第36話 嘆きの令嬢は世界を観る -その2-
「ルチア的にはどうしても気にかかるのだね?」
『THE HIEROPHANT./法王』は語りかけるように言葉をくれる。
「悪い話ではないと思うがやはり、貴族と繋がることの危険性を加味して保留にしたのだろう?」
宿に帰宅後、寝間着に着替え、ひと息付くと大アルカナカード群から一枚引いた。
そう、助言を求めるために。
自然に包まれた庭園にて、ラプンツェル物語を話し終えた後、白髪混じりのグランホルム家当主、ブリッタ・フェン・マーベラ・メルネス・グランホルム様は言った。
私の元で仕える気はないかと。
給金は弾もう。
身の保証もしよう。
紙芝居とやらの作成費を捻出してもかまわないとまで口にした。
普通に考えればお断りする理由はまったくなくて「一度宿に帰って考えさせてください」なんて曖昧な発言はしない。
私は即断できなかった。
理由は『./法王』が口にした通りで、できることなら貴族と関わりを持ちたくないと思っている。
「ルチア、私をこの場に呼び出せたのも報酬があってのこと、違うかね?」
「そうですけど……」
「信頼できる人物と見受けたのだろう?」
「はい……」
「なら、身を預けてみるのも悪くないと思うが……」
「そうなんですけど……」
「……なんとも人の心というものは、難しいものだな」
「ですね……」
「ルチア、もう一杯、頂けるかな?」
テーブル上、ほのかに香るはアールグレイ。
陶器のカップが二つ分、仲良く並ぶ。
時間が少し経ち冷めてしまい、元いた世界なら捨てて新しく作り直すところ。
でも、いまの状況を考えるとそんな贅沢は口が裂けても言えない。
残りのティーパック数、いつの間にか二十を切っていた。
どのカードが言ったのか覚えていないけど、美味しい茶葉を見つけたら報酬を出すと言ってくれ、大げさかもしれないけど生きる意味を見出した頃もあった。
カードの舌を満足させる茶葉を見つけるだけで報酬なんて『余裕ぢゃん♪』と考えていたけどその約束、いまだ叶えられずにいる。
「ルチアにとってこの世界の理を、如何様に解釈するかね?」
“理”たしか、物事の道筋、道理、そんな言葉と記憶している。
はいそうですかと答えられるもんじゃないと知った上で問いかけているように思え、どちらにせよ口を噤む他ない。
たしか『./法王』のキーワードは、教養、道徳性、秩序を重んじ保守的で、現実的で地に足を着けた考え方をする――なら、善良と思われる貴族の庇護下に、腰を据える考えを持つのは当然といえば当然だ。
――ニャ~ン――
私の太股の上、子猫のミーケは小さく鳴いた。
目元を擦り小さくあくび。
起こしてしまった。
「ミーケ、私はどうしたらいいと思う?」
「ニャッ?」
「教えて」
「ニャアニャアニャー」
「……ふむふむ、なるほど……」
「ニャ~……」
「そうなるか……」
「ニャ……」
「やっぱり……だよね」
「ニャァ……」
ミーケ、睡魔に捕まったようで太股の上でクルリと体を丸め目を閉じた。
「ルチア、いつの間に猫語を覚えたのだ?」
「……すみません、適当です」
「……フッ」
「いろいろあって疲れました。眠いです。明日、返事をするの面倒です、代わりに行ってほしいなぁって――」
「ふむ……」
「このまま寝落ちしても――」
あれ!?
ん~!?
そうだ。
もう一杯、お願いされたのに忘れ――。




