気まぐれ企画 息子に異世界転移させられてしまったらしい?
気まぐれシリーズ第二弾は、本編ではあまり出ていなかった夫婦であります。
興味が湧いた奇特な方は、完結した本編を探してみていただければと思います。
発端は、女房の真剣な相談だった。
「ようやく、雅もエンも、割り切ったみたい。子供が独り立ちしたら、私たちと一緒に、旅行しようって、言ってくれたんだけど……どうしよう。面白い旅行先に、心当たりがないんだ」
「地球の国は、昔大方回っていたはずだな? 現代ではあそこまで面白味はないからな……分かった。色々と調べてみよう」
愛妻の相談に頷き、真顔で行動に移した旦那は、少し後悔していた。
「……すまない、メル」
「……」
「まだ、未発達の国だとカスミが言うので、別な警戒はしていたのだが、こちらの警戒はしていなかった」
「……うん。まず、カスミに相談したのは、間違いだったと思うよ。だって、エンたちとの旅行って、言っちゃったんでしょう?」
メルの珍しく冷静な問いに、クリスは固い顔のまま頷いた。
確かに、カスミの息子夫婦と、新婚旅行の代わりに、どこか行く計画をしていると話した。
それに、時期も決めていないとはっきり言っておいた。
今日は、その場所の下見をしないかと、カスミに提案されて、夫婦は久しぶりに揃って外に出たところを、地面に現れたまばゆい光に捕らわれた。
視界に広がる草原と、周囲を囲む森。
見たことのない木々が無造作にはびこるそこは、間違いなく初見の国だった。
「……というかここ、地球?」
「違うな。あんな生き物、オカルト界隈の話でしか、見たことがない」
赤みがかった空を見上げるメルに、クリスは冷静に答えてそれを見た。
全身茶色の人型の生き物が、石器で作った鈍器を片手に、こちらに向かってくる。
「ひい、ふう、みい……ちょっと、人数が多いな。どうしよう」
どちらかというと戦闘要員のメルだが、倒せる人数は限られている。
こちらは戦力では期待できない旦那と二人きりで、小柄な少女じみた自分一人では、正直厳しいのだ。
「ゴブリン、という奴だろうか。話によっては、一匹でも取りこぼしたら、後からまた色々と厄介な生き物だとあった。だが……私には、取り柄があまりない」
クリスは溜息を吐いてメルを見下ろした。
東洋系の男で長身のクリスだが、男の割に力は弱く、防御と再生能力を他人に与えられるというだけが取り柄だ。
これでは、あの生き物を相手にする女が疲れても、守ることしかできない。
「だから、疲れなくていい。あの生き物の興味がそがれるまで、私から離れないでくれ」
クリスは、メルをそっと抱き上げて囁いた。
「んっ。そうする。今日は、下見だもの。雅たちと来た時に、大暴れするから、今日はクリスに任せる」
軽く抱き上げられた女は微笑み、すぐに男の首に両手をまわして縋りついた。
カスミの父、クリスは防御に徹した体質だ。
赤みがかった髪の小柄な少女じみた女房も守るためならば、意識しなくともその威力を最大に発揮できる。
無防備に立ち尽くす男が抱きかかえる少女に目を付けたゴブリンは、一斉に襲い掛かることで少女を奪って、男はさっさと餌にする予定だった。
が、襲い掛かった全員が、訳も分からないままにはじけ飛んで行った。
二人には、返り血一つかかっていない。
メルは、とびかかった生き物全員が、自分たちの半径一メートルの範囲に至った時、クリスの防御がはじいた瞬間を見た。
「……」
「ん? 静かになったな」
「そだね」
女房の匂いを堪能していたクリスは、その瞬間を見逃した。
だが、生き物のなれの果てを探すつもりもなく、次にやらなければならないことを切り出した。
「帰る方法を見つけなければな。お前が戻らなければ、ヒスイが心配する」
「私だけじゃなく、あんたのことも心配するよ、きっと」
そうして二人は、帰る術を探す旅を始めた。
後日、魔王夫婦が世界旅行しているという話が、その世界で出回り始め、更なる混沌が生まれた。
あの男の父親なので、只者ではないのです。




