第12話 悪役令嬢の企み:国を乗っ取るシナリオ
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目覚めた「爪」のエリザ。
彼女がロミナ様に提案したのは、国を滅ぼすことではなく「乗っ取ること」。
世間が望む「悪役令嬢」の皮を被り、本物の悪女として君臨するための計画が動き出します。
そして、ロミナ様もまた、新たな遊びを思いついたようで……?
魔王様が侍女として潜入する、波乱の第二章の幕開けをお楽しみください!
嵐のような魔力の奔流が収まった後、私たちは奇妙な静寂の中で、ささやかな作戦会議を開いた。
エリザが自ら淹れた香り高い紅茶と、彼女のグラスに注がれた年代物の赤ワイン。
湯気とアルコールの香りが混ざり合い、共犯者たちの夜を彩る。
「それで、ロミナ様? ……この退屈な世界で、わたくしに何をさせたいのですか?」
エリザはワイングラスを指先で回し、中の液体が血のような軌跡を描くのを眺めながら、妖艶に微笑んだ。
その瞳はすでに、獲物を前にした捕食者の色をしている。
「この国、今夜中に燃やしてしまいます? それとも、あの無能な国王と、豚のような兄上の首を刎ねて、この部屋に並べましょうか?」
「いいえ。国を燃やすのは最後よ」
私は優雅に首を横に振る。
アステルが差し出した紅茶を一口啜り、エリザの目を覗き込んだ。
「まずは……貴女がこの国を乗っ取りなさい」
「乗っ取る、とは?」
「そう。貴女のその素晴らしい『悪評』を利用するの」
私はカップをソーサーに戻し、悪戯っぽく、しかし冷酷に告げる。
「人間たちは貴女を『悪女』と呼んで蔑んでいるわ。なら、その期待に応えてあげなさい。単なる噂話ではなく、骨の髄まで凍りつくような恐怖と圧倒的な力で民衆を支配し、腐敗した教会も、惰弱な王族も、すべて貴女のヒールの下にひれ伏させるの。……『爪』である貴女なら、造作もないことでしょう?」
私の言葉が鼓膜に届いた瞬間、エリザのエメラルドの瞳が、ギラリと妖しい輝きを帯びた。
それは、退屈なお遊戯の時間は終わりだと告げられた、残酷で無邪気な子供の目。
彼女の魂の奥底で、破壊への渇望が歓喜の声を上げている。
「……最高ですわ。ゾクゾクします」
エリザは手元の扇子を、バッ! と勢いよく開いた。
それはまるで、ギロチンの刃が落ちるような、鋭く小気味よい音だった。
「無能なふりをして、馬鹿な兄や父に従う茶番には、もう吐き気がしていましたの。……ええ、ええ! 喜んで!」
彼女は扇子で口元を隠したが、そこから漏れ出る愉悦までは隠しきれていない。
「オーッホッホッホ! すべてお任せくださいまし! これからは、誰もが名を呼ぶだけで震え上がり、地面に額を擦り付ける……『本物の悪女』になって差し上げますわ!」
夜の離宮に、高らかな高笑いが響き渡る。
それは、この国を揺るがす革命と混沌の始まりを告げる、美しい魔女のファンファーレだった。
*
東の空が、インクを垂らしたような群青から、淡い紫へと溶け始める頃。
夜の魔法が解ける時刻が近づいていた。
私たちは名残惜しくも、撤収の準備を整える。
「またすぐに会いに来るわ。……私の可愛い『ご主人様』としてね」
バルコニーの手すりに手をかけ、私が今後の計画――カステル家を出奔し、この離宮にエリザの専属侍女として潜り込むこと――を告げると、エリザはエメラルドの瞳を丸く見開いた。
一瞬の呆気にとられた沈黙の後、彼女の頬に熱っぽい朱色が差す。
「まあ……! 絶対君主である魔王様を、一介の侍女として傅かせるなんて……」
彼女は身震いし、自身の二の腕を抱きしめた。
その瞳は、不敬への恐れよりも、背徳的な喜びに潤んでいる。
「なんて冒涜的で、ゾクゾクするご提案でしょう……!」
「ふふ。精一杯、こき使ってちょうだい。無能なふりをするのも、たまには良い余興だわ」
「ええ、ええ、もちろんですわ! (全身全霊の敬愛を込めて)虐げて差し上げます!」
歪んだ主従の契約が成立する。
アステルが再び私を軽々と抱き上げ、牙が影に溶ける。
私たちは朝霧に紛れるようにバルコニーを蹴り、薄明の空へと身を躍らせた。
残されたエリザは、主の気配が完全に消えるまで、その場に佇んでいた。
やがて、雲の切れ間から一筋の朝日が差し込み、彼女の真紅の髪を焼き付けるように照らし出す。
夜明け。それは通常、希望の象徴だ。
だが、今の彼女にとっては違う。
エリザはゆっくりと、自身の艶やかな唇を人差し指でなぞった。血の味を思い出すように。
「さあ……楽しい楽しい、『復讐』の時間ね」
脳裏に浮かぶのは、これまで自分を「無能」と嘲笑い、ゴミのように扱ってきた豚のような兄や、清廉潔白な顔をして彼女を断罪した聖女たちの顔。
彼らがその余裕ぶった仮面を剥がされ、恐怖と絶望に顔を歪めて命乞いをする様を想像するだけで、脳髄が痺れるほどの快感が駆け巡る。
悪役令嬢は、昇る太陽を睨みつけ、誰よりも美しく、そして邪悪に微笑んだ。
その影は、国一つを飲み込むほどに長く、濃く伸びていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「魔王様を、侍女としてこき使う……!」
不敬への恐怖よりも、その背徳的なシチュエーションにゾクゾクしてしまうエリザ様。
彼女もまた、相当な「逸材」ですね(笑)。
世間から「無能」と見なされていた彼女が、ロミナ様をバックにどう暴れ回るのか。
そして、これまで彼女を虐げてきた「豚のような兄上」や「清廉な聖女」が、どのような絶望を味わうことになるのか……。
次回、第13話『離宮への引っ越し:豚小屋の掃除とメイドの悲鳴』。
いよいよロミナ様のメイド生活がスタートします。
まずは、離宮に巣食う不届きな使用人たちのお掃除(物理)から!
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