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黒髪の魔女は優雅に魔術を詠む  作者: 緑乃ぴぃ
黒髪の少女は時(ものがたり)を紡ぐ(つむぐ)
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第40話 嘆きの令嬢は世界を観る -その6-


 無事にお花摘みから戻り椅子に座るやいなや私は口を開いた。

 長女様を支持すべきと。

 私は言った。

 途中で意見を止めることなく最後まで私の考えを聞いてください、と。

 老執事は渋い顔をするもメルネス様は了承してくれ、話す機会をくれた。

 難しく考える必要はありません。ただ、流れに身を任せ聞いてくださいと付け加えて。

 次男様、三男様ともに優劣付けがたく、人望も厚く、優秀な人材とお聞きしています。

 ゆえに長女様を支持すべきと。


「ルチア殿、その発想からして小生(しょうせい)の考える範疇(はんちゅう)を超えております」


 よほど自分が考えている範疇からの逸脱だったのだろう、即効で意見をしてきた。

 でもここで話を止めるわけにはいかない。


「普通に考えればそうです。ですがよ~く考えてください」


 私はタロットカードの束の中から二枚を引き出しテーブルに置き、口を開く。

 一枚は『THE SUN./太陽』

 もう一枚は『DEATH./死神』

 カード内容を説明するまでもなく、絵柄を見ただけでどのような意味を含んでいるのか理解できると思います。


「メルネス様に代わって拝見しますが、二枚共にどういった意味を含んでいるのか容易に想像できる絵柄」と、軽くうなずきながら老執事は言うと腕を組み白髭を撫でた。


 私はまん丸メガネのフチをクイッて上げ、老執事に向けて言った。

 簡単な話です。天国と地獄しかないのです。

 つまり、次男様、三男様どちらか一方に肩入れすれば半々の確率で引く未来が待っています。この『DEATH./死神』のカードを。

 半々の確率、もしかしたら針の穴にティーカップを通すような奇跡が起きれば話は別ですが。

 ですが長女様に握手を求めれば、どちらとも味わうことはないのです。


「ルチア殿、貴女の考えでは跡目争いに関わらず、ただベッドで熟睡せよと?」

「熟睡できるのなら進んで眠りにつきますが、実際はそうもいかないでしょうね」


 私は首を左右に振り、さらに続けた。

 次男様、三男様、共に優秀、なら話は早い。

 争いは長引き、共に疲弊するでしょうね。

 もちろん争いは僅差(きんさ)の差で進むでしょう。

 だって二人とも優秀なのですから。

 さらに支持する貴族や裕福な商人の人数が拮抗(きっこう)していると聞いていますので、“事”が余計に長引く原因となるでしょう。


「……」


 口を(つぐ)む老執事。

 私は続ける。

 しかし長女様はどうでしょうか?

 自ら跡目争いから降り、街の外縁(がいえん)の館で“事”の成り行きを傍観(ぼうかん)

 争いの最中、のんびり庭園で優雅にお茶をする時間すらあるでしょう。

 もちろん、ベッドで熟睡できる時間さえたくさんあります。

 だって長引くのですから。


「ルチア様には先の未来、展望が見えるのですか?」

「展望といいますか、次男様、三男様ともに優秀なら争いは長引き、どちらが勝利者になってもシコリが残るのも明白。おのずと長女様を頼らざる負えない状況に陥ってしまうかと」

「負えない状況とは?」

「両者は白黒はっきりさせたい。しかし支持する貴族、商人らはいつまでも争い事に巻き込まれたくないと考えるのが自然。そこでこう世間に吹聴(ふいちょう)するのです「どちらが跡目を継いでも血の雨が降ってしまう。それでもいいの?」と、そんな流れができればあとは身を委ねるだけでも十分かと」

「つまり、両者が疲弊し、どちらか一方が情勢有利――そう、領主の館の壁に掛けられている【領地統治状】に手が届く所まできたなら“長女を説得”し、次男か三男かの陣営に加わるまたは、鞍替えをして、この難局を乗り切ると」


 頭の回転が早くて助かる。

 というか相当この人、優秀。

 この人が領主になればいいと思う。


「先を見据えての長女支持、理解しました。あとはどの時点で介入するかが重要ですな」

「こちらの価値を最高に跳ね上げた場面で売るのであれば『介入をする』ではなく、向こう側から『介入をしてほしい』と言わせられるように“ひと手間”を考えましょう」

「ひと人手間ですか……」

「そうです。金と労力を惜しまず注ぎ込めば、跡目争いの真の勝利者となるでしょう」

「ふむ」

「手厳しくなりますがこの策は、愚行の極みかと」

「愚――行!?」


 老執事は目をカッと見開き、前に身を乗り出し『なにを言っているんだコイツ!?』と言いたそうな雰囲気。

 そんな彼の目元に視線を向けながら「人の世の道理は、直に進まないのが人の道理」そう口火を切る。

 勝ち馬に乗れば将来安泰。

 こちらが望む役職も叶うでしょう。

 グランホルム家の者は先見の目があると評され、領主の右腕も夢ではありません。

 だってそちらが“介入して欲しい”と願い出てきたのですから、こちらの願いを叶えるのが“貴族としての責務”。

 このひと言に、反論はできないでしょう。

 ですがそれは、短期的利益のみ。

 中長期的に見れば負の側面しかありません。


「……」


 険しい表情の老執事。

 そりゃそうだ。

 互い(老執事、私)に最善の策と一致し、自ら(私)も口にしていたのに、自ら(私)の口で否定したのだから。


「簡単なことです」と、イヤらしい笑みを浮かべながら告げ、一気に畳みかける。


 敗れた側からすると「ヤツらは金を遣わず時間を労せず、保障された地位を奪った簒奪者(さんだつしゃ)であり真の敵」と陰口を叩かれ、勝ち組からは「ヤツらは信用できない。なぜなら、勝てると知り得てから参戦してきた卑怯者で臆病者」と評されるのは明白。

 それでも参戦されますか?

 ゆえにどちらにも肩入れせず、勝ち馬にも乗らない――最善の策かと。


「……ルチア殿は、その通りに“事”が運ぶとお考えで?」

「では執事の貴方様にお聞きいたします。勝ちが見えた段階で取り入ってきた人物を、貴方は信用されますか?」

「ぐっ――」


 言葉に詰まる老執事。


「確実とは言えないまでも反論できない時点で、その通りに“事”が進む確率は高いかと――」

「……」

「さらに付け加えるなら、優秀な人材ほど行動が読みやすいのですよ」

「なんとも奇怪なお考えですな……」

「単純な話です。人より秀でた者の行動には迷いや、ミス、回り道、余計な選択肢らが極端に少ないのです。ゆえに、自分に最も有利な、旨味のある、低コストかつ高品質な選択肢を選びがちになります。だって優秀なのですから」

「っ……」


 突と唇を噛む老執事。

 私は畳みかけるように「才ある者の次の一手、読みやすいと評さざる負えませんね」と、小さじ一杯分の演技を混じり入れ口にした。


「……ルチア殿、一つ尋ねます。才ある者でしたら相手の弱点を見つけ、卑怯な手段、(から)め手をいくつも考えつくでしょう。なにせ、優秀な者ですから――」

「たしかに――そうですね。ですがそれは、“凡人”が相手という前提があって成立する話。しかし今回は『優秀な人材』vs『他者より秀でた人物」らの争い、隙があろうとも即座にリカバリー対応をするでしょうし第一、隙自体があるでしょうか?」

「ぐっ……」

「チェスの達人たちの試合は、少ない手数で勝負が決まるケースが多々あります。それって、数十手先を読み合うからこそ成せる技。それと一緒です」

「たしかに、チェスの神に認められし者たちの試合は、極端に少ない手数で勝敗が決する。つまり、何通りもの攻めるルートがあるように見えて実は、選択肢は少ない――互いに優秀な者たちゆえに……」


 本来なら首チョンパになってもおかしくない発言ばかりだけど、メルネス様はそんな指示をしないと思うから言い切れる。


「では、その後の展望はいかように?」

「展望といいますか最も優先すべき事柄は、貴方様の主がいまの生活に満足されているのなら、それを一番実行できそうな者を支持すべきかと」


 そのひと言に再度グッと固まる老執事。

 対して私は言葉巧みに朗々と語る。

 でも、自分の考えはほとんどない。

 小説やアニメ、マンガ、映画で見知ったストーリー展開を、相談内容に当てはめているに過ぎず、最も現実的に進むであろうルートを口にしているだけ。


 私は身を乗り出しさらに言った。

 メルネス様は平穏な生活を維持したい。

 なら、それに共感してくれる人を選ぶべき。

 “最終的”に次男様、三男様のどちらからを選べば否が応にも争い事に巻き込まれ、それはメルネス様が望まれていなくとも。

 さらに次男様、三男様のどちらかが勝っても、長女様を支持した者に厳しい処遇は行われないでしょう。


「なぜそう思われるのですか?」

「これも簡単な話です。牧場の端で草を食い摘んでいる雄牛のお尻を叩くようなものです。近づかなければ、叩かなければ、なにも起きません。自ら叩きに出向いて被害を被りたいのなら話は別ですが」


 プッと笑うメルネス様。


「それに、なにも害を及ぼしていない者を罰すれば、領地運営に多大なる支障をきたすのは明白であり『愚作の領主』とあだ名が付くでしょうね」


 ブッと笑うメルネス様。

 また笑いを取った。


「そしてこれが、私が一番に長女様を支持する理由で、共に数百名の支持者がいるなかにグランホルム家が名乗りを挙げても“一つの(どうぐ)”に過ぎません。それに対し長女様側は、親交のある貴族と数名の商人と聞いております。どちらがメルネス様の価値と存在と発言を、高く評してくれるのか、考えるまでもないかと」

「むむ……むぅ……」

「間違ってもらっては困るのですが、私はあくまで“長女様に(こうべ)()れる”とし、“長女様を利用”して次男様、三男様に媚びを売るつもりはないと――」

「むぅ……」


 ただ唸る老執事の横、メルネス様はひと言も言葉を発していない。

 まるですでに結果を導き出しているかのよう。

 私の、深読みし過ぎでなければ――。


「メルネス様は――いかがお考えでしょうか?」


 振ってみる。


「私?」

「はい……」

「そうね……」

「……」

「ルチア、すでに答えは出ているのでしょう?」

「答え?」

「そう」


 やっぱりお見通しか――。


「タロットカードは示したのでしょう?」

「――はい」


 六芒星(ろくぼうせい)、ヘキサグラムとも呼ばれる形で置かれたカードは七枚。

 そのうち、男性が描かれたカードは左下の『未来』に置かれた『THE HIEROPHANT./法王』のみで、他は全て女性が描かれている。

 なんちゃって趣味占いでやってきたけどこんなの初めてで、場を見た瞬間、心が震えた。

 そして一番重要な中央『最終予想』に置かれたカードは『THE EMPRESS./女帝』

 カードの名前通り高い地位の女性を示し、金色の髪に載るは黄金の冠で12個の六芒星が輝いていて、彼女はゆるりとクッションに身体を預け、こちらを見る。

 足元には稲穂の実りが豊かに広がり、生きる糧とひとときの喜びをお与えになりカードの御心を受け入れ肯定すれば、さらなる繁栄と豊かな実りを約束してくれる。

 我々がすべきことそれは、胸に手を当て、床に膝を付け、目を閉じ(こうべ)()れること。


「私は長女様の人柄を存じ上げませんが、己の将来に多大なる影響がある跡目争いを、ただ黙って指を食わえて眺めているとは到底思えません」

「そうでしょうね」

「次男様三男様の動向、事の流れ、周りの雰囲気、それらをのんびり傍観を装い、精査していると――私は推測します」

「ルチア――」

「はい」

「――と」


 言葉に詰まるメルネス様。


『なんでしょうか?』と聞く勇気が、私にはなかった。


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