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第16話 次なる標的:教会への潜入

いつもお読みいただきありがとうございます!


 前回は無事に(?)王宮での顔見せを済ませたロミナ様。  今回から新章突入です。


 次なるターゲットは、かつての魔王軍の知恵袋、参謀ライル。  どうやら彼は、魔王軍とは真逆の「聖職者」として人生を謳歌しているようですが……。


 再会の一幕、お楽しみください!


「……やれやれ。あれが、この国の頂点トップだなんて。悪い冗談にもなりませんね」


 私は呆れ果てて、深く、重いため息をついた。


 かつて私が王座を懸けて戦った八百年前の勇者たちは、敵ながら天晴れだった。

 彼らの瞳には鋼の意志が宿り、その剣には命を賭した重みがあった。


 それに引き換え、今のあれは何だ?

 着飾っただけの空虚な張りぼて。中身のない道化。


 私は冷めた紅茶を見つめ、独りごちる。


「あまりに脆すぎて、征服する意欲すら湧かないわ。……もっと、マシな敵はいないのかしら」


「まあまあ、そう腐らないでくださいよ、ご主人様」


 ソファの影がゆらりと揺らぎ、そこから黒猫の姿をしたキバがひょっこりと顔を出した。

 彼は音もなく私の膝元へ飛び乗ると、琥珀色の瞳を悪戯っぽく輝かせた。


「次はもう少し、骨のある相手ですよ。……『目』からの情報が入りました」


 牙の声のトーンが、愛玩動物のそれから、有能な密偵のものへと切り替わる。


 彼の報告によれば、かつての我が軍の参謀ライルは現在、この大陸で最も神聖とされる場所――。

 イシュタル正教の中枢、「大聖堂」の奥深くに潜り込んでいるという。


「奴は教団内でも『聖人』として崇められているようですが……その実、裏ではかなり黒い泥を捏ね回しているようです。汚職、政治工作、異端審問……地位を盤石にするためなら、手段を選ばないあの手腕は健在ですよ」


「ふふ。……あの子らしいわね」


 私は思わず、口元を扇子で隠して笑みを漏らした。


 清廉潔白な聖職者の仮面を被りながら、その腹の中では真っ黒な策略を巡らせる冷徹な策士。

 神に仕えるフリをして、人間どもを掌の上で転がしているライルの姿が、ありありと目に浮かぶ。


 それは皮肉と言うにはあまりに滑稽で、最高に愉快な喜劇だ。


「会いに行きましょうか。平和ボケしたこの時代で、彼もきっと退屈しているはずよ」


 私は立ち上がり、窓の外、王都のさらに向こうにそびえる尖塔を見据えた。


 魔王軍再集結に必要な役者は、あと一人。

 私たちは次の獲物を定め、かつて世界を震え上がらせた支配者の顔で、不敵に笑い合った。


 ◇


 王都の中央、天を衝くようにそびえ立つイシュタル正教の大聖堂。


 安息日である日曜日、その巨大な胃袋のようなホールは、救いを求める有象無象の信者たちで溢れかえり、熱気と祈りのざわめきが渦を巻いていた。


 濃厚な乳香フランキンセンスの香りと、数百人の人間の体臭が混ざり合い、鼻をつく独特の空気を醸し出している。


「……相変わらず、吐き気がするほど趣味の悪い内装ね」


 貴族の令嬢を装い、深紅のドレスを纏った私は、扇子で口元を覆いながら天井を見上げた。


 頭上を埋め尽くす巨大なフレスコ画。

 聖人たちが描かれているが、その光背や装飾はこれ見よがしに金箔で塗り固められている。


 そこから透けて見えるのは、清貧や信仰心などではない。

 教団がひた隠す肥大化した自尊心と、俗物的な権威欲だけだ。


「不快な場所です。あのような金ピカの虚飾よりも、かつてロミナ様が座しておられた闇の神殿の方が、遥かに美しく、荘厳でした」


 従僕ヴァレットの装いに身を包んだアステルが、耳元で低く囁く。

 その美貌には隠しきれない嫌悪感が滲み、眉間には深い皺が刻まれていた。


 彼にとって、私以外の何者かが崇められるこの空間は、冒涜以外の何物でもないのだろう。

 私は「静かになさい」と視線だけで彼を制した。


 アステルは瞬時に恭順の意を示し、スッと気配を消して影に徹する。


「ほら、ご覧くださいご主人様。あそこ、祭壇の中央です」


 ドレスの裾に隠れるようにして、猫姿の牙が小さく鼻を鳴らした。


 その視線の先。

 無数の蝋燭が揺らめく祭壇の上に、一人の男が立っていた。


 漆黒の法衣カソックを纏った、長身の神父。


 聖職者らしく清廉な佇まいだが、襟元は計算されたかのようにわずかに着崩され、そこから大人の色気と退廃的な空気が漏れ出している。


 照明を反射して光る銀縁眼鏡の奥、その瞳は知性の光を宿しているように見えて、どこか底知れない冷徹さを孕んでいた。


 彼は聖書を片手に、朗々とした美声で説教を行っている。

 その声は、聞く者の鼓膜を甘く撫で、脳髄を痺れさせる魔力を持っていた。


「ああ、ライル様……なんて素敵なのかしら……」

「次期大司教は、絶対に彼しかいないわ」


 最前列に陣取った女性信者たちは、恍惚とした表情で頬を赤らめ、熱に浮かされたように彼を見つめている。

 それは神への祈りというより、アイドルに向ける熱狂に近い。


 ――ライル。


 かつての魔王軍参謀にして、全てを見通す「目」。


 八百年の時が過ぎ、立場が魔族から聖職者へと変わっても、その人を食ったような胡散臭い笑顔と、人心を掌握する手腕は健在のようだ。


 私は扇子の陰で、再会の喜びに口角を吊り上げた。

第16話をお読みいただき、ありがとうございました。


 元・魔王軍参謀が「眼鏡のイケメン神父」になって、女性信者をメロメロにしている……。  ロミナ様からすれば、ツッコミどころ満載の光景ですね。


 ライルはロミナ様の部下の中でも特に食えない男ですが、果たして彼は主君の帰還にどう反応するのでしょうか?


 もし「面白い!」「ライルのキャラが気になる」と思っていただけたら、  ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!


 次回、いよいよ参謀との接触です。お楽しみに!

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