第41話 タロットカードと私 -その1-
「なにかご用がありますときは部屋を出て右にお進みください。小生の執事室がございますので」
老執事はそれだけ伝えるとドアを閉めた。
「ふぅ、疲れたぁ~~~」
灰色のミドルローブを脱ぎ、壁にかけられたハンガーに吊るし部屋をぐるりと見渡す。
「終わったぁ~~」
六~七畳くらいの室内、壁に掛けられた照明用の魔導具は全部で三つ。
仄かな明かりを生み出していて明かりの下、ベッドにテーブル、椅子、壁には風景画が二点飾られていて昼と夜の街並みを高台から描いた作品。
「すっきり出し切ったぁ~」
テーブル上には陶器製の魔導具ポット、カップ&ソーサー×2客、茶葉缶等々。
茶色の魔導具ポット・熱々君(勝手にそう呼んでいるだけ)の口からほんのり湯気。
「うん、溜まっていたストレスもドバッと出し切りましたっとぉ~」
パッと感じた雰囲気的に客人用の部屋ではなく『呼び寄せておいて申し訳ないけど、あまり人目につくと困るんだよね~』的なお部屋。
「それよりもぉぉぉ~」
まん丸メガネを外しテーブルにそっと置く。
「とぅっ!」
――バフゥ~ン――
ベッドにダイブ。
「はぁゴロゴロ~ゴロゴロ~♪」
左右にローリング~。
部屋の等級は下がるものの、さすがお貴族様の持ち物だけあってベッドは極上でふんわりもっちりふかふか。
それに白いシーツの肌触りも気持ちいいし、変な臭いもしなければ汚れもない。
「持ち帰りたいな~はぁゴロゴロ~」
――ドン――
「痛っ」
勢い余って床に落ちた。
床、土足の室内なのにホコリ一つ落ちていない。
「はぁゴロゴロ~♪」
床でもローリングゥ~。
なんとも無垢の板材フローリングが気持ちいい。
「このまま寝てもいいよね、パトラッチュ」
「うん、いいだワン!」
「プッ」
しょーもない独り言に笑いが出るよ。
まっそれだけ、緊張から開放された証拠――なんだよね。
「はぁゴロゴロ~♪もっとゴロゴ…………」
身体を起こす。
ドア付近を見る。
壁を見る。
絵画を見る。
レースカーテンの先、窓を見上げる。
ぼんやり夜空が見える。
いる。
気配、ある。
「誰?」
「いるのでしょ?」
いる。
確実にいる。
「覗き見して、楽しい?」
「人のプライベートを見て、面白い?」
「主たる私が命じます。名を明かしなさい」
うっ。
背後。
いる。
たしかにいる。
「流石は主」
「その声は――」
「なに、其方が戻し忘れただけのこと」
「えっ!?」
「もう一枚はたしかに戻した」
「あっ」
「誰にでも失敗はある」
「……」
「あの時は緊張していて気がつかなかった。それだけのことだ」
「そうね……占いに集中していて手元が狂ったみたい」
私の背後、いるのは『DEATH./死神』
「対価はいかほど?」
「我の口から言わすのか?」
「駆け引きは得意じゃないから」
「フンッ、三枚だ」
私は立ち上がりハンガーに掛けたローブの内側に手を入れ、小袋から銅貨三枚を取り出し、左肩に置いた。
「頂くとしよう」
すぅっと銅貨は消えた。
タロットカード、私の意志に関係なくめくると呼び出してしまう事象が多々あって、原理がはっきりしない。
それでも一つ言えるとすればめくらない限り呼び出せなく、それだけは絶対法則。
「部屋の片隅で見物させてもらった」
「やっぱり覗いていたんだ」
「しかたなかろう、其方がめくったまま忘れていたのだから」
「まぁそうだけど……」
「あやつらとの対話、中々に面白かったぞ」
「それはどうも」
「それと、さきほどの狂気に満ちた行動は我等には理解しがたいな」
「ってめぇ……」
「小娘の粋がり、良いものだな」
「……っ」
悔しいけど向こうの方が一枚も二枚も上手。
「立ち話もなんだ、茶の一杯でももらおうか」
「なんともお上品な御方ですこと、オホホホッ」
嫌味を一つ。
まぁ私も喉が乾いていたから丁度いい。
テーブルに置かれたソーサーにカップを置き、魔導具ポット・熱々君から湯をカップに少量入れ温める。その間、茶葉缶を開け準備。香りからしてダージリンに近い。
「カップ半分で良いぞ」
「どうして?」
「いまは深夜、飲み過ぎは寝れなくなるからな」
「んまぁ~なんて健康志向なお人でしょうか~」
「長生きしたいものでな」
「んっ!?」
「夜が更けたら、睡眠の質を上げるためにもカフェイン摂取は極力避けるべきだろ?」
「んんっ!?」
「なにか変なことを言ったか?」
「いえ、なんでもありません……死神様」
うん、向こうが半分だとこちらも半分にしないと負けた気がする。なんとなくだけど。
てかその前に、いろいろとツッコミ処の多い会話。
会話中も手を動かし二人分を作り片方をテーブルの端に置き、もう片方を手に取り椅子に座り、身体を窓辺のほうへと向ける。
あやつの飲む姿、見てみたい気もするけど見たら見たで後で面倒事が待っているのは必至。
「さて、話は変わるがいろいろと聞かせてもらうか」
「なんで?」
「ふむ、なぜ感情が昂っているのだ?」
「そっそんなの、人の恥ずかしいところを見ておいて詫びの一つもないんだから当然でしょっ」
「たしかにそうだな。不慮の事故とはいえ、すまなかった」
「随分と素直ね」
「そうか?」
「そうよ、もっとグチグチ悪あがきをして悪役を演じて欲しかった」
「そうか……人の心に寄り添えず、すまぬな」
「わかればいいのよ……」
二度も謝らせてしまいちょっと罪悪感。
「話は戻るがどうだったのだ?」
「それは――」
占いの内容、説明が難しく長くなるのは必至。それに、宴の準備段階から話さないと理解に苦しむだろう。
少し時間を頂戴と告げ、頭のなかでいったん整理してみる。
1)冒険者ギルドより指名の依頼あり。
2)内容は、貴族が主催する宴の裏方の裏方で報酬は悪くない。
3)宴当日の朝、同じく雇われた人たちからチクチクされ終日続き、裏方に徹する。
4)仕事ぶりを評価されたようで次の日も呼ばれる。
5)二日目、朝から宴の後片付け。その後、グランホルム家当主と庭園でお茶&老執事と会話。当主、目が見えないと知る。
6)帰宅後、助言を求めカードを引き『./法王』を引き当て「私の元で仕える気はないか?」について話す。
7)『./法王』的にはオッケーしても良いのでは?
8)三日目の午後、やんわりお断りを伝える。
9)ブリッタ・フェン・マーベラ・メルネス・グランホルム、通称『嘆きの令嬢』ことメルネス様との会話の中、雑貨店主アンネリケさんと二人は繋がりがあると確信。
10)魔法が使えず、魔術も展開しかできないと明かし、なんやかんやで占いする流れに。
11)館からの帰り道、気づく。この国に来て一度も占いの話をしていないのにメルネス様は「占いが得意と聞き――」
12)二日空けての本日夜、占い。
13)親族である領主の後継者問題にどう立ち回るべきか――。
14)占い内容と共に、私個人の意見を聞かれ率直に申し上げる。長女を支持すべきと。また、タロットカードもそれを示唆しているとも伝える。
15)占い後、用意された部屋でゴロゴロを誰かさんに覗かれる。
とまぁこんな感じか。
ほかにも細々とした点があるけど要点のみを伝えつつ補足しよう。
おっと、二日目の昼食で頂いたミートソース風パスタと温野菜がめちゃくちゃ美味しくて、腹パン手前まで食した事実も伝えよう。
ぬるくなった紅茶を一気に飲み干しカッとテーブルにカップを置く。
「準備、できました」
「では話してもらおうか」
「はい――」




