……。ご覧になってください」
彼女の声は、涙ではなく、抑えきれない愉悦に濡れていた。
「あんなクズ一匹のために、国中が沈痛な面持ちで喪に服している……。これほど滑稽で、贅沢なコメディはありませんわ」
エリザは俯き、声を殺して笑い続ける。 その震える背中は、悲劇のヒロインという仮面の下で、悪女の喜びに満ちていた。
◇
厳粛な空気が支配する大聖堂の片隅で、焦燥と嫉妬に焼けついた視線を送る者たちがいた。 後ろ盾を失った、賢者スーラと聖女キャスリーンだ。
「……マズい。非常にマズいぞ」
スーラは脂汗を滲ませ、親指の爪を血が滲むほど強く噛んだ。
「次の権力の中枢は、間違いなくエリザ王女と教会に移る。……僕たちは今まで、散々彼女を蔑ろにしてきた。粛清の対象リストの筆頭だ」
「あら、スーラ。みっともない顔をしないでちょうだい」
対照的に、キャスリーンは鼻で笑い、艶やかな赤毛を優雅に払い除けた。
「大丈夫よ。私には教会が認定した『聖女』という絶対的な肩書きがあるもの。それに……」
彼女の粘着質な視線が、祭壇へと這い進む。 捉えたのは、次期大司教ライルと、美貌の護衛アステル。
「ノース様は壊れちゃったけれど、市場にはもっと上等な『物件』が並んでいるじゃない」
キャスリーンは熱っぽい吐息を漏らす。 その目は、獲物を狙う雌豹のものだ。
「あっちに乗り換えればいいだけの話よ。エリザ様だって、私の影響力を無下にはできないはず。……ねえ、どちらが好み?」
彼女は喪服の胸元を僅かに寛げ、白い谷間を強調するように直した。 さらに、死者のための場には不釣り合いな、鮮やかな紅を唇に引く。
死体が冷たくなるのを待つことすらせず、次の寄生先を品定めする浅ましさ。 その純粋培養された欲望は、ある種の清々しさすら漂わせていた。
第24話をお読みいただき、ありがとうございました。
アステル、葬儀の場でも目立ちすぎています(笑)。 死神のような美貌の護衛……そんなの、貴婦人たちが放っておくはずもありません。
そして聖女キャスリーン。 ここまで徹底して「俗物」だと、もはや天晴れですね。 彼女のこの図太さが、後の展開にどう関わってくるのか。
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