第2話 800年後の世界:泥にまみれた宝石
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回は800年後の世界。
栄華を極めた魔王様が、まさかの極貧村娘スタートです。
現状はひどい扱いですが、これも「倍返し」するための助走ですので、安心して見守ってあげてください。
「おい、ロミナ! ぼさっとするな、早く歩け!」
下卑た怒号と共に、背中に乱暴な衝撃が走った。
私はよろめき、泥濘んだ地面に足を取られる。
足首まで冷たい泥が食い込み、擦り切れた革靴の隙間から不快な湿り気が這い上がってきた。
「……はい、お父さん」
吐き出した息は白く、言葉は地面に落ちてすぐに消える。
視界の端にある水たまりが、今の私を映し出していた。
粗末な麻の服は垢と泥で汚れ、肌は栄養失調でカサついている。
かつての輝きを失い、枯れ草のようにくすんだ金髪。
頬のこけたその顔は、物語の主人公とは程遠い、どこにでもいる貧相な「村娘」そのものだった。
ここは辺境の寒村、コンテント。
八百年の時を超えて目覚めた世界は、私が夢想していた「魔族の楽園」などではなかった。
人間たちがのうのうと、しかし貧しさと無知の中で這いつくばる、ひどく退屈で灰色な場所。
(……また、あの夢)
肩に食い込む薪の入った籠の重みに耐えながら、私は重いため息をつく。
瞼の裏には、鮮やかな残像が焼き付いている。
豪奢なシャンデリアが星空のように煌めく広間。
美しい男たちが私の足元に傅き、甘やかな愛の言葉を囁く光景。
そこでの私は、こんな泥にまみれた娘ではない。
誰もが畏怖し、崇拝する絶対的な「女帝」だった。
けれど、瞬きをすれば現実はこのザマだ。
その日の夕食の食卓も、墓場のように冷え切っていた。
欠けた木皿に盛られたのは、湯気すら立っていない薄いスープと、石のように硬い黒パン。
父のボッシュと母のアイラは、私の皿にだけ具の肉が入っていないことを確認すると、満足げに鼻を鳴らし、わざとらしく音を立ててスープを啜り始めた。
「……いただきます」
「ああ、気味が悪い。この子の目はいつ見ても死人のようだね」
母がパンを千切りながら、忌々しげに吐き捨てる。
私の碧眼は、この村では異端の証であり、「不気味」なものとして忌み嫌われていた。
彼らの視線に、親としての情愛など欠片もない。
そこに在るのは、便利な「労働力」への執着か、あるいは家計を圧迫する「厄介者」への侮蔑だけだ。
けれど、怒りは湧いてこない。
私はただ、スプーンで薄いスープの水面を揺らしながら、感情の死んだ瞳でそれを見つめ返す。
(早くここを出たい。どこか、ここではない遠くへ――)
悲しみはなかった。
涙など、とうの昔に枯れ果てている。
ただ、胸の真ん中にぽっかりと空いた穴を、隙間風がヒュウと吹き抜けていくだけ。
圧倒的な虚無感だけが、私の心を支配していた。
逃げるように屋根裏部屋へ上がり、藁を詰めただけの粗末なベッドに潜り込む。
硬いシーツの感触に包まれながら、私はかつて座っていた、あの柔らかな玉座の感触を必死に思い出そうとしていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
ご飯に肉がないどころか、実の娘を「口減らし」扱いする両親……。
書いていて、私もこの両親にはイラッとしました(笑)。
ですが、不遇な時間はここまでです。
次回、第3話『真紅の契約:女帝の覚醒』。
お待たせいたしました。
眠っていた魔王の魂がいよいよ目覚めます。
覚醒したロミナが、この腐った家と両親に対してどう振る舞うのか。
最初の「ざまぁ」展開にご期待ください!
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