第21話 断罪の宴:公開処刑の招待状
いつもお読みいただきありがとうございます!
王家を掌握し、優雅な日々を過ごすエリザ様(ロミナ様)。 一方で、居場所を失った第一王子ノースは、味方だと思っていた連中からも見放され、ついに臨界点を突破してしまいます。
静かなティータイムに近づく、破滅の足音。 物語はいよいよ、一つの大きな山場を迎えます。
エリザとライルの婚約発表から数日。 王城の空気は、まるで腐った果実のように劇的に変質していた。
かつてはノース王子が歩けば道が開け、阿諛追従の言葉が飛び交っていた回廊。 だが今、そこにあるのは冷ややかな沈黙と、背中を向けられる屈辱だけだ。
貴族たちはノースの姿を認めると、疫病神でも見るかのように露骨に顔を背け、あるいは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。 視線の端に映るのは、哀れみと蔑みが混じり合った、針のような眼差しのみ。
「くそっ! どいつもこいつも! 僕を見ろ! 僕こそが、選ばれた王太子だぞ!」
執務室に、磁器が砕け散る激しい音が響き渡った。
ノースは高価な花瓶を壁に叩きつけ、肩で荒い息をついていた。 床に散らばった破片は、粉々に砕けた彼自身のプライドそのものだった。
孤独と焦燥が、胃の腑を焼き尽くす。 縋るような思いで呼び出した友人の賢者スーラ、そして愛玩具のように侍らせていた聖女キャスリーン。
彼らだけは味方だという妄想も、扉を開けた瞬間に打ち砕かれた。
「スーラ! キャスリーン! どこだ、早く僕を慰めろ! あいつらが僕を無視するんだ!」
絶叫するノースに対し、入室した二人の反応は氷のように冷たかった。
「落ち着け、ノース。……感情論は聞き飽きた。客観的に見て、これは分の悪い賭けだ。教会という巨大な後ろ盾を得たエリザ王女を敵に回して、我々に勝ち目はない」
「そうよぉ。ねえ、ノース様。もう無駄な足掻きはやめて、エリザ様に土下座でもしたら? 私、負け馬に乗って泥を被るのは趣味じゃないの」
キャスリーンは爪の手入れをしながら、甘ったるい声で毒を吐く。 その瞳には、かつて向けていた媚びなど微塵もなく、あるのは敗北者を見る底冷えするような侮蔑だけ。
味方だと思っていた者たちからの、容赦ない切り捨て。 ノースの中で肥大化しきっていた自己愛が、音を立てて決定的な亀裂を入れた。
「謝る……だと? この僕が? ……あんな無能な女に頭を下げろと言うのか?」
ギリ、と奥歯が砕けそうな音を立てる。 視界が真っ赤な怒りで塗り潰されていく。
「そうだ……違う、僕は悪くない。全ては、あの生意気な女と、役立たずの妻のせいだ! 無能なゴミどもが、優秀な僕の邪魔をしているだけなんだ!」
ノースの瞳から理性の光が消え、狂気じみた濁った光が宿る。
彼は腰に帯びた剣の柄を、指が白くなるほど強く握りしめた。 暴力。それが、追い詰められた愚者が縋れる最後の万能感。
「排除してやる……僕の正しさを、わからせてやる……!」
ノースは獣のような低い唸り声を上げ、執務室を飛び出した。 その足取りは、破滅へと向かう断頭台への階段を、自ら駆け上がっていくかのようだった。
◇
一方、離宮のサロンは、外界の殺伐とした空気とは無縁の、蜂蜜を溶かしたような午後の陽気に満たされていた。
豪奢なテーブルセットを挟み、エリザとマーガレットが向かい合う。 私とアステルは壁際に控え、その絵画のように美しい光景を見守っていた。
数日前まで幽霊のように蒼白だったマーガレットの頬には、今や薔薇色の血色が戻っている。 もっともそれは、健康的な生気というよりは、熱病に冒された少女のような危うい艶やかさだった。
「美味しい? マーガレット」
「……はい、エリザ様。とても」
エリザに勧められたスコーンを、マーガレットは小鳥が餌を啄ばむように、小さな一口で口に運ぶ。
「味が、します。……貴女様が傍にいてくださる時だけ、私は自分が生きていると感じられるのです」
恍惚とした表情で紡がれる言葉。 エリザは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、テーブル越しに手を伸ばすと、マーガレットの亜麻色の髪をゆっくりと撫でた。
「いい子ね。ずっとそのままでいて。……私の可愛いお人形」
撫でられるたび、マーガレットは目を細め、快楽に身を震わせる。
完璧だ。 完全に依存している。 彼女の精神は今や、エリザという支柱なしでは立っていられないほどに脆く、作り変えられた。
(……さあ、仕上げの時間よ)
私は銀のポットを持ち上げ、紅茶の温度を確認しながら、サロンの扉の向こうへ意識を向けた。
静寂を切り裂くように、ドタドタと品のない足音が近づいてくる。 荒く、乱暴で、破滅を急ぐ愚か者の足音が。
第21話をお読みいただき、ありがとうございました。
スーラとキャスリーン、実に「なろう」らしい手のひら返しの速さですね(笑)。 追い詰められたノースが、反省するのではなく「自分以外が悪い」と狂気に走る姿は、まさに自業自得といったところ。
そんな中、すっかりエリザ様の「お人形」になってしまったマーガレット様。 彼女がこの後の修羅場でどんな行動に出るのか……。
続きが気になる!という方は、ぜひブックマークや評価での応援をお願いします! 次回の更新もどうぞお楽しみに。




