第13話 離宮への引っ越し:豚小屋の掃除とメイドの悲鳴
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いよいよ今回から、ロミナ様の「メイド潜入編」がスタートします。
「爪」であるエリザの住まいは、予想以上のボロ屋敷……。
魔王様が滞在するのに相応しくないゴミ(埃と不敬なメイド)を、まずは綺麗にお掃除(物理)いたします。
指パッチン一つで世界を塗り替える、ロミナ様の圧倒的な「格」の差をお楽しみください!
翌日。
私はカステル家の豪奢な屋敷を後にし、エリザが幽閉同然に暮らす離宮の門をくぐった。
表向きの身分は、エリザ王女が実家から呼び寄せた新しい専属侍女。
そして、傍らに控えるアステルはその護衛である。
あくまでも「設定」だが、私の心にはすでに、主を守る騎士のような冷徹な覚悟が宿っていた。
「……ここが、一国の王女の住まいだと言うの?」
離宮のエントランスホールに足を踏み入れた瞬間、私は思わずハンカチを口元に当てた。
そこには、本来あるべき静寂ではなく、死に絶えたような重苦しい空気が澱んでいた。
高い天井のステンドグラスは煤け、差し込む光は濁っている。
窓枠には雪のように埃が積もり、花瓶に挿された百合は茶色く変色し、腐臭を放ちながら首を垂れていた。
これが、あの気高く美しいエリザに与えられた環境か。
呆れを通り越し、腹の底でどす黒い怒りが渦を巻くのを感じた。
「まあ、何ですの? どこの馬の骨かと思えば」
静寂を切り裂くように、耳障りな甲高い声が響く。
現れたのは、たっぷりと脂肪を蓄えた古参のメイド頭だった。
その背後には、同じように下品な薄ら笑いを浮かべた取り巻きたちが控えている。
彼女たちの瞳には、主であるはずのエリザへの敬意など微塵もない。
「無能な王女」と侮り、世話を放棄し、予算をくすねて私腹を肥やしてきた寄生虫特有の、腐った脂の匂いがした。
メイド頭は私とアステルを値踏みするようにジロジロと眺め、鼻で笑った。
「エリザ様も物好きですねえ。こんな貧相な平民上がりと、顔だけの優男を連れてくるなんて。ただでさえ寂れた離宮の品位が下がりますわ」
後ろのメイドたちが、クスクスとさざめく。
その嘲笑の響きが、神経を逆撫でする。
私はゆっくりと、純白のレースの手袋を外した。
そして、傍らの階段の手すりを、指先でツゥーっとなぞる。
指の腹には、べっとりと灰色の埃が付着した。
「品位、とおっしゃいましたか」
私はその汚れた指先を、わざとらしく彼女の顔の前へと掲げた。
フゥ、と息を吹きかける。
舞い上がった埃が、彼女の厚化粧の顔にかかった。
「ぶっ、な、なにを……!」
「よくもまあ、これほどの豚小屋を作り上げておいて、品位などという言葉が口から出たものですわね」
私の双眸が、鋭い碧色の光を帯びて輝きだす。
もはや、ただの侍女の仮面を被っている必要はない。
私は高く掲げた右手で、乾いた音を立てて指を鳴らした。
――パチン。
その音が引き金となった。
瞬間、ホールの中心から爆発的な魔力の奔流が生まれ、暴風となって吹き荒れる。
「ひゃあああっ!?」
悲鳴を上げてスカートを押さえるメイドたち。
だが、その風は彼女たちを傷つけはしなかった。
私の意思に従う風は、まるで意思を持った獣のように屋敷中を駆け巡る。
窓枠の埃を削ぎ落とし、床の汚れを剥ぎ取り、枯れた花もゴミも、すべてを一瞬にして巻き上げた。
そして、轟音と共に窓が一斉に開き、巨大なゴミの塊は遥か彼方へと弾き飛ばされた。
風が止むと、そこには劇的な静寂が訪れた。
曇っていた窓ガラスはクリスタルのように透明になり、床は大理石本来の白さを取り戻し、鏡のように光を反射している。
澱んだ空気は一掃され、清冽な風が吹き抜けていた。
「今日からここの管理は私がします。……邪魔なら消えなさい」
私はかつて「女帝」と呼ばれた頃の威圧感を隠そうともせず、氷の刃のような声で告げた。
その圧力に、メイド頭たちの顔色は土気色に変わる。
彼女たちは腰を抜かし、恐怖に引きつった悲鳴を上げながら、這いずるようにして出口へと逃げ去っていった。
「あらあら。随分と静かになりましたわね」
磨き上げられたばかりの階段の上から、澄んだ声が降ってくる。
見上げれば、そこにはエリザが立っていた。
塵ひとつない美しいホールを見下ろす彼女の表情は、長年胸に溜まっていた暗雲が晴れ渡ったかのように、どこまでも晴れやかだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「品位、とおっしゃいましたか」
……ロミナ様、最高にクールな「分からせ」でしたね!
埃をふっと吹きかけるシーンから、魔法による一斉清掃への流れ、書いていて非常にスッキリしました。
あのメイド頭たち、今頃は腰を抜かして震え上がっていることでしょう。
そして、その後ろで無言の圧力をかけていたアステルの殺気……あそこに留まっていたら、掃除のついでに消されていたかもしれません。
さて、家の中が綺麗になったところで、いよいよ外のゴミ(敵対者)たちも動き出す予感。
次回、第14話『招かれざる客:キラキラ王子と腐った聖女』。
「ざまぁ」の次なるターゲットたちが、自ら離宮に足を踏み入れてきます。
どうぞご期待ください!
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