第14話 招かれざる客:キラキラ王子と腐った聖女
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綺麗になった離宮で、優雅なお茶会を楽しむロミナ様たち。
しかし、そんな平穏をぶち壊すように、招かれざる客がやってきます。
見るからに安っぽい金メッキな第一王子と、香水くさい自称・聖女。
不敬極まりない彼らの態度に、魔王様の堪忍袋の緒はどうなるのでしょうか……?
イラッとしたら、それは作者の計算通りです(笑)。
次回のスカッとする展開に向けて、まずは彼らの「勘違い」っぷりをお楽しみください!
嵐のような大掃除を終えたサロンには、午後の柔らかな陽光が満ちていた。
磨き上げられた窓ガラスがプリズムのように光を拡散させ、空気中を漂っていた埃の気配は微塵もない。
再生された空間に、芳醇な茶葉の香りが静かに満ちていく。
「ロミナ様。……紅茶が入りました」
アステルが恭しく、音もなくティーカップをテーブルに滑らせる。
琥珀色の水面は揺れることすらなく、立ち昇る湯気だけが優雅な螺旋を描いていた。
その所作は、王宮の筆頭執事ですら裸足で逃げ出すほどに洗練され、無駄がない。
対面に座るエリザが、ほう、と陶酔したようなため息を漏らした。
「すごい……。所作ひとつで、空気が変わるなんて。それに、あのふてぶてしいメイドたちを一掃してしまうなんて、まるで魔法を見ているようですわ」
「勘違いしないでちょうだい。あくまで貴女の部屋よ」
私はビロードのソファに深く身を沈め、アステルが差し出したカップを手に取った。
指先に伝わる陶器の温もり。
口に含めば、完璧な温度と香りが鼻腔をくすぐる。
「ただ、私がくつろぐ空間が薄汚れているのは、生理的に我慢ならないだけ」
そう言って不敵に微笑むと、隣のクッションで丸くなっていた黒猫の牙が、同意するように喉をゴロゴロと鳴らした。
「まったくだ。ここなら昼寝も捗るっていうもんだね」
彼は満足げに目を細め、ふかふかの生地に爪を立てている。
この部屋の扉が閉ざされている間だけ、世界は逆転する。
表向きは「エリザ王女と、その侍女」だが、ここにあるのは「女帝と、その庇護下にある少女」の構図だ。
エリザは恐縮しつつも、アステルが用意した焼き菓子に手を伸ばした。
サクッ、という軽やかな音が響き、彼女の頬が幸福感に緩む。
これまでこの離宮で、まともな茶菓子すら与えられていなかったのだろう。
「ふふ、美味しい……。さて、ロミナ様。次はどう動かれますの?」
「そうね。まずは足元を固めるために……」
私がカップをソーサーに戻し、次なる策を口にしようとした、その時だった。
廊下の向こうから、ドタドタと無遠慮で騒がしい足音が近づいてくる。
せっかくの静寂と芳香を切り裂くような、粗雑な響き。
私は不快げに片眉を跳ね上げ、扉の方へと視線を流した。
その乱暴な訪問者は、ノックという礼儀すら持ち合わせていなかった。
蝶番が悲鳴を上げるほどの勢いで、両開きの扉が暴力的に押し開けられる。
壁に衝突した扉が、不快な乾いた音を立てて揺れた。
踏み込んできたのは、過剰なほどに装飾された衣装を纏った男――第一王子ノースだ。
念入りにセットされた金髪は、窓から差し込む光を浴びてけばけばしく輝いている。
その輝きは、王族の威光というよりは、安っぽい金メッキの玩具を連想させた。
「やあ、エリザ! 最近、生意気にも使用人を総入れ替えしたそうだね?」
大仰な身振りで部屋に踏み込んだノースは、ふと足を止めた。
彼の視線が、磨き上げられた床、埃ひとつない調度品、そして優雅に湯気を立てるティーカップへと彷徨う。
予想していた荒廃した景色とのギャップに、一瞬だけ間の抜けた驚きが顔に浮かぶ。
だが、彼はすぐにその動揺を塗り潰すように、粘着質な嘲笑を唇に刻んだ。
「……ふん。お前には、前のカビ臭いボロ屋敷がお似合いだったのに。無能がいくら着飾ったところで、中身が変わるわけでもあるまいに。無駄な足掻きだよ」
息をするように吐き出される、妹への侮蔑。
それは長年繰り返されてきた、彼にとっての日常会話なのだろう。
だが、今のエリザは、かつてのようにただ俯くだけの少女ではなかった。
彼女の美しい眉が、わずかにピクリと跳ねる。
しかし、表情が崩れることはない。
エリザは手元の扇子をパチリと優雅に開き、口元の感情を巧みに隠してみせた。
その瞳には、侮蔑よりも冷ややかな、哀れむような光が宿っている。
その時だ。
ノースの背後から、砂糖菓子が腐ったような甘い声が割り込んできた。
「ノース様ぁ、もう! 置いていかないでくださいよぉ~!」
目に痛いほどのショッキングピンクのドレスを揺らし、聖女キャスリーンが姿を現す。
彼女はためらいもなくノースの腕に自らの体を預け、その豊満な胸を押し付けるようにして絡みついた。
芳醇な紅茶の香りが漂っていたサロンに、安っぽい香水の匂いが暴力的に侵入してくる。
招かれざる客たちの登場に、部屋の空気が一気に濁り始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ノース王子……妹の部屋に土足で踏み込んだ挙句に「無能」呼ばわり。
そして聖女キャスリーン、紅茶の香りを安っぽい香水で上書きするとは、もはやギルティですね。
彼らはまだ気づいていません。
自分たちが、かつて世界を滅ぼしかけた魔王様と、その狂信的な騎士の目の前で、とんでもない不敬を働いていることに……。
次回、第15話『殺意の執事:触れてはいけない逆鱗』。
ロミナ様に向けられたノースの「ある行動」が、アステルの殺意のスイッチを完全に押し上げます。
氷の騎士が、文字通り室内を凍りつかせる瞬間をどうぞお見逃しなく!
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